「うちも、新収益認識基準に対応しないといけないのか」
経理の責任者から、社長からも、よく聞かれる問いです。
続けて出てくるのが、「NetSuiteを入れれば片づくのか」。
新収益認識基準とは、売上をいつ・いくらで計上するかを、5つのステップで定めた会計基準です。
日本では「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)として定められています。
NetSuiteは、この計上の処理をルールで自動にできます。
ただし、何をどう計上するかのルールは人が決めます。
では、どこまでを仕組みに任せ、どこからを人が決めるのか。
その線の引き方で、導入の手間も、監査での説明のしやすさも変わります。
この記事で分かること
- 新収益認識基準の要点(5つのステップと適用の時期)
- 従来の日本の実務との違いと、計上の時期が変わる例
- NetSuiteのARMで自動化できることと、人が決めること
- Excelで足りる会社と、仕組みが要る会社
- 導入の費用と期間を左右するものと、よくある失敗3つ
新収益認識基準の要点
5つのステップ
基準は、収益を次の5つのステップで認識するとしています(第17項)。
| ステップ | 中身 | 経理で起きる作業 |
|---|---|---|
| 1 | 顧客との契約を識別する | 契約の単位を決める |
| 2 | 契約の中の履行義務を識別する | 製品・保守などの要素に分ける |
| 3 | 取引価格を算定する | 値引きなどを反映した金額を決める |
| 4 | 取引価格を履行義務に配分する | 独立販売価格の比率で振り分ける |
| 5 | 履行義務を充足したときに収益を認識する | 引き渡しや提供の時期に計上する |
履行義務とは、契約で顧客に提供すると約束した商品やサービスのことです。
その義務を果たしたときに、売上として計上します。
ステップ4は、独立販売価格の比率で配分するとされています(第66項)。
詳しくはNetSuiteの収益配分(Revenue Allocation)とはで扱っています。
適用の時期
基準は、2021年4月1日以後に始まる事業年度の期首から適用されています(第81項)。
2020年4月1日以後に始まる事業年度の期首から、早めに適用することもできました(第82項。出典:企業会計基準委員会、2026年9月確認)。
従来の日本の実務との違い
| 比較の軸 | 従来の日本の実務 | 新収益認識基準 |
|---|---|---|
| 売上を計上する時期 | 出荷基準・検収基準など、会社ごとに多様 | 履行義務を充足した時点 |
| ルールのそろい方 | 会社ごとに違う | 5つのステップでそろう |
| 求められる管理 | 比較的シンプル | 履行義務の識別と、取引価格の配分が要る |
1つの契約に、製品の納品と保守が含まれることがあります。
その場合、それぞれに取引価格を振り分け、義務を果たす時期ごとに計上します。
手作業で負担が大きくなるのは、この部分です。
計上の時期が変わる例
製品と1年間の保守を、合計120万円で4月に売ったとします。
独立販売価格の比率で、製品に96万円、保守に24万円を配分したとします。
配分の形を図にすると、次のとおりです。
| 月 | 従来(出荷の時点で全額) | 新基準(履行義務ごと) |
|---|---|---|
| 4月 | 120万円 | 製品96万円+保守2万円=98万円 |
| 5月〜翌3月 | 0円 | 保守を毎月2万円 |
| 1年の合計 | 120万円 | 120万円 |
※金額は説明のための架空の例です。
1年の合計は同じです。
変わるのは、月ごとの売上の形。
月次の予算や、営業の成績の数え方にも響くため、経理だけの話では終わりません。
対応が必要な会社
主な対象は、公認会計士や監査法人の監査を受ける会社です。
中小企業の会計に関する指針は、次の会社を自らの対象から外しています。
- 金融商品取引法の適用を受ける会社(上場企業など)と、その子会社・関連会社
- 会計監査人を設置する会社と、その子会社
これらの会社は、監査を受けるため、会計基準にもとづいて財務諸表を作ります。
(出典:日本税理士会連合会ほか「中小企業の会計に関する指針」、2026年9月確認)
対応しなければ、財務諸表の信頼性が問われ、監査でも指摘の対象になります。
すべての中小企業に、ただちに対応が義務づけられるわけではありません。
ただ、上場の準備や、親会社・取引先の要請で対応を求められることはあります。
自社が対象かどうかは、顧問の会計士・税理士に聞いてください。
売上の計上の基本は、発生主義とはで扱っています。
NetSuiteで自動化できること
NetSuiteで収益認識を自動化するのが、ARM(Advanced Revenue Management)です。
Oracleのヘルプでは、ARM(Essentials)はルールにもとづいて収益の予測・認識・振替・繰延・監査を自動化すると説明しています。
収益認識の機能は、請求や入金と切り離して収益を認識し、将来の期間に繰り延べられます(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
5つのステップとARMの記録
| ステップ | ARMで使う記録・機能 |
|---|---|
| 1 契約 | 収益契約(Revenue Arrangement)。記帳はしない |
| 2 履行義務 | 収益要素(Revenue Element)。1つが1つの履行義務 |
| 3〜4 価格と配分 | Revenue Allocation(追加の機能)で公正価値にもとづき配分 |
| 5 認識 | 収益認識ルールと収益認識計画(どの期間にいくら計上するか) |
出典:Oracle NetSuiteのヘルプ(Advanced Revenue Management)(2026年9月確認)
計上のルールの型
ヘルプでは、収益認識ルールの認識方法として、定額の4種類とカスタムが挙げられています。
計上の金額のもとには、次の3つがあります(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
- 請求などの金額の割合
- 出荷した数量の割合
- プロジェクトの進捗率
保守は期間で定額、製品は出荷の数量、工事はプロジェクトの進捗率。
このように、要素ごとにルールを変えられます。
ARM全体は、NetSuiteの収益認識(ARM)完全ガイドで扱っています。
契約の変更と監査
長期の契約では、途中で期間や金額が変わることがあります。
NetSuiteでは、元の取引で数量や価格が変わると、実績の収益認識計画も更新されます。
予測の計画にも、その変更が反映されます。
(出典:Oracle NetSuiteヘルプ「Revenue Recognition Plans」、2026年9月確認)
取引と契約の情報がシステムに残るので、監査で証跡を示しやすくなります。
自動にすること、人が決めること
ここまでをまとめると、線は次のように引けます。
人が決めるのは、契約の型、履行義務の分け方、要素ごとの計上のルールです。
会計士と一緒に決め、従来の実務との違いもこの段階で洗い出します。
NetSuiteのARMは、決めたルールに沿って、配分・計上・繰延・契約変更の反映を回します。
上が決まらなければ、下は動きません。
収益認識の持ち方を比べる
| やり方 | 中身 | 向く会社 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| A. 会計ソフト+Excel | 契約ごとに計上の表を作り、仕訳を入れる | 契約が少なく、要素も単純 | 表の更新漏れ、根拠が散らばる |
| B. 請求のツール+会計ソフト | 請求は専用ツール、計上は会計ソフトで | サブスクが中心で、按分が少ない | 境目の突き合わせ |
| C. ERPのARMで一元化 | 契約・要素・ルール・計画を1つに持つ | 契約が多く、要素の組み合わせも多い | ルールの設計が要る |
Cのように計上の計画と実績が1か所にそろうと、次の使い方も見えてきます。
繰延収益の残高や、計画と実績のずれを、AIに点検させる使い方です。
AとBでは、契約と計上が別々の場所にあるため、そこまで届きません。
判断の物差し
NetSuiteのARMが向いている会社
- 製品・保守・サービスを束ねた契約が多い
- 上場を目指している、または監査法人の監査を受けている
- 契約の件数が多く、Excelの計上の表が追いつかない
まだ要らない会社
- 単品の販売が中心で、出荷や検収の時点で計上すれば足りる
- 契約の件数が少なく、Excelで追える
- 自社の収益の会計方針が、まだ決まっていない
2つを並べると、次のとおりです。
3つ目に当てはまるなら、製品選びより先に、方針を固めるのが近道です。
会計ソフトとExcelで回っている会社は、方針が決まるだけで十分なこともあります。
国産ERP・会計ソフトは、日本の帳票やいまの会計の流れを重く見る会社の候補です。
OdooやAIスクラッチ開発を選ぶなら、履行義務ごとの計上と配分をどこまで持てるかを個別に見ます。
これから選ぶ会社と、いま使っている会社
これから選ぶ会社は、製品を見る前に、自社の契約の型と会計方針を決めてください。
NetSuiteの価格は、ミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。
構成(モジュール・ユーザー数・オプション)で変わり、数百万円規模になることもあります。
導入の費用と期間は、4つの要因で動きます。
機能範囲、開発(特に外部連携)、社内の体制、ユーザー数です。
収益認識では、請求のツールや販売の仕組みとつなぐかどうかが、開発の量を左右します。
情報システムの担当が少ない会社では、支援を厚くする分、期間も延びやすくなります。
いま使っている会社は、次の3点を点検します。
- 収益認識ルールが、いまの契約の型に合っているか
- 新しい商品やサービスを始めたとき、ルールを見直したか
- 会計ソフトから移る場合、従来の計上の時期との差を説明できるか
古いシステムの保守の期限が近い会社は、入れ替えを会計方針の見直しの機会にできます。
よくある失敗3つ
失敗1:入れれば全部片づくと考える
起きること:導入後に、自社の実態に合わない計上が起きる。
原因:計上のルールは製品が決めてくれると考え、設計を任せきりにした。
避け方:何を自動にし何を人が決めるかを最初に切り分けます(3-4の図)。
失敗2:いままでと同じ計上のやり方をそのまま持ち込む
起きること:運用が始まってから、処理が合わないことに気づく。
原因:NetSuiteの前提と、自社の従来の実務の違いを洗い出していなかった。
避け方:導入前に違いを洗い出し、「業務を合わせる部分」と「帳票で対応する部分」に分けます。
失敗3:会計士・税理士・監査法人と話さずに決める
起きること:稼働後に帳票が合わず、双方に負担がかかる。
原因:収益認識を「システムの話」と考え、会計の専門家を巻き込まなかった。
避け方:導入を決める前に、関係者が一度そろって話す場を持ちます。
自社で対応すること・専門家と進めること
| 区分 | 自社で対応すること | 専門家と進めること |
|---|---|---|
| 会計方針 | 自社の収益の考え方をまとめる | 基準との整合を見る |
| システムの設定 | 業務の実態を伝える | 収益認識ルールの設計・設定 |
| 従来の実務との違い | いまの処理を共有する | NetSuiteとの違いの洗い出し |
| 監査・税務 | 顧問の要望を伝える | 帳票・業務の流れのすり合わせ |
業務の実態や方針は、自社にしか分かりません。
基準との整合とシステムの設計は、専門家と進めます。
ベンチャーネットならこう見る|契約の型を見える化してから、ARMに照らす
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱います。
SAPからのリプレイスにも対応しています。
収益認識の相談でも、ARMの設定から入りません。
型1:見える化→整理整頓→Fit&Gap
収益認識に当てはめると、こうなります。
- 見える化:いま、どの商品を、いつ、何を根拠に計上しているか。契約の型を一覧にする
- 整理整頓:似た契約の型をまとめ、要素の組み合わせを減らす。会計方針を会計士とそろえる
- Fit&Gap:残った型を、ARMの記録とルールの型(3-1・3-2)に照らす
合わない部分は、3つから選びます。
ARMの標準に業務を合わせるか、開発で補うか、帳票などいまのやり方を残すか。
失敗2の「業務を合わせる部分」と「帳票で対応する部分」の仕分けは、この選択そのものです。
最初の打ち合わせで聞く問いは、3つに絞っています。
- 対応が必要な会社か:上場の予定、監査の有無、親会社の要請
- 契約の型はいくつあるか:要素の組み合わせの一覧
- 会計方針は決まっているか:会計士・監査人との合意
変わることは、先に伝える
NetSuiteに移ると、締め処理の考え方や帳票が、いまのシステムと変わることがあります。
計上の時期が変われば、月次の売上の形も変わります(1-4)。
こうした変わる点は、見積もりの前に伝えます。
話を進めた結果、NetSuiteではなく、Excelのままや別の選択肢をお勧めすることもあります。
今日できること|売上の計上の時期を書き出す(1時間)
主な商品・サービスを5つ選び、次の表を埋めてみてください。
| 商品・サービス | いつ計上しているか | 顧客に何を約束しているか | 束ねて売ることがあるか |
|---|---|---|---|
| (例)保守サービス | 請求した月に全額 | 1年間の問い合わせ対応 | 製品とセットで売る |
※表の中身は、説明用の架空の例です。
「いつ計上しているか」と「約束していること」がずれている行。
そこが、見直しが要るかもしれない行です。
この表は、第9章の「見える化」の最初の1枚であり、会計士との打ち合わせにもそのまま使えます。
よくある質問
Q1. 新収益認識基準は中小企業も対応が必要ですか
すべての中小企業にただちに義務づけられるわけではありません。
主な対象は、上場企業などの金融商品取引法の適用を受ける会社や、会計監査人を設置する会社とその子会社です。
上場の準備や取引先の要請で求められることもあるため、顧問の会計士・税理士に聞いてください。
Q2. いつから適用されていますか
2021年4月1日以後に始まる事業年度の期首からです。
2020年4月1日以後に始まる事業年度から、早めに適用することもできました(企業会計基準第29号)。
Q3. NetSuiteを入れれば収益認識は自動化できますか
計上の処理はルールを決めれば自動にできます。
ただし、何をどう計上するかのルールは人が決めます。
自動にする範囲と、人が決める範囲を、導入の前に切り分けます(3-4)。
Q4. 既存の会計システムから移るとき何に気をつけますか
従来の実務とNetSuiteの前提の違いです。
従来の処理をそのまま再現しようとすると、運用が回らないことがあります。
導入前に違いを洗い出し、合わせる部分と残す部分を決めておきます。
Q5. 対応にはどれくらいの期間がかかりますか
契約の型の数と導入の中身で変わります。
期間を左右するのは、機能範囲・開発(特に外部連携)・社内の体制・ユーザー数の4つです。
契約の型を一覧にしてから、専門家と見通しを立てるのが現実的です。
Q6. Excelで対応してもよいですか
契約が少なく要素も単純なら足りることがあります。
根拠と計上の表を同じ場所に残し、更新の担当を決めておけば運用できます。
件数や組み合わせが増えたら、仕組みを検討します。
まとめ|制度対応を、売上の管理を見直す機会に
- 新収益認識基準は、売上の計上を5つのステップで定めた会計基準
- 2021年4月1日以後に始まる事業年度の期首から適用
- NetSuiteのARMは、契約・履行義務・計上の計画をルールで自動にする
- ルールの設計は人が行う。従来の実務との違いを見極める
- 会計士・監査法人とは、導入を決める前にすり合わせる
「うちも対応が必要か」の答えは、顧問の会計士が持っています。
「NetSuiteで片づくか」の答えは、今日の1枚の表から始まります。
計上の時期と約束がずれている行を、まず見つけてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
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