「300万円の機械を買った。今年の費用は300万円になる」
そう考えて決算の数字を見ると、利益が思ったより残っていて驚きます。
その年の費用に入ったのは、一部だけだったからです。
減価償却とは、固定資産の取得価額を使う期間にわたって少しずつ費用にする会計処理です。
買った年に全額を費用にせず、耐用年数に分けて配ります。
300万円・耐用年数10年の機械なら、1年目の費用は定額法で30万円、200%定率法で60万円です(架空の数字)。
計算の式は税法で決まっており、システムに任せられます。
では、任せる前に人が決めておくことは何か。
ここを飛ばすと、自動化したのにExcelの手直しが残ります。
この記事で分かること
- 減価償却の意味と、固定資産になるものの線引き
- 定額法・定率法の計算式と、架空の数字での計算例
- 会計上の償却と税務上の償却が違う理由
- 台帳をExcelに置くか、システムに置くかの見分け方
- 計算を任せる前に決めておく、償却のルールの仕分け方
減価償却の意味と、3つの役割
建物や機械は、何年にもわたって使います。
買った年に全額を費用にすると、その年の利益だけが極端に小さくなります。
そこで、使う期間に応じて費用を配ります。
この「使う期間」が耐用年数です。
税務上の耐用年数は、資産の種類ごとに財務省令の別表で定められています(出典:国税庁 タックスアンサーNo.2100、2026年9月確認)。
減価償却の役割は3つあります。
- 期間の損益を正しくする:費用と、その資産が生む売上を、同じ期間に対応させる
- 設備の更新に備える:現金が出ていかない費用のため、手元に資金が残りやすい
- 税金の計算に反映する:税法の範囲の減価償却費は損金になり、課税所得が減る
損金は、税金の計算で費用として差し引ける金額のことです。
固定資産になるもの・ならないもの
固定資産は、会社が長く使うために持つ資産です。
次の3つを満たすものが、減価償却の対象になります。
- 売るためではなく、事業で使うために持っている
- 1年を超えて使う
- 一定の金額以上である
3つめの金額には、税務上の線引きがあります。
| 区分 | 条件 | 扱い |
|---|---|---|
| 少額減価償却資産 | 取得価額10万円未満、または使える期間が1年未満 | 使い始めた年に全額を費用にできる |
| 一括償却資産 | 取得価額20万円未満 | まとめて3年間で均等に償却することを選べる |
| 通常の減価償却資産 | 上記に当たらないもの | 耐用年数にわたって償却する |
出典:国税庁 タックスアンサーNo.5403(2026年9月確認)。
中小企業には、少額減価償却資産の特例もあります。
令和8年度の税制改正を踏まえ、対象は取得価額40万円未満に広がりました。
年の合計300万円までを、取得した年に全額損金にできます。
期限は令和10年度末(令和11年3月31日)までです(出典:中小企業庁「少額減価償却資産の特例」、2026年9月確認)。
従業員数などの条件があるため、使えるかは顧問の税理士に聞いてください。
定額法と定率法の計算方法
計算方法は、主に定額法と定率法の2つです。
いまの計算式
平成19年4月1日以後に取得した資産の式は、次のとおりです(出典:国税庁 タックスアンサーNo.5410、2026年9月確認)。
- 定額法:減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率
- 定率法:減価償却費 = (取得価額 − これまでの償却額)× 定率法の償却率
以前は「残存価額」を差し引いて計算していました。
いまは残存価額が廃止され、帳簿の価額が1円になるまで償却できます。
平成24年4月1日以後に取得した資産の定率法は、定額法の償却率を2倍にした率を使います。
これを200%定率法と呼びます。
償却額が「償却保証額」を下回った年からは、「改定償却率」に切り替えて均等に償却します。
計算例(架空の数字)
機械を300万円で期首に買い、耐用年数を10年とします。
定額法の償却率は0.100、200%定率法はその2倍の0.200です。
| 年 | 定額法の償却額 | 200%定率法の償却額 | 200%定率法の期末の帳簿価額 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 30万円 | 60万円 | 240万円 |
| 2年目 | 30万円 | 48万円 | 192万円 |
| 3年目 | 30万円 | 約38.4万円 | 約153.6万円 |
※架空の数字です。定額法の期末の帳簿価額は、270万円・240万円・210万円と30万円ずつ減ります。年の途中で買った場合は月割りにします。定率法は、途中から改定償却率に切り替わります。
定率法は、最初の年ほど費用が大きく出ます。
どちらも最後は、帳簿の価額が1円になるまで償却します。
違うのは「どの年に費用が多く出るか」だけです。
2つの方法の違いを図にすると、次のとおりです。
どちらを使うか
| 観点 | 定額法 | 定率法 |
|---|---|---|
| 毎年の費用 | 同じ額 | 最初が大きく、年々小さくなる |
| 向く資産 | 価値が一定に目減りするもの | 早いうちに価値が下がるもの |
| 税務の決まり | 建物、建物附属設備・構築物は定額法 | 法人の機械・装置は、届出をしなければ定率法 |
建物は、平成10年4月1日以後の取得分が定額法です。
建物附属設備と構築物は、平成28年4月1日以後の取得分が定額法になります(出典:国税庁 タックスアンサーNo.2100、2026年9月確認)。
法人の機械・装置の法定の償却方法は、定率法です。
定額法にしたい場合は、届出が要ります(出典:国税庁 タックスアンサーNo.5409、2026年9月確認)。
会計上の償却と、税務上の償却は違う
会計の償却と税務の償却は、目的が違います。
| 観点 | 会計上の減価償却 | 税務上の減価償却 |
|---|---|---|
| 目的 | 期間の損益を正しくする | 課税所得を計算する |
| ルールの根拠 | 会計基準と自社の会計方針 | 税法 |
| 耐用年数 | 実際に使う見込みの年数 | 財務省令で定めた年数 |
たとえば、会計は実際の使い方に合わせた年数で償却し、税務は法定の年数で計算する。
こうした会社では、2つの数字を並べて持つことになります。
会計と税務を別々に持つ仕組みは、NetSuiteマルチブック会計でも扱っています。
台帳をどこに置くか|Excelで足りる段階と、システムが要る段階
固定資産の管理に、どの会社もシステムが要るわけではありません。
自社の状態を、次の表に当てはめてみてください。
| 自社の状態 | 合う管理の方法 |
|---|---|
| 資産が数十件まで、償却方法が1種類、拠点が1つ | Excelか、いまの会計ソフトの固定資産の機能で足りる |
| 資産が数百件、取得・除却が毎月ある | 固定資産の専用ソフトか、ERPの固定資産の機能を比べる |
| 会計と税務で償却を分けている、または子会社・海外拠点がある | ERPの中で台帳と仕訳をつなぐ価値が大きい |
| リースの資産が多い | 新リース会計基準への対応とあわせて考える |
ERPは、会計・販売・購買などの業務を1つのデータでつなぐ基幹システムのことです。
分かれ目は2つの問いです。
1つめは、資産が数十件まで・償却方法が1種類・拠点が1つか。
そうなら、いまのExcelや会計ソフトで足ります。
2つめは、会計と税務で償却を分けるか、子会社や海外拠点があるか。
そうならERPで台帳と仕訳をつなぎ、そうでなければ専用ソフトとERPの機能を比べます。
置き場所ごとの向き・不向きは、次のとおりです。
| 方法 | 向く会社 | 注意点 |
|---|---|---|
| Excel | 資産が少なく、担当者が1人 | 計算式の壊れや、担当者への依存が起きやすい |
| 会計ソフトの固定資産の機能 | いまの会計ソフトで決算が回っている | 販売・購買のデータとは別になる |
| 固定資産の専用ソフト+連携 | 日本の税務の帳票を厚くしたい | 連携の運用が要る |
| ERPの固定資産の機能 | 資産が多い、拠点・子会社がある | 設定と運用の設計が要る |
台帳のデータが1か所にそろうと、点検をAIに任せる道も開けます。
「使っていないのに償却が続く資産」や「除却の記録が漏れた資産」を洗い出す使い方です。
ほかの選択肢が合う場合もあります。
業務の範囲が広く費用を抑えたいなら、Odooなど別のERPの会計機能で足りるかを比べます。
設備の保全など自社独自の管理が中心なら、AIスクラッチ開発で必要な部分だけ作る道もあります。
資産が少なく会計ソフトで決算が回っているなら、「いまは入れない」のも立派な判断です。
NetSuiteの固定資産管理(FAM)でできること
NetSuiteでは、Fixed Assets Management(FAM)という追加の機能で固定資産を扱います。
追加の機能はSuiteAppと呼ばれます。
Oracleのヘルプでは、FAMを、取得・償却・再評価・除却などを自動で管理する仕組みと説明しています。
| できること | 公式ヘルプの説明 |
|---|---|
| 資産の登録 | 手で作るほか、購買・経費・在庫の移動から資産を作れる |
| 償却の方法 | 定額法・定率法・級数法・利用量に応じた方法と、自社で定義する方法 |
| 日本向けの償却方法 | Japan Straight Line、Japan 200%/250% Declining Balance、旧定額法・旧定率法、特別償却 |
| 税務用の償却 | 税務用の償却方法(Alternate Methods)を資産に複数つけられる。仕訳の計上とは結びつかない |
| 日本の税務の帳票 | 日本のアカウント・日本の子会社があるアカウントで、別表十六の帳票を出せる |
出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ(FAMの概要、日本向けの償却方法、税務用の償却方法、別表十六の帳票)、2026年9月確認。
償却資産税の申告向けには、Japan Fixed Assets Reportsという別のSuiteAppがあります。
FAMの資産の記録をもとに、市町村ごとの帳票を作ります(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
手作業との違いは、主に3つです。
償却の仕訳を毎月手で入れる代わりに、ルールにもとづいてまとめて作ります。
台帳を別のファイルで持たず、取得から除却までを1つの台帳で持ちます。
購買の記録から資産を作るので、転記が要りません。
使いたい機能を自社のアカウントで有効にできるかは、導入前にアカウントの担当に聞いてください。
FAMの実装の3つのパターンと選び方は、NetSuiteの固定資産管理(FAM)とは?で扱っています。
これから整える会社と、いまの台帳を見直す会社
これから整える会社が最初に決めるのは、3つです。
会計と税務で償却を分けるか。
台帳を会計ソフト・専用ソフト・ERPのどこに置くか。
償却資産税と別表十六の帳票を、どこから出すか。
ERP全体の会計の進め方は、NetSuiteで財務会計を行う前に確認すべき3つのことで扱っています。
すでに台帳を持っている会社は、移し替えの手間から考えます。
過去の償却の履歴をどこまで移すか、更新の時期が決算と重ならないか、新リース会計基準の対応と同じ時期にまとめるか。
既存の台帳を活かし、仕訳だけをERPに渡す形もあります。
組み合わせ方は、NetSuiteとfreee・マネーフォワード・勘定奉行を組み合わせると新リース会計基準にNetSuiteで対応する方法をご覧ください。
よくある3つの失敗
失敗1:自社の償却のルールを一覧にせずに自動化する
起きること:システムが出した償却額が、これまでの台帳と合わない。結局、Excelで直す作業が残る。
原因:償却方法・年数・月割りのルールを、設定に落とす前に整理していなかった。
避け方:資産の種類ごとに、会計と税務の償却のルールを一覧にします。
そのうえで、システムの計算の考え方と照らし合わせます。
失敗2:顧問の税理士と足並みがそろっていない
起きること:新しい仕組みから出る帳票が、税理士の申告の作業に合わない。双方に手作業が増える。
原因:固定資産は税務の申告に直結するのに、帳票の形を事前にすり合わせていなかった。
避け方:経営者・経理・顧問の税理士の三者で、導入前に一度話し合います。
別表十六と償却資産税の帳票を、どこから出すかを決めておきます。
失敗3:固定資産と会計から先に固めようとする
起きること:日本の会計の細かな要件に時間がかかり、導入が長引く。販売や在庫の見える化が後回しになる。
原因:「まず会計をきっちり固めてから」と、財務会計の領域から着手した。
避け方:販売・在庫・プロジェクト管理など、経営の見える化に直結する領域から始めます。
固定資産の本格的な活用は、2つめの段階に回す進め方もあります。
ベンチャーネットならこう見る|償却のルールを「標準に合わせる・開発する・残す」に分ける
冒頭の問いに戻ります。
計算をシステムに任せる前に、人が決めておくこと。
それは、自社の償却のルール一つひとつの行き先です。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱います。
SAPからのリプレイスにも対応しています。
固定資産の相談では、ルールの一覧を作ったうえで、次の3つに仕分けます。
- 標準に合わせる:システムが持つ償却方法に、自社のルールを寄せる。日本向けの定額法・200%定率法で足りる資産は、ここに入る
- 開発する:標準にない自社独自の方法だけを、設定や追加の開発で補う。FAMには自社で定義する方法もある
- 残す:日本の税務の帳票を専用ソフトで作り続け、仕訳だけをERPに渡す
1つめが多いほど、稼働後の手直しは軽くなります。
日本の税務の帳票を最優先したい会社には、3つめが合います。
もう一つ、仕組みが変われば変わることを、先にお伝えします。
帳票の形、締め処理の考え方、画面の操作感です。
これを知らずに進めると、失敗2のように税理士との間で手作業が増えます。
最初の打ち合わせで伺うのは、次の3つです。
- 資産の件数と、取得・除却が月に何件あるか
- 会計と税務で、償却の方法や年数を分けている資産が何件あるか
- 別表十六と償却資産税の申告を、誰がどの仕組みで作っているか
1と2が少なければ、いまの仕組みのままを勧めることもあります。
今日できること|1時間で台帳を点検する
いまの固定資産台帳を開き、次の4つを数えてみてください。
| 点検の項目 | 数えるもの |
|---|---|
| 資産の件数 | 台帳の行の数 |
| 去年1年の動き | 取得・除却・売却の件数 |
| 会計と税務の差 | 償却の方法や年数が違う資産の件数 |
| 実物の確認 | 台帳にあるのに、使っていない・見当たらない資産の件数 |
動きが月に数件で、差もなければ、いまの管理で足りる見込みが大きいでしょう。
使っていない資産が見つかれば、除却の手続きを税理士と相談してください。
よくある質問
Q1. 定額法と定率法は、どちらを選べばよいですか
資産の種類と税法の決まりでまず絞られます。
建物や建物附属設備・構築物は定額法です。
法人の機械・装置は、届出をしなければ定率法になります(第3章)。
選べる資産の方針は、顧問の税理士と決めてください。
Q2. 残存価額は、いまも差し引いて計算しますか
平成19年4月1日以後に取得した資産では差し引きません。
残存価額は廃止され、帳簿の価額が1円になるまで償却できます(第3章3-1)。
Q3. 10万円の備品も減価償却しますか
10万円未満なら使い始めた年に全額を費用にできます。
20万円未満なら、3年間で均等に償却する方法も選べます(第2章)。
Q4. NetSuiteで、会計用と税務用の償却を分けて持てますか
FAMで税務用の償却方法を資産につけられます。
Oracleのヘルプでは、税務用の償却方法は仕訳の計上と結びつかないと説明されています。
会計の帳簿を分けて持つ場合は、マルチブック会計も関わります(第4章・第6章)。
Q5. 減価償却を自動にすれば、税理士との連携は要りませんか
要ります。
固定資産は税務の申告に直結します。
出てくる帳票が、税理士の作業に合うかを導入前にすり合わせてください(第8章)。
Q6. 固定資産の管理から、NetSuiteの導入を始めるべきですか
多くの場合は販売・在庫などから始める方が進めやすいです。
固定資産は、2つめの段階で本格的に使う進め方もあります。
資産が多く、購買とのつながりが強い会社は、最初から入れる価値があります(第8章・第9章)。
まとめ
- 減価償却は、固定資産の取得価額を耐用年数に分けて費用にする会計処理
- いまの計算式は、定額法が「取得価額×償却率」、定率法が「未償却の額×償却率」
- 残存価額は廃止され、1円まで償却できる
- 会計と税務の償却は目的が違い、一致しないことがある
- 資産が少なければExcelや会計ソフトで足りる。件数・差・拠点が増えたらシステムを考える
- 任せる前に、償却のルールを「標準に合わせる・開発する・残す」に分ける
300万円の機械でも、1年目の費用は30万円や60万円です。
その計算はシステムに任せられます。
任せる前に自社の償却のルールを一覧にすることが、最初の一歩です。
もう少し詳しく知りたい方へ
固定資産の管理をどこまでシステムに任せるかは、資産の件数と、会計・税務の差で変わります。
いまの台帳の点検から、ご相談をお受けしています。
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