利益は1,000万円。
ところが、同じ1年で本業から増えた現金は850万円でした。
キャッシュフローとは、一定期間に会社の現金がどれだけ入り、どれだけ出ていったかを表すものです。
会計上の利益と、手元の現金は一致しません。
その差を見るための道具が、キャッシュフローです。
差の150万円は、どこへ消えたのか。
答えは、売掛金と在庫の中にあります。
月次で3つの区分に分けて見れば、この差は決算を待たずに見えてきます。
(数字は説明のための架空の例です。計算は第3章で示します)
この記事で分かること
- キャッシュフローの3つの区分と、プラス・マイナスの読み方
- 直接法と間接法の計算(架空の数字の例つき)
- 黒字でも現金が足りなくなる仕組み
- Excelで足りる段階と、システムが要る段階の見分け方
- NetSuiteのキャッシュフロー計算書とCash 360でできること
言葉の整理:キャッシュフロー計算書は、損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)と並ぶ財務三表の1つです。
売掛金は、売上は立ったがまだ入金されていないお金のことです。
キャッシュフローの3つの区分
キャッシュフローは、次の3つの活動に分けて見ます。
| 区分 | 何のお金の動きか | 主な例 |
|---|---|---|
| 営業活動によるCF | 本業で生まれる現金 | 売上の入金、仕入・人件費の支払い |
| 投資活動によるCF | 設備や資産の取得・売却 | 設備投資、有価証券の売買 |
| 財務活動によるCF | 資金の調達と返済 | 借入、返済、配当の支払い |
分けると、問いが3つに分かれます。
本業で現金を生めているか。
何に投資したか。
その資金をどう集めたか。
プラス・マイナスの組み合わせの読み方
3つの区分の符号の組み合わせで、会社の状態の見当がつきます。
| 営業CF | 投資CF | 財務CF | 読み方の一例 |
|---|---|---|---|
| + | − | − | 本業の現金で投資し、借入も返している |
| + | − | + | 本業の現金に加え、借入で投資を広げている |
| − | − | + | 本業の現金が足りず、借入で投資と運転資金をまかなっている |
| − | + | + | 資産を売り、借入もして現金を確保している |
表は見当をつけるための目安です。
成長のために意図して投資している会社もあります。
1期だけで良し悪しは決まりません。
営業CFと投資CFを足したものは、一般にフリーキャッシュフローと呼ばれます。
会社が自由に使える現金の目安です。
黒字でも現金が足りなくなる理由
利益が出ていても、手元の現金が尽きれば支払いは止まります。
いわゆる「黒字倒産」です。
利益と現金がずれる原因は、主に3つあります。
- 入金が後になる:売上が立っても、入金は翌月以降が多い(売掛金)
- 支払いが先になる:仕入の代金や人件費は、入金より先に払う
- 在庫に現金が眠る:仕入れて売れていない在庫は、利益には出ないが現金は減っている
3つの原因を図にすると、次のとおりです。
売上が伸びている会社ほど、売掛金と在庫が膨らみます。
受注が増えて喜んでいる時期に、口座の残高は細っていく。
損益計算書だけでは、この動きは読めません。
費用と現金の関係は、発生主義と現金主義の違いや、変動費と固定費の管理でも扱っています。
キャッシュフローの計算方法|直接法と間接法
計算の方法は2つあります。
- 直接法:現金の収入と支出を、そのまま積み上げる方法
- 間接法:当期純利益から始め、現金の動きを伴わない項目を調整する方法
| 観点 | 直接法 | 間接法 |
|---|---|---|
| 計算の起点 | 現金の収入・支出 | 当期純利益 |
| 分かりやすさ | 現金の動きが直感的 | 利益との関係が見やすい |
| 作成の手間 | データを集める負担が大きい | 比較的少ない |
制度上は、営業CFを直接法か間接法のどちらかで表示すると定められています(出典:金融庁「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」、2026年9月確認)。
この基準の間接法は、税金等調整前当期純利益から始めます。
下の例は、考え方を示すため当期純利益から始めています。
間接法の計算の例
冒頭の会社の1年の数字で、営業CFを計算します(数字は説明のための架空の例です)。
| 項目 | 金額 | 考え方 |
|---|---|---|
| 当期純利益 | 1,000万円 | 出発点 |
| +減価償却費 | +200万円 | 費用だが現金は出ていない |
| −売掛金の増加 | −300万円 | 売上は立ったが入金されていない |
| −在庫の増加 | −150万円 | 仕入に現金を使ったが売れていない |
| +買掛金の増加 | +100万円 | 仕入れたがまだ払っていない |
| 営業CF | 850万円 | 本業で実際に増えた現金 |
冒頭の150万円の行き先が、これで見えます。
売掛金と在庫で450万円が眠り、減価償却費と買掛金で300万円が戻った。
差し引きで、現金は利益より150万円少なくなりました。
判断の物差し|Excelで足りる段階とシステムが要る段階
自社の数字をどう見るか
まず、次の3つを毎月見ることから始めます。
- 営業CFはプラスか:本業で現金を生めているか
- 売掛金と在庫の増え方:売上の伸びより速く増えていないか
- 手元の現金は何か月分の支払いに当たるか:月の支払いの総額で割って見る
3つを月次で追うだけで、資金の不足には早く気づけます。
Excelで足りる段階
- 取引の口座が少なく、事業も1つ
- 月次の試算表が、翌月の早い時期に出ている
- 経理の担当者が、毎月同じ手順で集計できている
この段階なら、会計ソフトの試算表とExcelで回せます。
いまはシステムを入れないという判断も、正直な選択肢です。
システムが要る段階
- 事業・部門・拠点が増え、どこで現金が詰まっているかが分からない
- 売掛金・在庫・買掛金のデータが、別々のシステムにある
- 集計に時間がかかり、数字が出るのが翌月の後半になる
こうなると、販売・在庫・会計がつながった仕組みの価値が大きくなります。
売掛金と在庫は、販売と在庫の側で動く数字だからです。
選択肢を比べる
| 選択肢 | 向く会社 | 注意点 |
|---|---|---|
| 会計ソフト+Excel | 事業が1つ、取引が少ない | 部門別や予測は手作業 |
| 会計ソフト+BIツール | 会計ソフトは残し、見える化だけ進めたい | 販売・在庫のデータとつなぐ設計が要る |
| NetSuiteなどのERP | 事業・拠点が多く、販売・在庫とつなげたい | 導入と運用の設計が要る |
| Odooや国産ERP | 業務の範囲や予算に合う製品がある | 製品ごとに機能の範囲を確かめる |
優劣ではなく、自社の段階に合うかで選びます。
移る時期の目安は、ExcelからNetSuiteへ移行すべきタイミングで扱っています。
NetSuiteでキャッシュフローを見える化する
NetSuiteは、Oracleが提供するクラウドERPです。
クラウドERPとは、会社全体の業務を1つのシステムで管理する仕組みを、インターネット経由で使うものです。
キャッシュフロー計算書のレポート
NetSuiteには、キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement)のレポートがあります。
Oracleのヘルプによると、間接法で作られ、損益計算書の当期純利益から始まります。
営業・投資・財務の3つの区分に分け、勘定の残高の変化を調整します。
場所は Reports > Financial > Cash Flow Statement です。
Financial Report Builderで項目の追加や並べ替えができます。
部門・クラス・場所・子会社で絞り込んだり、分けて表示したりもできます(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
ヘルプには注意も書かれています。
独自の区分を作ると、「期首の現金」の値が正しく出ないことがあります。
その場合は、同じ区分を持つ現金のレポートを別に作って参照します。
Cash 360|いまの現金と近い将来の予測
先の見通しには、Cash 360というSuiteApp(NetSuiteに追加するアプリ)があります。
Oracleのヘルプでは、現金の残高の位置と、近い将来の予測を示す機能と説明しています。
予測に使うデータは、次のとおりです(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
- 売掛金・買掛金の取引
- 受注(請求の予定を含む)と発注
- 分割払いの取引
- 手で入れる入出金の行(借入や設備投資など)
予測の期間は、日・週・月で設定できます。
子会社ごとの表示と、連結の表示に対応しています。
受注や発注の段階から予測に入る点が効きます。
売上が伸びる時期の現金の不足に、早めに気づけるからです。
使えるかどうかと費用は、自社のアカウントで確かめてください。
手作業との違い
| 観点 | 手作業(Excelなど) | NetSuite |
|---|---|---|
| 集計 | 手入力・転記が要る | 取引のデータから集計 |
| タイミング | 月次・後追いになりがち | 取引の入力とともに更新 |
| 粒度 | 全社の合計が中心 | 部門・クラス・場所・子会社で分けて見る |
| 将来の予測 | その都度つくる | Cash 360で受注・発注から予測 |
前提を変えた見通しの比較は、計画の仕組みで扱います。
詳しくはNetSuite EPM(経営管理)で扱っています。
財務の指標全体は、財務分析指標とはをご覧ください。
これから仕組みを選ぶ会社と、いま使っている会社
これから選ぶ会社は、機能より先に「誰が・いつ・何を見るか」を決めます。
- 経営者は、月に1回、3区分と手元の現金を見る
- 経理は、週に1回、売掛金の回収の遅れを見る
- 営業の責任者は、受注の予定と入金の予定を見る
見る人と頻度が決まれば、要る機能は絞れます。
資金繰り表の作り方は、資金繰りとはで扱っています。
すでにNetSuiteを使っているのに現金の流れが見えない会社は、次の3点を疑います。
- キャッシュフロー計算書のレポートを、毎月見る人が決まっていない
- 勘定が、3つの区分に正しく振り分けられていない
- 入金の消込が遅れ、売掛金の残高が実態とずれている
2つの立場を並べると、次のとおりです。
機能を足す前に、見る人と手順を決め直す。
それだけで改善する例が多くあります。
銀行の明細の取り込みと消込は、NetSuiteの銀行連携・自動消込ガイドで扱っています。
よくある3つの失敗
失敗1:利益だけを見て、現金の動きを見ていない
起きること:損益計算書は黒字なのに、口座の残高が減り続ける。気づいた時には借入の相談が急ぎになる。
原因:売掛金と在庫の増加で現金が出ていることを、利益の数字からは読めなかった。
避け方:月次の報告に、営業CFと、売掛金・在庫の増減を1行ずつ加えます。
利益の横に並べるだけで、ずれは目に入ります。
失敗2:決算の時だけキャッシュフローを見る
起きること:年に1回の決算でしか現金の流れを見ず、資金が足りなくなってから慌てる。
原因:キャッシュフローを過去の記録と考え、先を読む道具として使っていなかった。
避け方:月次で3区分を見て、受注と支払の予定から数か月先の現金を見積もります。
月次決算の早め方は、月次決算とはで扱っています。
失敗3:全社の合計しか見ず、仕組みを入れただけで終わる
起きること:ダッシュボードを作ったが、全社の合計しか出ず、誰も見なくなる。
原因:どの事業・部門で現金が詰まるかを見る切り口と、見る人を決めていなかった。
避け方:部門や事業ごとに、売掛金の回収の日数と在庫の日数を並べます。
見る人と会議の場を先に決め、画面はそれに合わせて作ります。
画面の作り方は、経営ダッシュボードの作り方で扱っています。
ベンチャーネットならこう見る|現金の管理を「守り→攻め→次へ」で育てる
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、現金の流れの相談を、3つの段階に分けて考えます。
仕組みが定着した先を、「守り→攻め→次へ」の順で描く型です。
現金の管理に当てはめると、次のようになります。
| 段階 | 現金の管理でいうと | 見る数字の例 |
|---|---|---|
| 守り|業務が回る | 販売・在庫・会計のデータが1か所にそろい、月次の3区分が早く出る | 営業CF、月末の預金残高 |
| 攻め|データで打つ | 部門や得意先ごとに、現金が詰まる場所を探して手を打つ | 回収の日数、在庫の日数 |
| 次へ|経営が変わる | 現金の見通しを、KPIや管理会計、投資の判断に組み込む | 数か月先の現金の予測 |
守りが固まる前に、攻めの画面から作りたくなるものです。
元のデータがそろっていなければ、回収の日数も在庫の日数も信用できません。
だから順番を守ります。
1業務・1つの数字から、最短90日で1周目を回す
もう1つの型は、範囲を絞ることです。
最初から全部を仕組みにする必要はありません。
たとえば「売掛金の回収」の1業務に絞り、見る数字も1つに決めます。
そのうえで、最短90日で「見る→手を打つ→結果を見る」の1周目を回します。
1周目が回れば、次に広げる場所は自然に決まります。
在庫か、支払いの予定か、部門ごとの内訳か。
相談の最初に伺うのは、次の3つです。
- いま見えていないのは、全社の現金か、部門ごとか、数か月先か
- 誰が、いつ、その数字を見るか
- 売掛金・在庫・買掛金・受注のデータは、どこにあるか
Excelで足りると分かれば、いまの仕組みを整えることから勧めます。
今日できること|3つの数字を書き出す
直近の3か月について、次の表を埋めてみてください。
| 月 | 当期純利益 | 売掛金と在庫の残高 | 月末の預金残高 |
|---|---|---|---|
| (例)7月 | 80万円 | 1,800万円 | 900万円 |
(数字は説明のための架空の例です)
利益が出ているのに預金が減っている月があれば、売掛金と在庫を分けて見ます。
どちらが増えているかで、最初に手を打つ場所が分かります。
その1つが、90日の1周目の題材になります。
よくある質問
Q1. 利益が出ていれば、キャッシュフローは気にしなくてよいですか
いいえ。
利益と手元の現金は別物で、黒字でも資金が足りなくなることがあります。
入金は後、支払いは先になることが多く、このずれが大きいと資金が不足します。
Q2. 直接法と間接法はどちらで作ればよいですか
制度上はどちらの方法でも構いません。
制度では、どちらかの方法で表示すると定められています(出典:金融庁「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」、2026年9月確認)。
間接法は利益から始めるため、利益と現金の差の理由が見やすくなります。
NetSuiteのキャッシュフロー計算書のレポートも、間接法で作られます。
Q3. 専門知識がなくても、キャッシュフロー管理はできますか
月次で3つの数字を見ることから始められます。
営業CF、売掛金と在庫の増減、手元の現金の3つです。
集計の仕組みが整えば、専門家でなくても流れを追えます。
Q4. 資金繰り表とキャッシュフロー計算書は何が違いますか
主に見る時点が違います。
キャッシュフロー計算書は、過去の一定期間の現金の増減を3区分で示します。
資金繰り表は、これからの入金と支払の予定を月や週で並べます。
Q5. NetSuiteで将来のキャッシュフローを予測できますか
Cash 360というSuiteAppで近い将来の予測ができます。
売掛・買掛・受注・発注などのデータから、日・週・月の単位で予測します。
使えるかどうかと費用は、自社のアカウントで確かめてください。
Q6. NetSuiteを入れれば、キャッシュフロー管理はうまくいきますか
仕組みだけでは変わりません。
レポートや予測は、見る人と見る場が決まって初めて役に立ちます。
見る数字と役割を先に決めてから、画面を作るのが近道です。
まとめ
- キャッシュフローは、一定期間の現金の出入りを表す
- 営業・投資・財務の3区分に分けて、符号の組み合わせで読む
- 黒字でも、売掛金と在庫の増加で現金は不足しうる
- 計算は直接法か間接法のどちらか。間接法は利益から現金の動きを調整する
- Excelで足りる段階では、いまは入れないのも選択肢
- NetSuiteは間接法のレポートと、Cash 360の予測で現金の流れを見せる
利益1,000万円と現金850万円の差は、決算書を待たなくても見えます。
まず直近3か月の利益と預金の動きを、表に並べてみてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
現金の流れを、どの数字から、どの頻度で見るか。
いまの仕組みで足りるかどうかも含めて、ご相談をお受けしています。
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