作りすぎと売り逃しを、どちらも減らす——PSI管理という儲かる化の打ち手

倉庫には在庫が積み上がっている。なのに、いざ注文が入った売れ筋にかぎって欠品している。そんな経験はないでしょうか。

作りすぎれば資金が在庫に寝てしまい、足りなければ売り逃す。この「需給のズレ」は、気づかないうちに利益を少しずつ削っていきます。

ベンチャーネットは、この需給のズレを整える打ち手として「PSI管理」をおすすめしています。本記事では、PSI管理が経営にとってどんな意味を持つのかを、経営者の目線で整理します。

目次

その「需給のズレ」、現場では毎日起きている

需給がズレるのは、誰かがサボっているからではありません。むしろ逆で、各部門がそれぞれ正しく動いているからこそ起こります。

  • 営業は、欠品で商談を逃したくない。だから在庫は多めに持ちたい。
  • 製造は、段取り替えの手間を減らしたい。だから、まとめて作りたい。
  • 財務は、資金が在庫に寝るのを避けたい。だから在庫は減らしたい。

どの言い分も、その部門にとっては正しいのです。ところが、3つを足し合わせると噛み合いません。

結果として、倉庫には動かない在庫が残り、その一方で売れ筋は欠品する。「余っているのに、足りない」という奇妙な状態が、多くの現場で日常的に起きています。

なぜ需給はズレるのか——部門ごとの正しさが、全体の損になる

この「部分では正しいのに、全体では損になる」現象には、名前があります。合成の誤謬です。一人ひとり、一部門ずつが合理的に動いても、足し合わせると不合理な結果になる、という考え方です。

需給のズレは、まさにこれです。営業・製造・財務が、それぞれ自部門にとって最適な判断をする。その結果、会社全体では在庫が偏り、利益が削られていきます。

図1 各部門の正しさが、全体ではズレる 営業 欠品で商談を逃したくない → 在庫は多めに 製造 段取り替えを減らしたい → まとめて作りたい 財務 資金を在庫に寝かせたくない → 在庫は減らしたい 足し合わせると、噛み合わない 在庫は偏り、売れ筋は欠品。利益が静かに削られていく

図1 各部門が自部門にとって正しい判断をしても、全体では需給が噛み合わなくなる(合成の誤謬)。

しかも、近年はこのズレが起きやすくなっています。理由は2つあります。

  • 需要が読みにくい:商品の種類が増え、一つあたりの数量は減る(多品種小ロット化)。売れ方の予測が難しくなっています。
  • 計画が勘に頼りがち:販売の見通しが担当者の経験頼みだと、生産も在庫もその後を追うしかなく、ズレが積み重なります。

そしてもう一つ、見落とされやすい原因があります。各部門が同じ数字を見ていないことです。営業は営業のExcel、製造は製造の管理表。数字の出どころがバラバラなままでは、擦り合わせようにも土台が揃いません。

つまり需給のズレは、誰かの怠慢ではなく、「部門ごとの正しさを束ねる仕組みがない」という構造の問題なのです。

PSI管理とは、生産・販売・在庫を擦り合わせて打ち手を決める

PSI管理とは、生産・仕入れ(P:Production/Procurement)・販売(S:Sales)・在庫(I:Inventory)を擦り合わせる需給調整の手法です。製造業ならP=生産、流通業ならP=仕入れと考えてください。この3つの数量を一つのテーブルに並べて突き合わせ、欠品と過剰在庫の両方を防ぐことを目指します。

先ほど見た「各部門がバラバラの数字を見ている」状態を、ここで解きます。営業の販売見通し、製造の生産計画、倉庫の在庫実績。これらを同じ場に並べ、ズレを擦り合わせるのです。

擦り合わせる場が、月に一度のPSI会議です。ただし、ここで一番大切なことがあります。

数字を読み上げて終わる「報告会」にしないこと。

報告だけでは、何も変わりません。「来月はこの商品を増産する」「この在庫は売り切る」。そこまで打ち手を決めて初めて、PSI管理は機能します。

起点になるのは「販売計画の精度」

3つの中でも、すべての出発点になるのが販売(S)の見通しです。ここがブレると、生産も在庫も連動してブレるからです。

その販売の精度を支えるのが、商談パイプライン(受注見込みの可視化)と、客先受注の予測です。「いつ・何が・どれだけ売れそうか」が見えていれば、生産と在庫はそれに合わせて先回りできます。

その販売の見通し(需要予測)が当たらないのには、理由があります。多くは「人の思い込み」です。品切れを恐れて、つい計画を高めに置いてしまう。営業は「売りたい数字」を、製造は「作りたい数字」を入れてしまう。

だからPSI管理では、過去の実績という”事実”に、販促や新商品といった”未来の意思”を、根拠とともに足していきます。大切なのは、その意思入れが「願望」ではなく「根拠ある調整」であること。なぜその数字にしたのか、理由を残しておくことです。

図2 PSI管理:事実と意思入れで需給を整える 過去の実績(事実) 売上・在庫・欠品の記録 未来の意思入れ 根拠ある調整(販促・新商品) 販売計画(S) 需要予測 生産・仕入れ(P) 在庫(I) 月次のPSI会議で擦り合わせ、打ち手を決める 欠品と過剰在庫を、どちらも防ぐ 資金が在庫に寝なくなり、売り逃しも減る = 利益が残る

図2 販売計画(S)を起点に、生産・仕入れ(P)と在庫(I)を連動させ、月次のPSI会議で打ち手を決める。

販売の見通しをどう精度よく立てるかは、別記事「客先受注を予測する」で詳しく扱います。また、PSI会議の出席者の決め方や進行の手順といった運用面は、「PSI会議とは」で具体的に解説しています。本記事は、その手前にある「なぜ経営者がこの会議に関わるべきか」に絞ってお話しします。

需給が整うと、経営の何が変わるか

PSI管理がうまく回り始めると、経営の数字に3つの変化が表れます。

1つ目は、資金が動き出すこと。 過剰在庫が減れば、これまで在庫の形で倉庫に寝ていた資金が手元に戻ります。同じ売上でも、使えるお金の余裕が変わってきます。

2つ目は、売り逃しが減ること。 売れ筋の欠品が減れば、「あれば売れたのに」という機会損失が小さくなります。需要を取りこぼさない体制に近づきます。

3つ目は、意思決定が変わること。 「たぶん売れるだろう」という勘ではなく、数字を見て「だから増産する/絞る」と判断できるようになります。経営判断の土台が、感覚からデータへ移っていきます。

この3つはどれも、利益として手元に残るお金に直結します。需給を整えることは、売上を増やすのとは別ルートで、利益を厚くする打ち手なのです。

「同じ数字を見る」ための土台

ここで効いてくるのが、部門をまたいで数字が一つに揃っているかどうかです。

営業・製造・財務が別々のExcelを持ち寄る限り、会議の大半は数字の照合作業に消えてしまいます。NetSuiteのようなERP(基幹業務を一つに統合する仕組み)で土台が揃っていれば、同じ数字を前提に、いきなり「では、どう手を打つか」の議論から始められます。

道具が主役なのではありません。同じ数字を見て、経営の打ち手を決める。その土台として、統合された仕組みが効いてくる、ということです。

PSI管理を始めるときの、よくある疑問

Q. 専用システムがないと始められませんか?

いいえ。最初はExcelでも始められます。大切なのは道具より、生産・販売・在庫の数字を同じ場に並べて擦り合わせる「習慣」のほうです。ただし、扱う商品数が増えて照合作業に時間を取られるようになったら、仕組みの統合を検討するタイミングです。

Q. 何から手をつければいいですか?

いきなり全商品を対象にしないことをおすすめします。まずは売上や在庫の大きい主力商品など、範囲を絞って小さく回すのが現実的です。月に一度の小さなサイクルを回しながら、対象や精度を少しずつ広げていきます。

Q. 会議がいつも「報告会」で終わってしまいます。

数字の確認で時間切れになるのは、各部門が別々の数字を持ち寄っているのが一因です。土台の数字を揃え、会議では「で、どう手を打つか」から始める。そして必ず一つでも打ち手を決めて終える。この2点で、報告会は意思決定の場に変わります。

Q. 需要予測はAIに任せられますか?

予測の計算そのものは、AIやシステムが得意とする領域です。一方で、「その数字を受けて、増産するか・絞るか」という最終判断は経営の仕事です。AIが選択肢を示し、人が決める。この役割分担を崩さないことが、PSI管理を形だけにしないコツです。

需給調整は、現場作業ではなく経営プロジェクト

PSI管理は、一見すると在庫や生産の現場の話に見えます。けれども、ここまで見てきたように、その本質は部門ごとの正しさを束ね、会社全体の利益を最大化する経営判断です。

営業・製造・財務という、利害の異なる部門のあいだに立って、全体最適の方向へ裁定を下す。これは現場の誰か一人にできることではありません。経営が関わって初めて動く、れっきとした経営プロジェクトです。

ベンチャーネットは、経営を「見える化」し、その数字を「わかる化」し、最後に「儲かる化」へつなげる、という順序を大切にしています。PSI管理は、その儲かる化にあたる打ち手です。数字を見えるようにするだけでなく、見えた数字をもとに需給を整え、利益として手元に残す。そこまでやり切ってこそ、経営は前に進みます。

「在庫は余るのに、売り逃す」。もしそんな状態に心当たりがあるなら、それは需給を束ねる仕組みがまだ整っていないというサインかもしれません。

やっかいなのは、自部門の論理は、その中にいる人ほど見えにくいことです。営業には営業の、製造には製造の「正しさ」があり、当事者だけで全体最適を裁くのは簡単ではありません。だからこそ、外から経営の視点で並走する存在が一人いると、判断がぶれずに前へ進みます。

  • PSI会議の具体的な進め方を知りたい方は「PSI会議とは」へ
  • 販売の見通しの立て方は「客先受注を予測する」へ
  • 各打ち手を一つの仕組みで貫く全体像は「単一データベースで経営を貫く」へ

ベンチャーネットは、NetSuiteの導入支援を通じて、こうした需給調整の仕組みづくりを経営の視点から伴走しています。自社の需給のズレをどう整えるか、一度ご相談ください。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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