「3年分の保守料を、先に一括でもらった。今期の売上に全部立ててよいのか」
経理の方から、よく聞く問いです。
答えは、立てられません。
3年の保守は3年かけて果たす約束なので、収益も3年に分けて計上します。
収益認識とは、商品やサービスを売ったとき、売上を「いつ・いくら」計上するかを決める会計のルールです。
この計算を、いまもExcelで回している会社は少なくありません。
契約が「製品+保守」のように複雑になり、件数が増えるほど、手作業は限界に近づきます。
NetSuiteでは、Advanced Revenue Management(ARM)がこの計算をルールで自動化します。
契約が複雑で件数が多い会社ほど、仕組みにする価値があります。
取引が単純で件数が少なければ、Excelで足りることもあります。
では、自社の契約はどちらに入るのか。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットが、判断の材料をお伝えします。
この記事で分かること
- 収益認識の5ステップと、NetSuiteのARMでの対応
- 履行義務・取引価格の配分・繰延収益の基本
- 計上のルールの選び方と、Excelとの違い
- ARMが合う会社・合わない会社と、日本の会計実務で注意すべき点
- 導入の費用の考え方と、今日1時間でできる契約の棚卸し
NetSuiteの収益認識(ARM)とは
ARMは、契約から収益の計上までを、ルールに沿って自動で処理するNetSuiteの機能です。
Oracleのヘルプによると、自動化するのは収益の予測・認識・振替・繰延・監査です。
どれも、ルールにもとづく仕組みで動きます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
ARMには、2つの段階があります。
| 機能 | できること |
|---|---|
| ARM(Essentials) | 設定したルールで収益を繰り延べ、将来の期間に計上する |
| ARM(Revenue Allocation) | Essentialsへの追加の機能。公正価値を使い、複数の履行義務に収益を配分する |
- ASC606/IFRS15:米国と国際の収益認識の基準。日本の収益認識会計基準も、基本的にこれと整合している
- 公正価値:ここでは、各要素を単独で売ったときの価格の目安
NetSuiteは、世界220地域・44,000社以上で使われているクラウドERPです(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)。
ARMは、その会計の機能の一部として、財務のデータと一体で動きます。
なぜ今、収益認識を仕組みにするのか
理由は3つあります。
1つ目は、収益認識の基準への対応です。
日本では、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」が定められています。
2020年に改正された基準は、2021年4月1日以後に始まる事業年度の期首から適用されています(出典:企業会計基準委員会公式、2026年9月確認)。
2つ目は、サブスクや複合契約の増加です。
「製品+保守」「ライセンス+サポート」のように、1つの契約に複数の要素が入ることが増えました。
3つ目は、監査と決算の早期化です。
期末にまとめて計算すると、決算が遅れ、監査での説明にも時間がかかります。
基準への対応の詳細は、新収益認識基準とNetSuiteをご覧ください。
収益認識の5ステップを、ARMでどう扱うか
企業会計基準第29号では、収益を次の5つのステップで考えます(出典:企業会計基準委員会公式、2026年9月確認)。
- 顧客との契約を識別する
- 契約における履行義務を識別する
- 取引価格を算定する
- 契約における履行義務に取引価格を配分する
- 履行義務を充足した時に、または充足するにつれて収益を認識する
ARMでは、次の記録がこのステップに対応します(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
| ARMの記録 | 中身 | 主に対応するステップ |
|---|---|---|
| 収益契約(Revenue Arrangement) | 顧客への履行義務の中身を記録する。仕訳は起こさない | 1・3 |
| 収益要素(Revenue Element) | 取引の1行に対応し、1つの履行義務を表す | 2 |
| 公正価値の価格表(Fair Value Price List) | 配分の基準にする価格を持つ(Revenue Allocationの機能) | 4 |
| 収益認識ルール(Revenue Recognition Rule) | 認識の方法や、開始日・終了日の決め方などの型を定める | 5 |
| 収益認識計画(Revenue Recognition Plan) | どの期間に、いくら計上するかを示す | 5 |
ステップとの対応は、ベンチャーネットが考え方として整理したものです。
契約を登録すると、ARMが計上の計画を作り、決められた時期に仕訳を計上します。
期末の駆け込みの作業が、日々の業務に組み込まれます。
NetSuiteには、従来のRevenue Recognitionの機能もあります。
こちらは収益認識テンプレートを使います。
ARMとの違いは、請求や入金と切り離して収益を認識できる点です(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
履行義務・取引価格の配分・繰延収益
履行義務とは、売り手が果たすべき約束のことです。
「製品100万円+3年保守30万円」をセットで売ったとします(架空の例)。
製品の引き渡しと3年の保守は、別の履行義務です。
それぞれ、収益を計上する時期が違います。
取引価格の配分とは、契約全体の金額を、各履行義務に振り分けることです。
ARMでは、あらかじめ設定した公正価値にもとづき、この配分を自動で行います。
繰延収益とは、まだ収益として計上できない、前受けの金額です。
冒頭の3年保守の代金を一括で受け取っても、収益は3年かけて計上します。
受け取ったが、まだ計上していない分が繰延収益です。
配分の仕組みの詳細は、NetSuiteの収益配分(Revenue Allocation)とはで扱っています。
計上のルールの選び方
収益をどの時期に計上するかは、ビジネスの形で変わります。
ARMの収益認識ルールでは、認識の方法と金額の元を組み合わせて決めます。
Oracleのヘルプでは、認識の方法として、定額(期間で均等、初めと終わりの期間を日割り、日数で計算など)とカスタムが用意されています。
金額の元には、金額・数量・進捗率にもとづくイベントがあります(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
公式サイトが挙げる価格の型は4つです。
サブスク、出荷(数量や日付)、プロジェクトの完了(マイルストンや進捗率)、時間と材料(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)。
| 契約の型 | 計上の考え方 | 設定の手がかり | 向いている例 |
|---|---|---|---|
| サブスク・保守 | 期間にわたって計上 | 定額の認識の方法 | 保守契約、月額サービス |
| 出荷・納品 | 数量や日付にもとづいて計上 | 数量にもとづくイベント | 物販、製品の販売 |
| プロジェクト | 進捗や区切りに応じて計上 | 進捗率・金額にもとづくイベント | 開発、コンサル、長期の案件 |
| 時間と材料 | 使った時間・材料に応じて計上 | 導入時に設定を見極める | 作業の時間で請求するサービス |
1つの会社の中でも、契約ごとにルールが違うのはよくあることです。
ARMは、こうした複数の型を並べて扱えます。
どの設定が自社の契約に合うかは、導入の設計で決めます。
手作業(Excel)とARMの違い
| 観点 | 手作業(Excel) | NetSuite ARM |
|---|---|---|
| 収益の計算 | 手動で、担当者に依存しやすい | ルールにもとづき自動 |
| 履行義務への配分 | 手作業で煩雑 | 設定にもとづき自動で配分 |
| 繰延収益の管理 | 別表で管理し、誤りが起きやすい | 計上の計画として自動で管理 |
| 監査への対応 | 根拠をたどるのに時間がかかる | 取引と仕訳がつながり、たどりやすい |
| AIとの親和性 | 低い。表が散らばり、契約との照合をAIに任せにくい | 高い。計上の予定と実績の差の点検をAIに任せやすい |
Excelが常に悪いわけではありません。
取引が単純で件数も少ないなら、十分に回ります。
問題は、契約が複雑になり、件数が増え、担当者への依存が進んだときに起きます。
判断の物差し|ARMが合う会社・合わない会社
冒頭の問いに答えるのが、この章です。
ARMが合う会社
- 製品+保守、ライセンス+サポートのような複合契約が多い
- サブスクや長期の案件で、繰延収益の管理に手間がかかっている
- 監査への対応や上場の準備で、根拠をたどれる仕組みが要る
- 日本の基準とIFRSなど、複数の基準で並べて計上したい
ARM以外が合う会社
取引が単純で件数も少ないなら、いまは入れず、Excelで管理を続けるのが合理的です。
販売・会計はいまの会計ソフトで足り、収益認識だけが課題なら、会計ソフトの機能や専用の仕組みも比べます。
費用を抑えて始めたいならOdooや国産ERP、独自の計上の考え方が多いなら必要な計算だけを作るAIスクラッチ開発も候補です。
判断の分かれ目を図にすると、次のとおりです。
日本の会計実務で注意すべき点
消費税は、按分の対象に含まれない
ARMは売上を期間で按分しますが、消費税は按分の対象に含まれません。
日本の基準でも、取引価格は第三者のために回収する額を除くと定められています(出典:企業会計基準委員会公式、2026年9月確認)。
繰り延べたVATを扱うDeferred VAT Recognition SuiteAppという追加の機能もあります。
ただし、Oracleのヘルプではドイツ向けの機能として掲載されています。
ARMとAdvanced Taxesの機能が前提です(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
日本の消費税の実務に合うかは、断定できません。
会計の専門家を交えて見極めてください。
会計処理の考え方の違いと、顧問税理士との連携
NetSuiteは、世界標準の考え方で設計されています。
日本の会社で一般的な会計処理と、考え方が違う部分があります。
帳票やデータが顧問税理士の業務の流れに合うかも、導入の前に確かめます。
マルチブック(複数の会計基準で並べて記帳する機能)を使うと、基準の違いに対応しやすくなります。
詳しくはNetSuiteマルチブック会計(Multi-Book)完全ガイドとNetSuiteの収益認識×マルチブックをご覧ください。
これから選ぶ会社と、いま使っている会社
これからNetSuiteとARMを検討する会社
まず、自社の契約の型を棚卸しします。
型が整理できていれば、ARMの設定と移行は進めやすくなります。
費用は、ライセンスと導入の2つで見ます。
NetSuiteのライセンスは、ミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。
モジュール・ユーザー数・オプションで変わり、ARMのような機能を足せば構成の費用も変わります。
数百万円規模になることもあります。
導入の費用は、もっと幅があります。
ベンチャーネットが支援したNetSuite導入の費用では、3名程度・購買・販売だけの事例が150万円程度・1.5か月でした。
20名程度で購買・販売・在庫・会計まで入れ、情シスがいない事例は3,000万円程度・2年です。
100名程度で外部システム連携を含めた事例は、2億円程度(うち開発約7割)・1.5年でした。
差を生むのは、機能範囲・開発(特に外部連携)・社内の体制・ユーザー数の4つです。
ARMでは、契約の型の数と、自社独自の計上の考え方を開発で補う量が、とくに効いてきます。
4つの事例の条件は、NetSuiteの料金・費用・価格で扱っています。
財務会計まで一度に移すと、プロジェクトは重くなります。
収益認識や販売管理など、経営の見える化に直結する領域から始める進め方もあります。
段階的な進め方は、NetSuiteで財務会計を行う前に確認すべき3つのことで扱っています。
いまNetSuiteを使っていて、収益認識を見直す会社
NetSuiteを使っているのに、収益認識だけExcelに残っている会社もあります。
次の3つを見てください。
- 従来のRevenue Recognition(テンプレート)とARMの、どちらを使っているか
- 収益認識ルールが、いまの契約の型と合っているか
- 繰延収益の残高を、別表と照らし合わせていないか
保守の更新やパートナーの見直しの時期は、設定を見直す好機です。
サブスクの請求と合わせて見直すなら、NetSuite SuiteBilling(サブスク請求)の使い方もご覧ください。
よくある3つの失敗
失敗1:目的が「基準への対応」だけで止まる
起きること:必要最低限の設定で止まり、収益の見える化や決算の早期化につながらない。
原因:経営でどう使うかを、社内で言葉にしていなかった。
避け方:「収益を月次で把握したい」「決算を早めたい」といった経営の目的を最初に決めます。
仕組み化は手段であって、目的ではありません。
失敗2:日本の会計実務と顧問税理士との確認を後回しにする
起きること:稼働後に、消費税や原価の扱いが想定と違うと気づく。帳票が税理士の業務に合わない。
原因:機能の高さに目が向き、自社の会計方針との整合を見なかった。
避け方:導入の前に、経営者・現場・顧問税理士の三者で、会計方針と帳票をすり合わせます。
財務会計まで一度に載せず、段階的に進めます。
失敗3:設定して終わりにし、定着を軽く見る
起きること:現場の理解が追いつかず、Excelとの併用に戻る。
原因:本番の稼働の日をゴールにし、研修や運用のルールに予算と人を割かなかった。
避け方:稼働後の数か月を、定着の期間として計画に入れます。
操作の研修、運用のルールの文書化、定着の度合いの点検をセットで設計します。
ベンチャーネットならこう見る
収益認識の相談で、ベンチャーネットが最初に聞くのは3つです。
- 契約の型の数と型ごとの件数はどれくらいか:型が少なく件数も少なければ、仕組み化を急がない
- いまの収益認識に誰が何時間かけているか:担当者への依存の度合いが、仕組み化の価値を決める
- 会計方針と顧問税理士の考えはそろっているか:消費税や原価の扱いは、設定より先に決める
契約の型を見える化してから、ARMと照らし合わせる
製品が決まっていても、進め方は同じです。
まず、いまの契約の型と計上の仕方を見える化します。
続いて、やめる・まとめる・そろえる型を決めます。
型が減るほど、設定も移行も軽くなります。
そのうえで、ARMの標準の収益認識ルールと照らし合わせます。
標準で収まらない型には、3つの選び方があります。
- 標準に合わせる:ARM(Essentials・Revenue Allocation)の収益認識ルールと計画で、自動で計上する
- 開発する:自社独自の計上の考え方や、いまのシステムとのつなぎを、アドオン開発サービス「NetSuiteリブート」で補う
- 残す:件数の少ない型はExcelのまま残し、日本の実務に合わせた機能の拡張は、提供の予定をアカウントの担当に聞いて待つ
「変わること・注意が必要なこと」を先に渡す
ARMを入れると、経理の仕事の中身が変わります。
ベンチャーネットは、見積りと同じ場で次の点を伝えます。
- 締め処理:期末にまとめて計算する形から、計上の計画にそって毎月計上する形に変わる
- 帳票:顧問税理士に渡す帳票が、いまの形のまま出るとは限らない
- 消費税:按分の対象外。扱いは会計の専門家と決める(第8章)
- ライセンス費用:ARMのような機能を足すと、構成の費用が上がることがある
後から知れば「話が違う」になる点ばかりです。
話を進めた結果、「いまはExcelのままで足りる」とお伝えすることもあります。
今日できること|契約の型を1時間で棚卸しする
直近1年の契約を振り返り、次の表を埋めてみてください。
| 契約の型 | 件数 | 収益を計上する時期 | いまの管理の場所 |
|---|---|---|---|
| (例)製品+年間保守 | 40件 | 製品は納品時、保守は12か月 | Excel |
表の数字は架空の例です。
型ごとに1行ずつ書き、「いまの管理の場所」がExcelの行に印をつけます。
印の多い型が、仕組みにして効果の出やすい候補です。
よくある質問
Q1. NetSuiteの収益認識の機能は、新しい収益認識の基準に対応していますか?
Oracle NetSuiteはASC 606・IFRS 15などの基準に沿った自動化をうたっています。
日本の収益認識会計基準(企業会計基準第29号)も、基本的にこれらと整合しています。
基準への対応の詳細は、新収益認識基準とNetSuiteをご覧ください。
Q2. 消費税の期間按分も自動でできますか?
標準のARMでは消費税は按分の対象外です。
繰り延べたVATを扱うDeferred VAT Recognition SuiteAppはありますが、ドイツ向けの機能として掲載されています。
日本の消費税の実務に合うかは、会計の専門家を交えて見極めてください(第8章)。
Q3. ARMと従来のRevenue Recognitionは何が違いますか?
ARMは収益認識ルールで請求や入金と切り離して収益を認識できます。
従来のRevenue Recognitionは、収益認識テンプレートを品目にひも付けて使います。
どちらを使っているかで、見直し方が変わります(第3章)。
Q4. いまはExcelで収益認識を管理しています。移行は大変ですか?
契約の型が整理できていれば進めやすくなります。
会計方針や顧問税理士との足並みをそろえる作業は欠かせません。
一度にすべてを移さず、段階的に進めるほうが安定しやすくなります。
Q5. 取引が単純な会社でも、ARMを入れるべきですか?
取引が単純で件数が少なければ急ぐ必要はありません。
Excelや会計ソフトで足りることもあります。
複合契約やサブスクが増え、担当者への依存が進んだ段階で検討してください(第7章)。
Q6. 収益認識を仕組みにすると、経営にどんな変化がありますか?
決算の早期化と監査の負担の軽減が期待できます。収益を月次で把握しやすくもなります。
期末の駆け込みの作業が減り、「いまどれだけ収益が立っているか」が見えやすくなります。
経営の判断の速さにも関わってきます。
まとめ|収益認識の仕組み化は「経営を強くする手段」
- ARMは、契約から収益の計上までをルールで自動化するNetSuiteの機能
- 収益契約・収益要素・収益認識ルール・計画が、5ステップを支える
- 計上のルールは、認識の方法と金額の元の組み合わせで決める
- 消費税は按分の対象外。日本の実務との整合は導入の前にすり合わせる
- 取引が単純で件数が少なければ、いまは入れない選択もある
「3年分の保守料を、今期に全部立ててよいか」
この問いが毎期のように出てくるなら、仕組みにする時期かもしれません。
まずは第12章の表で、契約の型を棚卸ししてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
自社の契約の型に合う収益認識の進め方や、会計方針との整合をご相談いただけます。
- NetSuite×会計ブリッジ伴走(CFO向け):収益認識と会計方針の設計、顧問税理士との連携
- NetSuite無料デモ:ARMの画面を実際にご覧いただけます
- お問い合わせ
