ビジネスモデルのどこにAIを置くか——BMCの9ブロックで考える「働くAI」の地図

目次

「AIが良いのは分かった。でも、うちの何に使えばいい?」

AIエージェントが話題です。展示会でも、取引先との雑談でも、「これからはAIに任せる時代だ」と聞く機会が増えました。

けれど、いざ自社に持ち帰ると、手が止まります。「便利そうなのは分かる。でも、うちの“どこに”置けばいいのか」。請求業務だろうか、在庫管理だろうか、それとも営業だろうか。候補は思い浮かぶのに、どこから手をつけるべきか決められない——そんな声をよく聞きます。

迷うのは、やる気がないからではありません。置き場所を選ぶための“地図”が、まだ手元にないからです。この記事では、その地図の描き方を整理します。

なぜ「どこに置くか」が決まらないのか

AIの置き場所が決まらない理由は、はっきりしています。自社の事業を、一枚の絵として見られていないからです。

ふだん私たちは、仕事を“点”で見ています。請求の遅れ、在庫の山、商談の取りこぼし。一つひとつの困りごとは見えても、それらが事業全体のどこに位置するのかは、意外と見えていません。

点で見ていると、AIの置き場所も点でしか考えられません。「請求にAIを入れようか」「いや在庫が先か」と、思いつきの順番で迷うことになります。

必要なのは、会社全体を一枚で見渡す地図です。地図があれば、「いま、どのマスが詰まっているか」「どこから手を打つと効くか」が見えてきます。

会社を一枚の地図にする——BMCの9ブロック

その地図にちょうどいい道具があります。BMC(ビジネスモデルキャンバス)です。BMCとは、会社の儲けのしくみを9つのマスで一枚に描く図のこと。経営学者アレックス・オスターワルダーが広めた枠組みで、ベンチャーネットも小山龍介氏のBMC講座で学び、支援の現場で使ってきました。

9つのマスは、おおまかに3つのまとまりで考えると分かりやすくなります。

  • つくる・仕入れる側:パートナー、主要な活動、リソース(人・モノ・設備)
  • 顧客に届ける側:価値提案、顧客との関係、チャネル(届け方)、顧客層
  • お金の流れ:コスト構造、収益の流れ

自社のBMCを一枚描いてみると、「うちの強みはこのマスに集まっている」「ここが手薄だ」が見えてきます。AIを置く話は、この地図ができてから始まります。

各ブロックに「働くAI」を置く

地図ができたら、いよいよAIの出番です。ここでいう“働くAI”とは、AIエージェント——目標を渡すと、自分で手順を考えて動くAIのことです。9つのマスそれぞれに、どんなAIが宿りうるか。3つのまとまりごとに見ていきます。

BMCの9ブロックに「働くAI」を置く キーパートナー (個別のAIは置かない) 主要活動 需要予測・工程AI リソース 在庫AI 価値提案 提案AI 顧客との関係 問い合わせ対応AI チャネル 商談パイプラインAI 顧客セグメント 顧客分析AI コスト構造 原価モニタAI 収益の流れ 請求・集金AI すべてのマスを支える土台 ひとつのデータベース = 一つの真実(人 × AI × NetSuite)

▲ BMCの9ブロックに「働くAI」を置いた地図。8つのマスにはそれぞれ役割の異なるAIが宿り、キーパートナーにはAIを置かない。すべてのマスは、土台にあるひとつのデータベース(一つの真実)を見て働く。

つくる・仕入れる側 リソースや活動のマスには、在庫を見張るAI、需要を予測するAI、工程の段取りを整えるAIが置けます。「在庫が多すぎる/足りない」「来月どれだけ仕入れるか」といった、数字とにらめっこする仕事です。

顧客に届ける側 顧客との関係やチャネルのマスには、商談の進み具合を追うAI、問い合わせの一次対応をするAI、顧客データを分析して次の一手を提案するAIが置けます。「あの案件、いま止まっていないか」を見落とさない仕事です。

お金の流れ コストと収益のマスには、請求書を作るAI、入金を確認して督促するAI、原価の動きを見張るAIが置けます。手順が決まっていて、毎月くり返す仕事が多い場所です。

それぞれのマスで、AIは同じ動き方をします。いまの状況を読み、自社に貯まったデータを土台にして、段取りを動かす。このくり返しで、決まった手順をなぞるだけでなく、状況に応じて働けます。

ここで挙げた打ち手——在庫、原価、稼働、商談、受注の改善——は、第4章で一つずつ詳しく取り上げています。BMCの各マスは、「その打ち手を、AIで回す版」と考えると地続きになります。

地図が成り立つ土台——「一つの真実」がAIを正しく働かせる

ただし、マスにAIを置けば終わり、ではありません。見落とせない土台があります。

それは、各マスの数字が“一つの真実”であることです。

考えてみてください。在庫のAIが見ている在庫数と、請求のAIが見ている売上が、別々のファイルやシステムに散らばっていたら、どうなるか。AIは、それぞれ違う現実を見て働くことになります。古いデータ、食い違った数字。これでは、賢く動くAIほど、間違った方向へ速く進んでしまいます。

だから、地図の下には共通の土台が要ります。社内の数字を一つの場所にまとめておく仕組み——ERP(基幹システム。会社のお金・モノ・情報を一元管理するしくみ)、たとえばNetSuiteのような単一のデータベースです。すべてのマスが同じ一つの現実を見ているから、どのAIも正しく働けます。

ベンチャーネットは、この姿を「人 × AI × NetSuite = 一つの真実(Single Source of Truth)」という形で描いています。人が「何をゴールにするか」という意志を入れ、AIがマスごとに働き、ひとつのデータベースがすべてを一つの真実として束ねる。地図にAIを置く話は、この土台があって初めて成り立ちます。

(この「一つの真実」が、見える化・わかる化・儲かる化をどう貫くかは、別の記事で詳しく取り上げています。)

どこから置くか/よくある疑問

地図の描き方は見えてきました。最後に、「では、どこから手をつけるか」を整理します。

小さく、一つのマスから始める。 いきなり全部のマスにAIを置こうとすると、どこで何が起きているか追えなくなります。まずは一つ。手順が決まっていて、毎月くり返すお金の流れ(請求・集金など)は、最初の一歩に向いています。

役割を決めてから渡す。 AIに仕事を任せるときは、人に頼むときと同じで、「何をゴールにするか」「どこから人に戻すか」を先に決めます。ベンチャーネットは、この取り決めを業務改善の現場で積み重ねてきました。AIに仕事を任せる作法そのものは、別の記事にまとめています。

よくある疑問にも触れておきます。

Q. うちのような中小企業でも使えますか? 使えます。大きな仕組みを一度に入れる必要はありません。地図の中の一つのマスから、小さく始められます。

Q. 全部AIに置き換わるのですか? いいえ。AIはマスの中で実行し、見張る役です。「何を正解とするか」を決める判断は、最後まで経営者の仕事です。

Q. どのマスから始めればいいか分かりません。 まず自社のBMCを一枚描き、「いちばん詰まっているマス」を探すところからです。

まとめ——地図を描き、役割を置き、一つの真実で支える

AIをどこに置くかは、思いつきの順番では決まりません。順序があります。

  • まず、会社を一枚の地図(BMC)にする
  • 次に、各マスに“働くAI”の役割を置く
  • そして、その土台に「一つの真実」のデータベースを敷く

この3つが揃って初めて、AIは事業の中で正しく働きます。

とはいえ、自社のBMCを描くとき、いちばん難しいのは「自分の会社を、客観的に一枚にする」ことです。中にいると、当たり前すぎて見えないマスや、混ざってしまうマスがあります。外から一緒に描くと、その死角が埋まり、置きどころの順序が見えてきます。

ベンチャーネットは、この地図を一緒に描き、「どこにAIを置くか」を順序立てて考える伴走をしています。まずは自社の事業を一枚に描くところから、声をかけてください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次