原価変動と価格転嫁の打ち手

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値上げを言い出せない、その実態

仕入れや原材料の値段は上がり続けている。けれど、お客様に値上げを切り出すのは、いつも気が重い。「断られるかもしれない」「他社に乗り換えられるかもしれない」。そう考えるうちに交渉の機会を逃し、結局は自社が原価上昇を呑み込んでしまう。気づけば、利益だけがじりじりと削られている——。

こうした悩みは、決して特別なものではありません。中小企業庁の調査では、コスト増加分のうち価格に反映できた割合(価格転嫁率)は53.5%でした(2025年9月時点)。つまり、上がったコストの半分近くを、多くの中小企業がまだ価格に乗せられていません。増えた分を全額転嫁できた企業は、27.3%にとどまります。

価格転嫁は、気合いや交渉度胸の問題に見えがちです。けれど、ベンチャーネットは少し違う見方をしています。これは「進め方」の問題、つまり構造で解ける課題だと考えています。

なぜ価格転嫁はこんなに難しいのか

値上げの交渉が難航する理由の多くは、交渉が「原価起点」になっていることにあります。「原価が上がったので、その分を上げさせてください」。一見もっともな説明ですが、相手の立場からは「そちらの都合」に聞こえてしまいます。だから抵抗される。

もう一つの理由は、もっと根が深いところにあります。自社がお客様にどれだけの価値を生んでいるのか、それを自分でも数字で掴めていないことです。価値が見えていないから、価格に確信が持てない。確信がないから、強気に出られない。これが、値上げを切り出せない本当の構造です。

ベンチャーネットは、経営を「見える化・わかる化・儲かる化」という三つの段階で捉えています。価格転嫁は、その最後の「儲かる化」にあたります。けれど、いきなり儲けにはたどり着けません。まず自社の付加価値を数字で見える化し、その裏側の構造をわかる。その順番を踏んではじめて、価格は動かせるようになります。

原価起点の交渉と価値起点の交渉では、相手への伝わり方がこれだけ違います。

観点原価起点の交渉価値起点の交渉
値上げの理由原価が上がったからお客様が得る成果が大きいから
相手の受け取り方「そちらの都合」に映る自社のメリットに映る
価格の比べられ方他社と価格で比較される比較されにくい
交渉相手との関係値上げを迫る相手課題を一緒に考える相手

価格転嫁の進め方——付加価値で価格を決め直す3つの手順

では、具体的にどう進めればよいのか。ベンチャーネットが大切にしている手順を、三つに整理します。

図1 価格転嫁の進め方 ― 3つの手順 1 付加価値を数字で見える化する 自社が生む変化(短縮した時間・減らせたコスト)を数字にする 2 価格の前に「価値」を見せる 特徴ではなく、お客様が得る成果を先に伝える 3 数字で確認してから交渉する 値上げしても利益が守れる分岐点を、先に計算しておく

図1:価格転嫁を進める3つの手順。見える化から始め、価値を見せ、数字で確認してから交渉する、という順番が要になります。

手順1:自社の付加価値を、数字で見える化する

利益は、付加価値から事業を回すための費用を引いたものです。とてもシンプルな引き算ですが、ここで効いてくるのが「どの数字を動かすと利益が最も大きく変わるか」という視点です。

販売価格、原価、販売数のどれを動かしても、利益は変わります。けれど、同じ割合だけ動かしたとき、利益への効き目が最も大きいのは販売価格です。値付けこそ経営の核心だと言われるのは、このためです。値上げは、コスト削減や販売数の上積みよりも、はるかに利益を押し上げる力を持っています。

まず取りかかるのは、自社がお客様にもたらしている「変化」を、数字で掴むことです。納期がどれだけ短くなったか、何時間の手間が省けたか、どれだけのコストを減らせたか。この付加価値が見えると、価格の根拠が自分の中に立ち上がります。

手順2:価格の前に、「価値」を見せる

価格がつくのは、「他では手に入らない価値」が相手に伝わったときです。これは、キーエンス出身のコンサルタント・田尻望氏が説く高付加価値経営の考え方でもあり、ベンチャーネットも学んできました。鍵になるのは、伝える順番です。多くの提案は、自社の機能や仕様(特徴)を並べたあとに価格を出します。しかしそれでは、相手は機能と価格を見比べて「高い」と感じてしまう。そうではなく、その機能がお客様にとってどんな変化を生むのか(利点)を、価格を伝える直前に見せる。価格を、機能ではなく「得られる成果」と並べてもらうのです。

図2 価格を伝える順番 × 特徴・機能 価格 「高い」と 比べられる 価値 (得られる成果) 価格 比較され にくい

図2:特徴のあとに価格を出すと、機能と価格を見比べられて「高い」と感じられやすくなります。価値(得られる成果)を見せてから価格を示すと、価格は比較されにくくなります。

さらに、お客様自身もまだ気づいていない課題(潜在的なニーズ)に光を当てられると、価格は比較されにくくなります。検索すれば同じものが見つかる土俵から、一歩外に出られるからです。

手順3:「値上げしても利益は守れる」を数字で確かめてから交渉する

値上げをためらう最大の理由は、「客が離れて売上が落ちるのでは」という不安です。けれど、ここは一度、冷静に数字で確かめる価値があります。

仮に価格を上げて販売数が多少減っても、一個あたりの利益は増えます。そのため、粗利益や営業利益はむしろ増えるケースが少なくありません。どこまで数量が落ちたら利益が減るのか——その分岐点を先に計算しておけば、「ここまでは大丈夫」という確信を持って交渉に臨めます。

交渉の場では、「原価が上がったから」だけを理由にしないことが大切です。値上げをしても取引先の事業が回ることを示し、相手の成功も一緒に設計する。そうすれば、交渉相手は値上げを迫る相手ではなく、課題を一緒に考える味方に変わっていきます。

価格転嫁が進んだ先にある経営の姿

価格転嫁は、その場限りの交渉テクニックで終わらせると、毎回ゼロからの消耗戦になります。けれど、付加価値と原価を常に数字で見える化する習慣が社内に根づくと、交渉のたびに根拠を組み直す必要がなくなります。値引き合戦から、価値で選ばれる経営へ。少しずつ、立ち位置が変わっていきます。

ひとつ、正直にお伝えしたいことがあります。自社の付加価値や「当たり前にやっていること」の値打ちは、当事者であるほど、かえって自分では見えにくいものです。毎日続けている仕事ほど、価値として意識に上りません。だからこそ、外からのもう一人の視点が入ると、見える化は一気に進みます。価格転嫁を一人で抱え込む必要はありません。

仕組みの面では、原価・販売・利益のデータが一つの場所でつながっていると、この見える化が支えられます。ベンチャーネットが扱うクラウドERP「NetSuite」(会計・販売・在庫などを一つにまとめる経営システム)も、その土台のひとつです。

よくある疑問と、つまずきやすい点

Q. 値上げをしたら、お客様が全部離れてしまうのでは?
すべてのお客様が離れるわけではありません。 手順3のように、どこまで数量が落ちても利益を確保できるかを先に計算しておくと、過度に恐れる必要がないことが見えてきます。値上げで多少数量が減っても、一個あたりの利益が増えるぶん、粗利益や営業利益はむしろ増えることも多いからです。

Q. うちには、他社と違う差別化要素なんてない。
「差別化要素がない」と感じる会社ほど、価値が見えていないだけのことが多いです。 多くの会社が「当たり前にやっていること」の中に、お客様にとっての価値が埋もれています。納期、対応の速さ、安心して任せられること。それらを言葉と数字にするところから始められます。

Q. 相手が大手で、こちらに交渉力がない。
大手が相手でも、まず協議のテーブルにつくことが第一歩です。 価格交渉の環境は、以前より整いつつあります。発注側からの価格交渉の申し入れも広がり、一方的な価格決定を禁じるルールの整備も進んでいます。臆さず相談を持ちかけてよい状況になってきています。

つまずきやすいのは、次の三つです。原価上昇だけを値上げの理由にすること。価値を見せる前に価格を提示してしまうこと。そして、すべてのお客様を一律に考えてしまうこと。この三つを避けるだけでも、交渉の手応えは変わってきます。

まとめ——価格転嫁は、根性ではなく構造で解ける

価格転嫁は、勇気や粘りだけで挑むものではありません。自社の付加価値を見える化し、価値を価格の前に見せ、数字で確信を持って交渉する。手順を踏めば、進めていける課題です。

ベンチャーネットは、こうした「経営の見える化から儲かる化まで」を、中小企業の経営者とともに考えています。まずは自社の数字を見えるようにするところから。次の一歩について、気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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