客先受注を予測する

目次

客先からの注文が読めず、いつも振り回されていませんか

客先から内示は来る。けれど、その数字は当てにならない。内示(確定前の発注見込み)を信じて作れば在庫が余り、絞って構えれば今度は足りなくなる。こうした感覚に覚えのある経営者は、決して少なくありません。

多くの会社で、受注予測は「どうせ当たらないもの」と半ば諦められています。そして予測そのものが、現場任せの庶務として扱われがちです。けれど実際には、受注をどう読むかは、会社の現金・納期・信用を左右する、経営の中核にある活動です。

ベンチャーネットも中小企業の経営を支援するなかで、この「客先に振り回される」場面に何度も立ち会ってきました。本記事では、受注予測の打ち手を、ツールの話に入る前に、経営の視点から整理します。

なぜ、客先の受注は読めないのか

受注予測が外れる第一の原因は、実は予測モデルの精度ではありません。多くの場合、原因は「組織と習慣」のほうにあります。

よくあるつまずきは、大きく3つです。

  • 思考のクセ:品切れが怖くて、つい高めに見積もる。手元にある情報だけで判断する。似た商品の需要が落ちているのに見落とす。
  • 勘の属人化:特定の人の経験だけが頼りで、その勘がどう働いているのか誰も説明できない。担当が変われば予測も崩れる。
  • 振り返らない:外れた理由を記録しないので、いつまでも同じ外し方を繰り返す。

もう一つ、土台で起きやすい落とし穴があります。「欠品は『売れなかった』ではなく、『売れなかっただけ』」ということです。欠品していた期間は売上がゼロになりますが、それは需要がなかったからではありません。この実績ゼロを「需要ゼロ」と取り違えると、予測の土台となるデータそのものが歪んでしまいます。

受注予測は、ただ精度を上げればよい計算問題ではありません。まず「構造として理解する」対象なのです。

受注予測を立て直す、3つの打ち手

図1:受注予測を立て直す3つの打ち手 1 過去の実績に「未来の意思」を載せる 意思入れは“根拠ある調整”であって、願望ではない 2 全部門が、同じ一つの数字を見る S&OPで営業・製造・経営のズレをなくす 3 勘の発注を、式に置き換える 発注点=リードタイム中の需要 + 安全在庫

3つの打ち手は、上から順に土台を積み上げる関係にある。

打ち手1:過去の実績に、「未来の意思」を載せる

予測の土台になるのは、過去の受注や出荷の実績です。ただし、過去をなぞるだけでは未来は読めません。そこに、これから起きること——販促の計画、新しい取引の開始、客先の生産計画の変化——を載せて補正します。これを「意思入れ」と呼びます。

ここで一番大切なのは、意思入れは「根拠ある調整」であって、「願望」ではないということです。

  • 修正するなら、その理由を必ずセットで記録する
  • 修正の幅は、根拠(販促の強度や過去の類似ケース)から決める
  • 「営業が売りたい数字」をそのまま入れない

理由のない上方修正は、予測ではなく祈りになってしまいます。なぜその数字にしたのかを残しておくことが、後で振り返り、直していく土台になります。

打ち手2:全部門が、同じ一つの数字を見る

予測がうまくいかない会社には、共通の特徴があります。営業は「売れる」と言い、製造は「作れない」と言い、経営は「在庫が多い」と言う。部門ごとに、違う数字を見ているのです。

ばらばらの数字を見ている会社に、当たる予測はありません。そこで必要になるのが、販売と生産・調達の計画を全社で突き合わせる仕組みです。これをS&OP(販売と生産・調達の計画を統合し、需要と供給のバランスを全社で取る経営プロセス)と言います。

客先の内示が揺れても、営業・製造・調達が同じ画面の同じ数字を見ていれば、振り回されずに済みます。「どこまで作り、どこから先は様子を見るか」を、全員が同じ前提で決められるようになります。

打ち手3:勘の発注を、式に置き換える

予測ができたら、それを発注というアクションに変えます。ここで「勘」を「式」に置き換えます。

  • 発注点=リードタイム(発注してから届くまで)の間に売れる量 + 安全在庫
  • 安全在庫は、「欠品をどこまで許すか」というサービスレベルから逆算して決める

欠品をほぼ許さないのか、ある程度は許容するのか。その方針から必要な在庫の厚みが決まります。発注は、度胸ではなく設計です。

過去データがない場合や、内示が大きく揺れる場合には、別の引き出しを使います。

  • 似た製品の「立ち上がりの曲線」を借りて当たりをつける
  • 営業・調達・現場など複数の専門家の見立てを匿名で持ち寄り、すり合わせて収束させる(デルファイ法)
  • 初期は控えめに構え、実績を見ながら週次・日次で更新していく

予測の手法は、難しいものを選ぶ必要はありません。手元のデータの状況で選ぶのが基本です。

データの状況まず使う手法
実績が十分にあり、動きが安定している移動平均・指数平滑(直近を重く見て平らに均す)
季節やイベントで規則的に上下する季節の波を織り込んで読む
新規・実績がない似た製品の動きを借り、複数人の見立てを集める(デルファイ法)
内示が大きく揺れて読みにくい安全在庫を厚めに取り、実績を見て速く更新する

大切なのは、完璧な手法を選ぶことではありません。いまあるデータで始め、外れたら直していくことです。

そして、忘れてはいけない順序があります。AIの前に、やることが3つあるということです。

図2:AIの前に踏む3つの段 1 見える化 受注と在庫を データで把握 2 ルール化 発注点・安全在庫 を勘でなく式に 3 統計予測 まずは移動平均 など手の届く手法 AI 土台が整って初めて効く 土台を踏む順

AIは最上段。下の3段(見える化・ルール化・統計予測)を踏んで初めて効く。

  1. 見える化(受注と在庫の動きをデータで把握する)
  2. ルール化(発注点や安全在庫を、勘でなく式にする)
  3. シンプルな統計予測(まずは移動平均など、手の届く手法で)

この階段を踏まずにAIを入れても、汚れたデータの上で速く間違うだけになりかねません。AIはあくまでデータの鏡です。思考の一部はAIに任せられても、自社の受注がなぜそう動くのかを理解することは、最後まで経営者の仕事として残ります。

受注予測で、よくある3つの失敗

打ち手を知っていても、進め方を誤るとかえって苦しくなります。ベンチャーネットがよく見かけるつまずきを、先回りで挙げておきます。

失敗1:いきなりAIやシステムを入れる
順序を飛ばして道具から入ると、整っていないデータの上で動くため、効果が出ません。受注が読めない原因は、道具よりも仕組みと人にあることが大半です。
→ まず見える化とルール化から。道具はその後。

失敗2:予測を「当てるもの」と考える
完璧に当たる予測を待っていると、いつまでも勘の発注から抜け出せません。
→ 許容できる誤差をあらかじめ決め、外れたら直す。予測は当てるものではなく、振り返って直し続けるものです(平均で何%外れたかを“通信簿”にして、単月でなく数か月の方向で見ると続けやすくなります)。

失敗3:営業の「希望数字」をそのまま入れる
売りたい数字を予測に混ぜると、予測は飾りになります。
→ 意思入れには必ず根拠と記録を。誰が見ても理由がたどれる状態にしておく。

つまずきを先回りで言葉にできることは、それ自体が経営の地図になります。

受注が読めると、経営はどう変わるか

受注が読めるようになると、欠品と過剰の間の細い道を通せるようになります。同じ売上でも手元に残る現金が増え、納期が安定し、客先からの信用も厚くなります。

大切なのは、受注予測は「当てっこ」ではない、ということです。それは、自社の供給力をどう設計するかという、経営そのものの判断です。

そしてこれらの打ち手は、販売・在庫・生産・会計のデータが一つの場所でつながって初めて、力を発揮します。数字が見えるようになり、その裏の構造がわかるようになり、手を打って儲かる。受注予測は、この一本の流れの結節点に立っています。

図3:見える化→わかる化→儲かる化の流れ 見える化 数字が見える わかる化 構造がわかる 儲かる化 手を打って儲かる 受注予測は、この流れの結節点

受注予測は、見える化から儲かる化へ向かう流れの結節点に立つ。

なお、受注予測を具体的にシステムで実装する方法は、別の記事で解説しています。ここでは、その手前にある「経営としての考え方」に焦点を当てました。

よくある疑問

Q. 受注予測は、まず何から始めればいいですか。
過去の受注実績を時系列で並べ、「外れた月」とその理由を書き出すところから始めることをおすすめします。モデルを選ぶより先に、振り返る習慣をつくるほうが実用的です。

Q. 客先の内示が大きく動きます。どう扱えばいいですか。
内示は「未来の意思」の手がかりの一つです。鵜呑みにせず、過去の内示と実際の受注のズレ(クセ)を見て補正します。そのうえで、営業・製造・調達が同じ数字で握ることが、振り回されないための鍵になります。

Q. AIを入れれば、受注は当たるようになりますか。
多くの場合、それだけでは当たりません。データが整っていなければ、むしろ外れます。見える化・ルール化・統計予測という段階を踏んだ先の道具だと考えてください。

Q. 予測が外れたら、誰の責任になりますか。
外れること自体は、責められるべきものではありません。問題は、記録せず、振り返らないことのほうです。毎月、誤差を見て直していく。その前提を全員で共有しておくことが大切です。

まとめ:勘の世界から、設計と振り返りの世界へ

受注予測を立て直すことは、単なる精度向上ではありません。客先に振り回される勘の世界から、根拠と記録にもとづく設計の世界へ、受注の読み方を移していく経営判断です。

一歩目は、受注実績を並べ、外れた理由を書き留めること。本当に難しいのは、部門ごとのズレや勘の属人化といった「仕組みと人」の壁を越えて、予測を回し続けることです。ここは、社内だけで進めようとすると止まりやすい場所でもあります。

そして受注予測が外れる原因の多くは、自部門のクセや「こうあってほしい」という希望——いわば、自分では見えにくい思い込みです。だからこそ、外からもう一つの目が入ると、予測は動き出します。

ベンチャーネットは、中小企業の経営を、ツール導入の前に「どこで受注が読めなくなっているのか」を見極めるところから支援してきました。受注実績を振り返る一歩目から、仕組みと人が動き続けるところまで、伴走します。

この記事と一緒に読みたい

  • 受注の手前、商談の段階を整える:4-6「商談パイプラインを管理する」(/virtualblog/sales-pipeline-management/)
  • 受注と表裏にある在庫:4-5「在庫日数を圧縮する」(/virtualblog/inventory-days-reduction/)
  • 経営指標の全体像(受注予測を計器盤に位置づける):2-2「中小企業が見るべき経営指標」
  • 受注を含めた全体最適:4-8「単一DBが、見える化・わかる化・儲かる化を貫く」(/virtualblog/single-database-three-steps/)
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次