月曜の朝の営業会議。
新規の商談数のグラフは、週の目標の8割を下回っている。
誰もそこには触れず、会議は次の議題に移る。
KPIマネジメントとは、目標の達成につながる重要な指標(KPI)を決め、その進み具合で仕事を管理する方法です。
KPIが機能しない原因は、多くの場合、指標の数でも道具でもありません。
数字が動いたときに誰が何をするかが、決まっていないことです。
冒頭の会議も、グラフは見えていました。動く人が決まっていなかっただけです。
では、「動いたら誰が何をするか」は、どう決めればよいのか。
この記事で分かること
- KPIとKGIの違い、結果指標と行動指標の使い分け
- KGIからKPIを逆算する5つのステップと、分解の例
- よくある3つの失敗と、その避け方
- Excelで足りる段階と、システムが要る段階の見分け方
- NetSuiteのダッシュボードで「見える化」から「動ける化」へ進む方法
KPIマネジメントとは
言葉の整理
| 言葉 | 正式名 | 意味 | 例 |
|---|---|---|---|
| KGI | Key Goal Indicator(重要目標達成指標) | 最終的に目指すゴールの指標 | 年間売上10億円 |
| KPI | Key Performance Indicator(重要業績評価指標) | ゴールへの進み具合を測る指標 | 月間の新規商談数 |
「年間売上10億円」がKGIなら、そこに近づくための「月間の新規商談数」がKPIです。
KPIマネジメントで変わる4つのこと
市場の変化が速いと、勘と経験だけの経営は難しくなります。
KPIマネジメントには、次の効果があります。
- 判断が速くなる:数字で状況をつかみ、早く決められる
- 事実で改善できる:感覚ではなく、数字にもとづいて直せる
- 問題に早く気づく:異常な値に早く気づき、手を打てる
- 現場が迷わない:何を頑張ればよいかがはっきりする
中堅・中小企業では、限られた人とお金をどこに向けるかが成長を左右します。
どの数字を見るかを決めることは、どこに力を集めるかを決めることでもあります。
成果につながるKPIの考え方|結果指標と行動指標
最初につまずくのが、「何をKPIにするか」です。
ここで結果指標と行動指標を分けて考えます。
- 結果指標:行動の結果として生まれる数字(売上・利益など)
- 行動指標:結果を生み出す行動の数字(商談数・提案件数など)
| 観点 | 結果指標 | 行動指標 |
|---|---|---|
| 何を測るか | 達成された結果 | 結果を生む行動 |
| 例 | 売上、利益、顧客満足度 | 商談数、提案件数、フォロー回数 |
| 現場の動きやすさ | 「何をすれば」が曖昧 | 「何をすべきか」が明確 |
| 動かせるか | 外部の要因に左右されやすい | 自分たちで動かせる |
| 向いている使い方 | ゴール(KGI)として | 日々追うKPIとして |
どちらがよい・悪いではありません。
結果指標はゴールとして欠かせず、日々追うKPIには行動指標が向いています。
この切り分けが、KPI設計の出発点です。
KPIマネジメントの進め方(5ステップ)
- KGIを決める:「今期の売上○億円」など、目指す到達点をはっきりさせる
- KPIを選ぶ:ゴールにつながる行動の数字を1〜3個選ぶ
- 動いたときの行動を決める:どの値になったら、誰が何をするか
- 定期的に見る:週次・月次で進み具合を追う
- 見直す:効かなくなった指標は入れ替える
KPIは一度決めたら終わりではありません。
市場や組織が変われば、効き目が薄れることもあります。
KGIからKPIへの分解の例(架空の数字)
年間の売上目標を、行動の数字まで分けてみます(数字は説明用の架空の例です)。
| 段 | 指標 | 計算 | 月あたりの値 |
|---|---|---|---|
| KGI | 新規の売上 | 年1億2,000万円 | 1,000万円 |
| 分解1 | 受注件数 | 1件あたり平均200万円 | 5件 |
| 分解2 | 提案件数 | 受注率25% | 20件 |
| KPI(行動) | 新規の商談数 | 提案に進む率50% | 40件 |
この例で、営業が毎日追うのは「商談数」です。
受注率や提案に進む率は、観察する指標として別に見ます。
上の数字ほど結果に近く、下の数字ほど自分たちで動かせます。
「動いたら誰が何をするか」を決める
冒頭の問いへの答えが、この表です。
KPIは、行動とセットで決めて初めて使えます。
| KPI(見る頻度) | こうなったら | 誰が | 何をする |
|---|---|---|---|
| 新規の商談数(週次) | 週の目標の8割を下回った | 営業部長 | 翌週の訪問先を見直す |
| 提案に進む率(月次) | 2か月続けて40%を下回った | 営業部長と経営者 | 商談の質(対象の業種や規模)を見直す |
決める順番は、KPI→こうなったら→誰が→何をする。
「誰が」の欄に部署名しか書けないなら、まだ決まっていません。
人の名前か役職が入って、初めて動けます。
この表が、「見える化」と「動ける化」の分かれ目です。
よいKPIかを見分ける5つの問い
| 問い | 「はい」なら | 「いいえ」なら |
|---|---|---|
| 現場が自分たちで動かせるか | KPIに向く | 結果指標としてKGIの側に置く |
| 週次か月次で数字が出るか | KPIに向く | 数字の取り方を先に決める |
| 動くとKGIも動くか | KPIに向く | 分解を見直す |
| 担当する人が1人に決まっているか | KPIに向く | 責任者を決めるまで保留 |
| 数字の定義が1行で書けるか | KPIに向く | 定義をそろえるまで保留 |
5つとも「はい」になる指標は、多くありません。
だから、1〜3個に絞ることが自然にできます。
部門ごとのKPIの例
行動の数字は、部門によって変わります(一般的な例です)。
| 部門 | KGIの例 | 行動のKPIの例 |
|---|---|---|
| 営業 | 新規の売上 | 新規の商談数、提案件数 |
| 製造 | 製造原価率 | 段取り替えの時間、不良の件数 |
| 物流・在庫 | 在庫回転日数 | 欠品の件数、発注の見直しの回数 |
| 経理 | 月次の締めの日数 | 未処理の請求書の件数 |
| カスタマーサポート | 解約率 | 初回の回答までの時間 |
部門のKPIも、KGIとのつながりを1行で説明できるものを選びます。
判断の物差し|Excelで足りる段階と、システムが要る段階
KPIの管理に、最初から大きな仕組みは要りません。
| 段階 | 状態 | 合う道具 | 次へ進むサイン |
|---|---|---|---|
| 1. 試す | KPIが1〜3個。1つの部門で試す | Excel・スプレッドシート | 数字を集めるのに毎週半日以上かかる |
| 2. 広げる | 複数の部門でKPIを持つ | SFA・CRM+Excel | 部門で数字の定義や集計がずれる |
| 3. つなぐ | 売上・原価・在庫とKPIを並べて見たい | ERPのダッシュボード、またはBIツール | 経営者がいつでも最新の数字を見たい |
| 4. AIで見る | 異常の知らせや要因の説明をAIに任せたい | データが一か所にそろったERP+AI | — |
KPIが少なく、元のデータが1か所にあり、週1回の更新で間に合う。
この段階なら、いまは入れないのが正しい判断です。
Excelで「動いたら誰が何をするか」を回した経験が、後で仕組みを選ぶ物差しになります。
逆に、営業・製造・経理のデータが別々のシステムにあり、集計の担当者が休むとKPIが出ない。
そうなったら、仕組みを考える時期です。
分かれ目を図にすると、次のとおりです。
| 状況 | 合いやすい選択肢 |
|---|---|
| 営業のKPIだけを細かく追いたい | SFA・CRM |
| いまの会計・販売のシステムは変えず、見える化だけ足したい | BIツール |
| 小さく始め、アプリを足しながら広げたい | Odoo |
| 業務が独特で、既製品では合わない部分が大きい | AIスクラッチ開発 |
| 販売・在庫・会計とKPIを1つのデータで見たい。事業や拠点が複数 | NetSuite |
NetSuiteの価格は、ミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。
構成で変わり、数百万円規模になることもあります。
KPIの管理だけを目的に入れるものではありません。
これから始める会社と、いま見直したい会社
これから始める会社は、道具より先に3つを紙に書き出します。
今期のKGI(1つ)、それにつながる行動の数字(1〜3個)、動いたときに誰が何をするか。
3つ目が書けない指標は、まだKPIにしません。
すでにKPIやダッシュボードがあるのに成果が出ない会社は、止まっている場所を探します。
| 止まっている場所 | 直し方 |
|---|---|
| KPIが結果指標(売上・利益)ばかり | KGIに戻し、行動の数字を選び直す |
| KPIが4つ以上に増えている | 1〜3個に絞り、残りは観察する指標に |
| 「動いたら誰が何をするか」が空欄 | 3-2の表を作る |
| 元のデータが手作業の集計頼み | 仕組みを見直す |
上の3つは運用で直せます。
4つ目が詰まりの原因なら、仕組みの番です。
基幹システムの保守の期限が近いなら、乗り換えと一緒にKPIの数字の取り方を設計し直せます。
判断の考え方は、基幹システムは「更新」か「乗り換え」かで扱っています。
KPIマネジメントでよくある3つの失敗
失敗1:結果指標をそのままKPIにする
起きること:「今期のKPIは売上○億円」と掲げる。結果の数字ばかりが並び、現場は「で、何をすれば」と戸惑う。
原因:売上や利益は行動の結果の数字です。結果だけを掲げても、毎日何をすればよいかが見えない。
避け方:KGIから逆算し、その数字を生む行動をKPIにします。
売上そのものではなく、「新規の商談数」「既存顧客への提案回数」を指標にします(3-1)。
失敗2:KPIを盛りすぎて、どれも追えなくなる
起きること:管理したい指標が10個以上ある。会議が数字の報告で終わり、どの指標も中途半端になる。
原因:指標が多いほど手間が増え、優先順位がぼやける。報告のための報告が生まれる。
避け方:業績に効く指標を1〜3個に絞り、それ以外は「観察する指標」として分けます。
「なぜこのKPIなのか」という狙いも、関わる全員で共有します。
狙いが伝わらない指標には、やらされ感だけが残ります。
失敗3:「見える化」で満足し、行動が変わらない
起きること:立派なダッシュボードができ、きれいなグラフが並ぶ。だが、見て終わる。冒頭の会議がこれです。
原因:画面を入れること自体が目的になり、数字を「見る」だけで止まっている。
避け方:「この数字が動いたら、誰が何をするか」を、画面を作る前に決めます(3-2)。
3つの失敗と避け方をまとめると、次のとおりです。
ERPの導入そのものでつまずく失敗は、ERP導入はなぜ失敗するのかで扱っています。
NetSuiteでKPIマネジメントを回す
KPIを回すには、データが1か所にあり、数字をすぐ見られることが欠かせません。
ERP(Enterprise Resource Planning)とは、会計・販売・在庫・人事などの業務を、1つのシステムで管理する仕組みです。
NetSuiteは、こうした業務のデータを1つのデータベースで扱うクラウドERPです。
NetSuiteのKPIの機能
Oracleのヘルプでは、次の機能が説明されています(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
| 機能 | できること | KPIマネジメントでの使い方 |
|---|---|---|
| KPI(重要業績評価指標) | 75以上の標準KPIを、ダッシュボードに表示する | 売上・受注などを毎日追う |
| 比較としきい値 | 別の期間と比べ、増減の割合を自動で出す。しきい値を超えた・下回った数字を強調する | 「こうなったら動く」の基準を画面に持たせる |
| KPIメーター | 半円のメーターで、比較・期間・しきい値をひと目で示す(ダッシュボードに最大3つ) | 経営者が見る1〜3個のKPIを大きく出す |
| トレンドグラフ | 選んだ期間の推移を示す(1つのグラフに最大3つのKPI) | 行動指標と結果指標の推移を並べる |
| カスタムKPI | 保存検索にもとづいて、自社独自のKPIを作る | 「新規の商談数」など自社の行動指標を載せる |
保存検索とは、条件を保存しておき、何度でも同じ抽出ができるNetSuiteの検索の機能です。
使い方は、NetSuite保存検索の作り方で扱っています。
しきい値は、3-2の表の「こうなったら」と同じ値にします。
画面が色で知らせても、誰が動くかは表で決めておく。
この2つがそろって、グラフが行動に変わります。
役割ごとに同じ画面を配る
NetSuiteでは、配布の権限を持つ人が、ロールを指定してダッシュボードを配れます(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
ロールとは、利用者の役割ごとに、見える画面や権限をまとめた設定です。
営業部長のロールには営業のKPI、経営者のロールには全社のKPI。
同じ役割の人が同じ画面を見ると、会議の話がそろいます。
画面の作り方は、経営ダッシュボードの作り方で詳しく扱っています。
ベンチャーネットならこう見る
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱います。
SAPからのリプレイスにも対応しています。
KPIの相談では、2つの型で考えます。
90日で1周目|1部門・1KPIに絞る
全部門のKPIを一度に決めると、失敗2に入ります。
ベンチャーネットは、1周目を1つの業務と1つのKPIに絞ります。
たとえば営業部の「新規の商談数」だけ。
3-2の表を1行作り、週次で12回ほど回せば、最短90日で1周目が終わります。
1周目で分かるのは、KPIの良し悪しだけではありません。
数字を集めるのに何時間かかるか。
しきい値を割ったとき、本当に人が動いたか。
2周目で広げる部門と、仕組みが要るかどうかは、そこから決めます。
KPIは3段目|守り→攻め→次へ
ベンチャーネットは、システムが定着した先を3段で見ています。
業務が回る「守り」、データで打つ「攻め」、経営が変わる「次へ」。
全社のKPIマネジメントは、3段目の「次へ」に入ります。
1部門のKPIなら、Excelでも今日から始められます。
ただ、全社で回すには、販売・在庫・会計の数字が毎日そろう「守り」が先に要ります。
守りが崩れたままKPIを増やすと、集計の担当者が休んだ日に数字が止まります。
最初に聞く3つ
- 今期のKGIは1つに決まっているか
- いまのKPIのうち、行動の数字はいくつあるか
- 各KPIが動いたとき、誰が何をするかを言えるか
道具を選ぶのは、この3つの答えが出てからです。
Excelで足りる段階なら、そうお伝えします。
今日できること|1時間でKPIを棚卸しする
いま社内で追っている指標を、すべて書き出してみてください。
| 指標 | 結果か行動か | 動いたら誰が何をするか | 残すか |
|---|---|---|---|
| (例)月間売上 | 結果 | 決まっていない | KGIへ |
| (例)新規の商談数 | 行動 | 週の目標の8割を下回ったら営業部長が訪問先を見直す | 残す |
書き出したら、次の3つを数えます。
- 「行動」の指標はいくつあるか
- 「動いたら誰が何をするか」が空欄の指標はいくつあるか
- 残す指標を3つに絞れるか
空欄が多いほど、数字を見ても行動が変わらない状態です。
まずは1つの指標で、空欄を埋めてください。
それが、8-1の1周目の始まりです。
よくある質問
Q1. KPIはいくつ設定すればよいですか
1〜3個に絞るのが基本です。
指標が多いと手間が増え、優先順位がぼやけます。
それ以外の数字は「観察する指標」として分けて扱います。
Q2. 売上をKPIにしてはいけないのですか
売上はKPIよりKGIに向いています。
売上は行動の結果の数字なので、そのままKPIにすると「何をすればよいか」が曖昧になります。
日々追うKPIには、「新規の商談数」など自分たちで動かせる行動指標を選びます。
Q3. NetSuiteを入れれば、KPIの管理は自動でできますか
データの集約と表示は楽になりますが運用の設計は別に要ります。
NetSuiteでは、KPIの表示や期間の比較、しきい値での強調ができます。
ただし、どの数字が動いたら誰が何をするかは、人が決めます。
Q4. KPIマネジメントは何から始めればよいですか
KGIを1つに決めることから始めます。
次に、その数字を生む行動を洗い出し、効き目の大きいものを1〜3個に絞ります。
1周目は1部門・1KPIに絞ると、最短90日で回せます(8-1)。
Q5. KPIの見直しはどのくらいの頻度で行えばよいですか
四半期に1回を目安に効き目を見ます。
市場や組織が変わると、効いていた指標が効かなくなることがあります。
KPIが目標どおり動いているのにKGIが動かないなら、指標の入れ替えを考えます。
Q6. Excelで管理していますが、システムに移るべきですか
集計の手間とデータの分散が判断の目安です。
KPIが少なく、元のデータが1か所にあるならExcelで足ります。
複数の部門のデータを手で集めていて、担当者が休むと数字が出ないなら、仕組みを考える時期です(第4章)。
Q7. KPIを人事評価に直結させてもよいですか
始めてすぐに直結させるのは慎重に考えます。
評価に直結すると、数字だけを上げる行動が起きやすくなります。
たとえば、商談数を増やすために、見込みの薄い訪問が増えることがあります。
まずはKPIで仕事を回し、効く指標が見えてから、評価との関係を決めます。
まとめ|「見える化」から「動ける化」へ
- KGIは結果の数字、KPIは行動の数字にする
- KPIは1〜3個に絞り、狙いを全員で共有する
- 各KPIに「動いたら誰が何をするか」を決める
- 1周目は1部門・1KPIで、最短90日。Excelで足りる段階なら、いまは入れないのも正しい判断
- NetSuiteでは、KPIの比較やしきい値での強調、ロールごとの画面の配布ができる
冒頭の会議で、商談数が目標の8割を割ったとき。
営業部長が翌週の訪問先を見直すと決まっていれば、会議は次の議題に移りません。
まずは1つのKPIで、「誰が何をするか」の欄を埋めてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
KGIからKPIへの分け方や、「動いたら誰が何をするか」の決め方から、ご相談をお受けしています。
Excelで足りる段階であれば、そうお伝えします。
関連記事:
