経営者が「知の幅」を取り戻す——AIに任せる時代に、人が深める判断

AIに仕事を任せてみると、それらしい答えがすぐに返ってきます。資料の下書きも、数字の整理も、競合の調べものも、頼めば数十秒です。便利だ、と思う。

けれど、ふと手が止まる瞬間があります。返ってきた答えに「GOを出していいのか」を、最後に決めるのは自分です。気づけば、自分の専門の外のことは、ほとんどAIや誰かに任せきりになっている。そんな感覚を持つ経営者は、少なくないはずです。

この記事は、その感覚を出発点に、AIに任せる時代の「経営者の学び」について考えます。

目次

任せられるほど、何が自分に残るのか

AIに任せられる範囲は、いま急速に広がっています。少し前なら人がやっていた作業が、次々と機械の側へ移っています。

すると、自然にこの問いが立ちます。「では、社長にしか出せないものは何か」。

ここで、「どの業務をAIに任せ、どの判断を自分が握るか」という線引きの話に進みたくなります。これはとても大事なテーマですが、本記事では深く立ち入りません。業務単位の線引きは、別の記事で正面から扱います(→ AIに任せる仕事、手放してはいけない仕事)。

この記事で考えたいのは、もう少し手前のこと。会社の業務をどう分けるかではなく、経営者個人が、これからどう学ぶかという構えの話です。

最後の判断は「知の幅」から生まれる

ここで一冊の本を手がかりにします。デイビッド・エプスタイン『RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる』です。

世の中では、一つの分野を深く極めた専門家が強い、とされがちです。けれどこの本が指摘するのは、答えのはっきりした世界ではそれが効く一方で、答えのない、先の読めない問題ほど「知の幅」を持つ人が力を発揮する、ということです。一つの専門の物差しだけで見ると、大事な何かを見落とす。経営の判断は、専門の外で得た知識が思わぬ形で結びついたとき、はじめて深くなります。

経営とは、まさに答えのない問いの連続です。値上げに踏み切るか。新しい市場に出るか。人を採るか、仕組みを変えるか。どれも、教科書に正解は載っていません。

AIは、こうした場面で選択肢をいくつも並べてくれます。それぞれの利点も、リスクも、整理してくれる。けれど、そのどれに賭けるか——という意思だけは、人にしか出せません。数字は出せても、「なぜそれを選ぶのか」という意図は、経営者本人の中にしかないからです。

その意思の質を支えているのが、経営者が長い時間をかけて広げてきた知の幅です。

AIに任せる時代、経営者に残るもの AIに任せられる領域 ・作業、下書き ・情報集め、整理 ・選択肢を並べる 任せられる範囲は、広がっていく 任せるほど 人に残り、際立つ領域 ・「理解する」こと ・どれに賭けるか = 意思 むしろ価値が増していく 知の幅(RANGE)が、最後の判断を支える土台 専門の外まで広げた学びが、答えのない問いを深める

図:AIに任せられる領域が広がるほど、人に残る「理解」と「意思」がむしろ際立つ。その判断を支えるのが、専門の外まで広げた知の幅(RANGE)です。

では、何を学べばいいのか

とはいえ、正直に書きます。「幅を広げましょう」と言われても、経営者は忙しい。一から全部を学び直す時間など、どこにもありません。「広く浅くでは、ただの器用貧乏では?」という疑問も当然です。

ですから、ここで言う「知の幅」は、何でも詳しくなることではありません。大切なのは、次の二つです。

  • 専門の外に、意図的に触れること。 自分の業界の外、自分の得意の外に、月に一冊でも、一つの対話でもいい。畑の違う知識が、いつか目の前の判断とつながります。
  • AIを「答えをもらう機械」ではなく「考えをぶつける相手」として使うこと。 AIに結論を委ねるのではなく、自分の仮説をぶつけ、反論させ、抜けを突かせる。壁打ちの相手として使うほど、自分の理解は深まります。

二つ目には、一つの線引きが隠れています。作業や情報集めは任せられても、「理解する」ことだけは人に残る、ということです。AIに調べさせ、整理させることはできる。けれど、それを腹に落として「だからこうする」と腑分けする仕事は、最後まで経営者のものです。

学ぶのをやめる時代ではなく、学び方が変わる時代

最初の不安に戻ります。AIに任せきりになっていく感覚は、「自分の出番が減っていく」ように感じられるかもしれません。

けれど、見方を変えれば逆です。AIに任せる時代は、経営者が学ぶのをやめる時代ではなく、学び方が変わる時代です。細かな作業から手が空くからこそ、専門の外へ視野を広げ、知の幅を太くする余白が生まれます。その幅こそが、最後に残る判断の質を決めます。

知識は、経営者にとって最後まで武器であり続ける——ベンチャーネットは、そう考えています。

知の幅は、一人で抱えるものではない

もっとも、知の幅を一人で背負い込む必要はありません。

AIは、考えをぶつける相手になります。けれど、AIもまた、あなたの思い込みの“外”には立てません。自分の思い込みは、自分にもAIにも見えにくいものです。だからこそ、視点の違う“人”と話すことが効きます。同じ景色を別の角度から見てくれる相手がいると、自分一人では気づけなかった構造が見えてきます。ベンチャーネットも、経営者の壁打ち相手として、そうした幅づくりに伴走したいと考えています。

次の一歩として、関連する記事を置いておきます。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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