「この請求書は、買掛金ですか。未払金ですか」
経理に入って間もない人から、よく出る問いです。
どちらも「後で支払うお金」なのに、なぜ科目を分けるのか。
買掛金とは、商品や原材料など、本業の仕入で生じた未払の代金です。
未払金とは、備品や固定資産の購入など、本業の仕入以外の取引で生じた未払の代金です。
ここに、継続して受けているサービスの未払分を示す未払費用が加わります。
迷ったら、2つの問いで分けられます。
「本業の仕入か」「継続する契約の途中か」。
ただ、分け方を知っているだけでは、区分は崩れます。
担当者が替わる。請求書が増える。補助簿が追いつかなくなる。
では、区分を崩さないためには、ルールをどこで決めればよいのか。
この記事で分かること
- 買掛金・未払金・未払費用の違いと、迷ったときの判断の順番
- 架空の取引で見る、3つの科目の仕訳の例
- 区分の誤りが、決算書と分析の結論をどう変えるか
- 区分が崩れる3つの失敗と、その避け方
- Excelで足りる段階と、システムが要る段階
買掛金・未払金・未払費用の違い
買掛金
商品や原材料を後払いで仕入れたときに使う科目です。
小売業の商品の仕入、製造業の原材料・部品の購入などが当たります。
「仕入債務」とも呼ばれます。
財務諸表等規則では、買掛金を「通常の取引に基づいて発生した営業上の未払金」と定めています。
(出典:財務諸表等規則 第47条、e-Gov法令検索、2026年9月確認)
未払金
本業の仕入以外の取引で生じた、まだ払っていない代金です。
事務用品や固定資産の購入、修繕の代金などが当たります。
未払費用
継続して受けているサービスのうち、すでに受けた分の対価で、まだ支払っていないものです。
借入金の利息や、月末をまたぐ契約の費用などが当たります。
未払金との分かれ目は、継続する契約の途中かどうか。
1回で完了した取引の未払は未払金、継続する契約の途中の未払は未払費用と考えます。
財務諸表等規則では、未払金と未払費用も流動負債に表示する科目として並んでいます。
(出典:財務諸表等規則 第47条〜第49条、e-Gov法令検索、2026年9月確認)
3つの科目の早見表
| 観点 | 買掛金 | 未払金 | 未払費用 |
|---|---|---|---|
| 生じる取引 | 本業の仕入 | 本業の仕入以外の取引 | 継続するサービスの契約 |
| 具体例 | 商品・原材料の代金 | 事務用品・固定資産の代金 | 借入金の利息・月をまたぐ契約の費用 |
| 取引の状態 | 仕入れた物を受け取った | 物やサービスの提供が完了した | 提供を受けている途中 |
| 支払の時期 | 取引先との締め日・支払日の条件による | 一般に発生から短い期間で払う | 契約の支払日による |
| 貸借対照表 | 流動負債 | 流動負債 | 流動負債 |
3つとも、貸借対照表では同じ流動負債に並びます。
表示の場所が同じだから、中身の取り違えに気づきにくいのです。
迷ったときの判断の順番
- 本業の仕入か:はい→買掛金
- 継続する契約の途中の費用か:はい→未払費用
- どちらでもない→未払金
架空の取引で見る仕訳の例
次の表は、説明のための架空の取引です。
| 月末の取引 | 借方 | 貸方 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 販売用の商品30万円を掛けで仕入れた | 仕入 30万円 | 買掛金 30万円 | 本業の仕入 |
| 事務所のパソコン20万円を買い、翌月払い | 備品 20万円 | 未払金 20万円 | 仕入以外の単発の購入 |
| 3か月ごとに払う借入金の利息のうち、今月分1万円 | 支払利息 1万円 | 未払費用 1万円 | 継続する契約の途中 |
未払費用は、翌月に戻す仕訳を入れることが多い科目です。
発生した時点で費用を計上する考え方は、発生主義の記事で扱っています。
個別の会計処理は、顧問の会計士・税理士と決めてください。
支払ったときの仕訳と、似た言葉との関係
上の3つの取引を翌月に支払うと、それぞれの科目が消えます。
たとえば買掛金なら「借方 買掛金 30万円/貸方 普通預金 30万円」です。
未払費用は、翌月に戻す仕訳を入れたうえで、支払の仕訳をします。
似た言葉とは、次の関係にあります。
| 科目 | 立場 | 対になる科目 |
|---|---|---|
| 買掛金 | 本業の仕入で、払う側 | 売掛金(本業の売上で、受け取る側) |
| 未払金 | 本業以外の取引で、払う側 | 未収入金(本業以外の取引で、受け取る側) |
| 未払費用 | 継続する契約で、まだ払っていない | 前払費用(継続する契約で、先に払った) |
買掛金と売掛金は、ちょうど反対の立場です。
取引先から見れば、自社の買掛金は相手の売掛金になります。
なぜ区分が経営の話になるのか
区分は経理のルールです。
同時に、経営の判断の土台でもあります。
- 決算書の見え方:買掛金が不自然に膨らむと、「仕入の支払が滞っているのか」と誤解されかねない
- 資金繰りの予測:科目ごとに支払の時期が違うため、正しい区分が予測の精度を上げる
- 費用の分析:区分が整えば、どこに削れる費用があるかが見えやすい
- 取引先との信頼:支払の漏れや遅れを防ぎ、関係を保てる
区分の誤りは、分析の結論まで変える
区分が整うと、支払の条件や運転資金の分析に使えます。
買掛債務回転期間は、仕入の代金を払うまでにかかる日数の目安です。
一般に「買掛金÷売上原価×365」で計算します。
キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は、仕入の支払から売上の回収までの日数です。
売掛金・在庫・買掛金の回転期間を組み合わせて見ます。
架空の数字で試してみます。
売上原価が年1億2,000万円、買掛金の残高が2,000万円なら、買掛債務回転期間は約61日です。
ここに固定資産の未払金1,000万円が混ざると、約91日に見えてしまう。
支払を1か月も遅らせている会社に、見えてしまうわけです。
この差を図にすると、次のとおりです。
指標の見方は財務分析指標の記事、資金の流れはキャッシュフローの記事で扱っています。
区分を保つ道具の比較
| 道具 | 向いている段階 | 区分の保ち方 | 残高の鮮度 |
|---|---|---|---|
| 会計ソフト+Excelの補助簿 | 取引が少なく、担当者が1人 | 担当者の判断と補助簿 | 更新した時点 |
| 会計ソフト+請求書受領のSaaS | 請求書の件数が増えてきた | 受け取る時点で科目を選ぶ | 取り込みの頻度しだい |
| ERP(統合型の基幹システム) | 発注・受入・請求・支払を1つにしたい | 発注や取引の入力の決まりで科目を決めておく | 取引の入力と同時 |
下の行ほど、区分を決める時点が前に来ます。
請求書を受け取る時より、発注する時のほうが、取引の性質ははっきりしています。
判断の物差し|Excelで足りる段階と、システムが要る段階
いまの仕組みで足りる段階
- 月の請求書が数十件程度で、経理の担当者が内容を把握できている
- 区分のルールが1枚の表にまとまっている
- 補助簿と会計の残高が、毎月一致している
- 固定資産の購入が年に数回で、担当者が迷わず未払金で処理できている
この段階なら、道具を替えるより、ルールの表を育てる方が効きます。
システムを考える段階
- 補助簿と会計の残高が合わず、毎月調べ直している
- 担当者が替わると、同じ取引の科目が変わる
- 発注・受入・請求書の突き合わせに時間がかかる
- 拠点ごとに処理の仕方が違う
選択肢と合う条件
| 状況 | 合いやすい選択肢 |
|---|---|
| 請求書の件数が少ない | 会計ソフトとルールの表。いまは入れない判断も十分にあり得る |
| 請求書の受け取りの手間だけを減らしたい | 請求書受領のSaaSを会計ソフトにつなぐ |
| 費用を抑えて段階的に広げたい | Odoo |
| 業種の商習慣に合う帳票を重視したい | 業種に強い国産ERP |
| 発注から支払まで1つにし、拠点や会社が増える見込みがある | NetSuiteのような統合型のクラウドERP |
いまの仕組みで区分が崩れているなら、乗り換えの前に設定と入力の決まりを見直します。
勘定の設定が導入時のまま、事業の変化に合っていないこともあります。
それで足りなければ、比較に進みます。
NetSuiteで区分を保つ考え方
NetSuiteは、取引を見て科目を自動で見分けてくれる仕組みではありません。
どの取引をどの科目に計上するかを、設定と設計で決めておく仕組みです。
- 勘定の種類:勘定には「Accounts Payable(買掛金)」などの種類があります。負債には「Other Current Liability(その他の流動負債)」もあります(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。未払金や未払費用をどの種類で持つかを最初に決めます
- 入力の決まり:よく使う取引の科目を例つきの表で決め、入力のたびに迷わない形にします。設定での実現方法は、導入時に提供元・パートナーと詰めます
- 反転仕訳:月末に見越しで計上した未払費用を、翌月に戻す仕訳です。戻す日を指定すると、その日に自動で作成されます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)
- 承認の流れ:金額などの条件で承認を分けられます。詳しくは承認ワークフローの記事で扱っています
支払の実行は、総合振込・支払自動化の記事をご覧ください。
区分が崩れる3つの失敗
失敗1:固定資産の購入代金を買掛金に混ぜる
起きること:機械や備品の代金が買掛金に入り、買掛金が不自然に膨らむ。
原因:「後で払うお金」という共通点だけで判断し、取引の性質まで見ていない。
避け方:本業の仕入かを最初に問う手順を決めます。
固定資産の購入は、発注の段階から別の流れにしておくと混ざりにくくなります。
失敗2:担当者ごとに区分の基準がばらばらになる
起きること:前任者と後任者で、同じ取引の科目が変わる。
原因:区分のルールが言葉になっておらず、担当者の経験に頼っている。
避け方:ルールを例つきの表にして残します。
最初から隙のない表を目指す必要はありません。
迷った取引が出るたびに1行ずつ足していけば、半年で使える表になります。
失敗3:Excelの補助簿が追いつかなくなる
起きること:取引が増え、転記の誤りや更新の漏れが起きる。会計の残高と合わない。
原因:手作業の管理は、件数の増加に弱い。
避け方:まず補助簿と会計の残高の差を、毎月見比べる手順を入れます。
差の調べ直しに毎月何時間もかかるなら、取引の発生時点で記録する仕組みを考える時期です。
ベンチャーネットならこう見る
区分のご相談で、NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットが最初に聞くのは3つです。
- 区分のルールは、例つきの表になっているか
- ルールは、発注・請求書の受け取り・仕訳の、どの時点で使われているか
- 補助簿と会計の残高は、毎月一致するか
型1:見える化→整理整頓→設定
区分は、入力の後で直すより、取引が生まれる時点で決まる形にしたほうが崩れません。
そのために、次の順で進めます。
- 見える化:先月の請求書を書き出し、実際にどの科目で処理したかを並べる
- 整理整頓:迷った取引と、担当者で科目が違う取引を拾い、例つきのルールの表にまとめる
- 設定:その表を、使う仕組みの標準の設定と照らし、入力の決まりに落とす
3つの段階を図にすると、次のとおりです。
表を作らずに製品を選ぶと、いまの迷いを新しい仕組みにそのまま持ち込みます。
いまの道具で足りるなら、3段目は会計ソフトの設定で済みます。
設定で合わない取引は、業務を標準に合わせるか、開発で補うか、手作業で残すかを決めます。
型2:仕組みを入れるなら、定着の4手順で
区分の仕組みを新しくする場合は、次の4つを守ると定着しやすくなります。
- データ整理を最初に:補助簿と会計の残高を合わせてから移す
- 段階的に:件数の多い買掛金から始め、未払金・未払費用へ広げる
- 研修とサポートを厚く:ルールの表を使って、入力する人に説明する
- 操作はシンプルに:使わない科目や入力の項目を盛らない
今日できること(1時間)
- 先月の買掛金・未払金・未払費用の残高を、貸借対照表で見る(10分)
- 先月の請求書から20件を選び、どの科目で処理したかを書き出す(30分)
- 1-5の判断の順番に照らし、迷った取引や違う科目の取引に印をつける(15分)
- 印のついた取引を、ルールの表の1行目に書く(5分)
よくある質問
Q1. 買掛金と未払金を間違えて記帳するとどうなりますか
決算書の見え方が変わります。
買掛金が不自然に多いと、支払の遅れを疑われることがあります。
回転期間などの分析の結論も変わってしまいます(第3章)。
Q2. 未払金と未払費用はどう使い分けますか
継続する契約の途中かどうかで分けます。
1回で完了した取引の未払は未払金、継続する契約の途中の未払は未払費用です。
迷う場合は、契約の形と支払日を見てください。
Q3. 区分の管理を効率化するにはどうすればよいですか
取引が生まれる時点で科目が決まる形にします。
例つきのルールの表をつくり、発注や入力の決まりに反映させます。
件数が少ないうちは、表と会計ソフトで十分です。
Q4. NetSuiteを導入すれば区分は自動で分かれますか
設定と設計を決めておけば、入力のたびに迷わない形にできます。
取引を見て自動で見分ける仕組みではありません。
勘定の種類や入力の決まりは、導入前に業務の棚卸しから決めます。
Q5. 未払費用は毎月計上する必要がありますか
月次決算の精度を上げるなら、毎月の計上が望ましいです。
金額が小さい場合の扱いは、会社の方針で決めます。
顧問の会計士・税理士と相談してください。
Q6. 買掛金と未払金は、貸借対照表でどこに表示されますか
どちらも流動負債に表示されます。
未払費用も同じく流動負債です(出典:財務諸表等規則、e-Gov法令検索、2026年9月確認)。
月次決算の進め方は月次決算の記事で扱っています。
Q7. 買掛金と売掛金は何が違いますか
払う側か受け取る側かの違いです。
買掛金は本業の仕入でまだ払っていない代金、売掛金は本業の売上でまだ受け取っていない代金です。
どちらも取引先との締め日・支払日の条件で残高が動きます。
まとめ
- 買掛金は本業の仕入の未払、未払金はそれ以外の取引の未払
- 未払費用は、継続する契約の途中で、すでに受けたサービスの未払分
- 迷ったら「本業の仕入か」「継続する契約か」の順に問う
- 区分の誤りは、決算書の見え方と分析の結論を変える
- ルールを例つきの表にし、取引が生まれる時点で科目が決まる形にする
「この請求書は、買掛金ですか。未払金ですか」
その問いに、担当者が替わっても同じ答えが返ってくる。
それが、区分が保てている会社の姿です。
まずは先月の請求書20件から、ルールの表の1行目を作ってみてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
区分のルールづくりや、発注から支払までの流れの見直しから、ご相談をお受けしています。
