人が採れない。採れても定着しない。現場は日々の業務で手いっぱい。
新しいことをやりたい気持ちはあるのに、その余力がない。中堅企業の経営者から、こうした声をよく聞きます。
この記事は、そこから始めます。
最初にお断りしておきます。これは未来予測ではありません。
これから描く1日の情景は、2026年時点ですでに存在する仕組みだけでできています。魔法の新技術は出てきません。情景を描いたあと、すぐに種明かしをします。
5年後に変わるのは、機能ではありません。それを当たり前に使っている会社が、どれだけ増えているかです。
この記事で分かること(読了 約13分)
- いまの経営会議で、時間がどこに使われているか
- ある中堅企業の1日(架空)で描く、これからの経営室
- その情景が、どの仕組みでできているか
- 5年後に本当に変わるもの
- この未来図に必要な4つの前提と、つまずく3つのパターン
まず、いまの経営室で起きていること
未来の話をする前に、現在地を確認します。
多くの中堅企業の経営会議は、月曜の朝に開かれます。そこで起きていることは、だいたい共通しています。
数字が古い
会議で見る数字は、先月のものです。月次決算が終わるのが翌月10日前後だとすれば、議論している時点で、その情報は1か月以上前の状態を映しています。
打ち手を決めても、前提が変わっていることがあります。
資料を作ることが仕事になっている
会議資料は、誰かが前日の夜に作っています。複数のシステムから数字を集め、表計算ソフトに貼り、体裁を整える。
資料が完成した時点で、その人の時間は使い切られています。何を議題にすべきかを考える余力は、もう残っていません。
議論の大半が、数字の確認で終わる
会議が始まると、まず数字の説明があります。次に「この数字は何ですか」という質問が出て、担当者が背景を説明します。
気づくと1時間が経ち、判断は次回に持ち越されます。
この3つは、どれも担当者の努力不足ではありません。情報が集まる速度と、資料を作る手間が、構造的にそうさせているだけです。
では、その構造が変わるとどうなるのか。次の章で見ていきます。
ある会社の、ある1日
ここからは、ある会社の火曜日を見ていきます。
この会社は架空です。 従業員はおよそ200名、地方に本社を持つ中堅の製造・卸売企業、という設定にしました。特定の実在企業ではありません。
ただし、これから出てくる仕組みはすべて、2026年時点で実際に存在するものです。次の章で一つずつ種明かしをします。
朝8時|前の晩に、論点が用意されている
経営企画の田中さんが出社してパソコンを開くと、前月の数字がすでに整理されています。
前の晩のうちに、AIが基幹システムから試算表・キャッシュフロー・在庫評価・受注残を読み取り、ダッシュボードにまとめていました。
そこには数字だけでなく、気になる点が5つ並んでいます。
- 前月比で減益。ただし減益分の9割が1社との取引に集中している
- その1社への売上構成比は63%。依存度が上がっている
- 在庫の回転が2品目で鈍い
- 受注残の消化が計画より遅い
- 支払サイトの長期化が1社で発生
田中さんの仕事は、この5つを作ることではありません。5つのうち、今日どれを議題にするかを選ぶことです。
以前は、この資料を作るだけで前日の夜を使っていました。
朝9時半|経営会議で、数字の確認をしない
会議室に7人が集まります。
冒頭で数字の説明はありません。全員が同じダッシュボードを、前日のうちに見ているからです。
議題は1つに絞られています。「1社への依存度63%を、どう扱うか」。
営業部長が言います。「その1社、来期の見込みはどうなっていますか」
田中さんが席から問いかけます。「この取引先の、過去3年の受注推移と単価の変化を出して」
数秒後、画面に推移が出ます。受注は伸びているが、単価は下がっている。
「では、単価が下がり始めた時期の、うちの原価はどうでしたか」
原価も同時に上がっていました。粗利率の低下が、依存度の高さと重なって効いていることが、その場で見えます。
45分の会議で、決まったことは2つでした。新規開拓の目標を四半期で見直すこと。そして、当該取引先との価格改定の交渉を来月に設定すること。
議論の中身が、数字の確認から判断に移っています。
午後1時|現場が、自分の権限の中で聞く
購買担当の佐藤さんが、発注の前に確認をします。
「未回収が500万円を超えている取引先の、今の受注残を出して」
必要な情報がすぐ返ってきます。ただし、佐藤さんに見えるのは購買と債権の範囲だけです。人事情報や他部門の給与データは、そもそも返ってきません。
これは制限ではなく、設計です。AIは、その人の権限の範囲でしか答えないようになっています。
だから佐藤さんは、安心して自然な言葉で聞くことができます。
夕方5時|人が決める場所が、決まっている
一日の終わりに、承認待ちの一覧が上がってきます。
金額が小さく、条件が過去の取引と同じものは、すでに処理が進んでいます。一方、初めての取引先、条件が例外的なもの、金額が基準を超えるものは、人の判断を待つ形で止まっています。
どこまでを自動で進め、どこから人が決めるか。この線引きは、システムが決めたのではありません。この会社が、導入のときに自分で決めました。
だから止まっているものを見ても、誰も驚きません。止まるべきものが止まっている、という状態です。
そして、この線引きは毎年見直されます。
いま描いた1日は、何でできているか
種明かしをします。前の章の情景は、4つの仕組みの組み合わせです。
すべて2026年時点で存在します。順に見ていきます。
| 情景のシーン | 使っている仕組み | 2026年時点の状態 |
|---|---|---|
| 前夜にダッシュボードと論点が用意されている | 基幹システムと外部AIをつなぐ仕組み(AI Connector Service/MCP) | 提供中 |
| 自然な言葉で聞くと数字が返ってくる | 同上。自社が選んだAIを接続して使う(Bring Your Own AI) | 提供中 |
| その人の権限の範囲でしか答えない | ロールベースのアクセス制御 | 提供中。設計上の中核 |
| 決算や照合の状況が自動で整理される | 基幹システムに組み込まれたAI機能 | SuiteConnect 2026で多数発表 |
外部のAIを、自社の基幹システムにつなぐ
情景の中心にあるのは、AI Connector Serviceという仕組みです。
これは、MCP(Model Context Protocol)という共通規格を使って、AIと基幹システムを安全につなぐサービスです。MCPは、AIが外部のシステムを呼び出すための標準的な作法だとお考えください。
特徴は、自社が選んだAIを持ち込める点です。特定のAIに縛られません。
権限を超えては、答えない
この設計でいちばん重要なのは、セキュリティの考え方です。
AIが返す情報は、接続した人の権限に従います。見せてよい範囲を超えて答えることはありません。
なお、管理者や全権限を持つロールでは、この接続そのものが使えない仕様になっています。「全部見えるAI」を作らせない、という設計思想です。
情景で佐藤さんが安心して聞けたのは、この仕組みがあるからです。
基幹システムの側にも、AIが入っている
外部AIとの接続とは別に、基幹システム自体にもAI機能が組み込まれています。
決算プロセスの進捗を一画面で把握するもの、銀行取引を自動で照合するもの、計画と実績のズレを捉えるもの。2026年のSuiteConnectでは、こうした機能が多数発表されました。
2つのAIの違いと使い分けは〈NetSuiteの「純正AI」と「外部AI連携」は何が違う?〉で整理しています。
情景に「魔法」はなかった
改めて確認します。前章の1日に、まだ存在しない技術は出てきませんでした。
出てきたのは、データが1か所に集まっていること、AIがそこに安全につながっていること、そして人が決める場所が決まっていること。この3つだけです。
では、5年後に変わるのは何か
機能は、すでにあります。では5年後に何が変わるのでしょうか。
答えは、普及率と、使いこなしの深さです。
変わるのは、機能より「当たり前の水準」
いま、前章のような使い方をしている中堅企業は多くありません。
しかし5年後には、これが特別なことではなくなっている可能性が高いと考えています。かつて表計算ソフトが特別だった時代が終わったのと、同じ流れです。
そのとき差がつくのは、AIを持っているかどうかではありません。AIが読める形でデータを持っているかどうかです。
3つの段階で考える
| 段階 | 状態 | AIとの親和性 |
|---|---|---|
| 第1段階:データが散っている | 部門ごとに別のシステムと表計算ソフト。同じ指標でも数字が違う | 低い。AIが何を正としてよいか判断できない |
| 第2段階:データが1か所にある | 基幹システムに販売・在庫・会計が集約されている | 中程度。照会と要約が正確に返るようになる |
| 第3段階:権限と判断の線引きが設計されている | 誰が何を見られるか、どこから人が決めるかが決まっている | 高い。AIに任せる範囲を安全に広げられる |
多くの会社は、いま第1段階から第2段階の途中にいます。第3段階まで進んでいる会社は、まだ少数です。
5年という時間は、この3段階を上がるための時間だとお考えください。
🌏 日本での提供状況について
本記事で触れた機能は、提供状況が機能ごとに異なります。
たとえば、定型の指示文(プロンプト)を役割別にそろえた支援機能は、まず英語で提供が始まっており、追加言語への拡大が予定されている段階です。基幹システムに組み込まれたAI機能も、リリースごとに提供範囲が広がっています。
自社のアカウントで何が使えるかは、個別の確認が必要です。ベンチャーネットでも現時点の状況の確認を承っています。
次世代基盤の動向は〈NetSuite Nextとは〉で解説しています。
この未来図に必要な4つの前提
情景を実現するために、そろえておくべき前提が4つあります。
正直にお伝えすると、このうち3つは、自社だけで整えるのが難しい領域です。
前提①:データが整っていること(自社で着手できる)
いちばん先に来る前提です。
数字がバラバラだと、AIは何を正としてよいか判断できません。命名規則の不統一、重複、欠損。この3つが、最初の障害になります。
ここは自社でも着手できます。まず「どの数字を正本とするか」を決めるところからです。
詳しくは〈AI導入の成否は「データの整い方」で決まる〉で解説しています。
前提②:権限の設計(自社だけでは決めきりにくい)
誰が何を見られるかを決める作業です。
これは技術の話ではなく、組織の話です。営業に原価を見せるか。現場に人件費を見せるか。判断には経営の意思が要ります。
さらに、AIを接続すると「見せてよい範囲」の意味が変わります。これまでは人が画面を開く前提でしたが、これからはAIが横断的に読む前提になるためです。
設計を誤ると、意図しない情報が組み合わさって見えることがあります。ここは経験のある相手と一緒に設計することをおすすめします。
前提③:人が判断する場所を決めること(自社だけでは決めきりにくい)
どこまでを自動で進め、どこから人が決めるか。
情景の夕方5時のシーンが、これにあたります。基準を決めるのは会社の側であって、システムではありません。
難しいのは、この線引きに正解がないことです。厳しすぎれば何も進まず、緩すぎれば統制が効きません。
他社がどのあたりに線を引いているかを知らないまま決めると、たいてい厳しすぎる側に振れます。
前提④:経営が関与し続けること(自社だけでは決めきりにくい)
最後は、経営の関わり方です。
道具の導入は現場の仕事です。しかし判断の場所を決めるのは、経営の仕事です。ここを現場に任せると、必ずどこかに歪みが出ます。
そして関与は一度では終わりません。前提③の線引きは、事業が変われば見直しが要ります。
「入れて終わり」にならない設計が、この4つ目の前提です。
未来図でつまずく3つのパターン
最後に、つまずきやすい3つのパターンを整理します。
責めるためではありません。同じところで止まってほしくないから書いています。
失敗①:AIを入れたのに、経営会議の中身が変わらない
よくある現象
- ダッシュボードは整ったが、会議では相変わらず数字の説明から始まる
- 資料作成の時間は減ったのに、会議時間は変わらない
- 「便利にはなったが、経営が速くなった実感がない」という声が出る
なぜ失敗するか
会議の議題そのものが、変わっていないからです。
議題が「先月の数字の報告」のままなら、道具をどれだけ替えても中身は変わりません。速く正確に報告できるようになっただけです。
どう回避するか
議題を先に変えます。数字の確認は会議前に各自が済ませる、という前提を置いてください。
そのうえで、会議では「今月いちばん判断が必要なこと」を1つか2つに絞ります。情景の朝9時半のシーンは、これができている状態です。
道具より先に、会議の設計を変える。順番はこちらです。
失敗②:AIの答えが信用されず、結局は手作業で検算する
よくある現象
- AIが出した数字を、担当者が表計算ソフトで確かめ直している
- 部門によって「正しい数字」の認識が違う
- 「AIの数字は参考程度」という扱いに落ち着く
なぜ失敗するか
正本がバラバラだからです。
AIが見ている数字と、現場が信じている数字が違う。この状態でAIを入れると、確認作業が増えるだけになります。
どう回避するか
順番を逆にしないことです。データを整えるのが先で、AIは後です。
第4章の3段階でいえば、第1段階のままAIを入れても効果は出ません。第2段階まで進んでから接続する。遠回りに見えて、これがいちばん速い道です。
失敗③:現場に任せて、経営が関与しない
よくある現象
- AI活用が情報システム部門の課題として扱われている
- 経営がキックオフには出るが、その後は報告を聞くだけ
- 線引きの判断が現場に降りてきて、誰も決められないまま止まる
なぜ失敗するか
決められない種類の判断を、決められない立場の人に渡しているからです。
「どこまでAIに任せ、どこから人が決めるか」は、責任の所在に関わる判断です。現場が決めてよい範囲を超えています。
どう回避するか
経営が、この線引きを自分の議題として持ってください。技術の詳細を理解する必要はありません。
必要なのは「どこまでなら任せてよいと自分が思うか」を言葉にすることです。それさえ決まれば、あとは設計に落とせます。
そして、この未来図は自社だけで描くものではありません。他社がどのあたりに線を引いているかを知ったうえで、自社の位置を決める。そのための相手を持つことが、いちばんの近道になります。
よくある質問
Q1. この記事の情景は、いつごろ実現できますか?
技術的には、いまから着手できます。
第3章で分解したとおり、必要な仕組みは2026年時点で存在しています。ただし機能ごとに提供状況が異なるため、自社のアカウントで何が使えるかは個別の確認が必要です。実現までの期間を左右するのは、機能の有無より第5章の4つの前提がどれだけ整っているかです。
Q2. 従業員100名程度の会社でも、同じことができますか?
規模より、データの状態で決まります。
情景の会社は約200名という設定ですが、100名規模でも販売・在庫・会計が1か所に集まっていれば、同じ使い方ができます。逆に1,000名規模でもデータが散っていれば、第1段階から始めることになります。
Q3. AIに機密情報を読ませるのは不安です。安全なのでしょうか?
権限の設計次第です。
AIが返す情報は、接続した人の権限に従います。見せてよい範囲を超えて答えることはありません。管理者や全権限を持つロールでは、そもそも接続が使えない仕様になっています。ただし、権限設計そのものが甘ければ意味がありません。第5章の前提②が重要になるのは、このためです。
Q4. AIが判断するようになると、人の仕事はどうなりますか?
判断と対話に、時間が戻ります。
情景で描いたのは、AIが人の代わりに決める世界ではありません。資料を作る時間と数字を確認する時間が減り、その分を「何を議題にするか」「どう決めるか」に使えるようになる世界です。ベンチャーネットは、AIがあるからこそ個々の判断が際立つ働き方を目指しています。
まとめ
5年後の経営室は、いまと同じ道具で作れます。
要点を整理します。
- いまの経営会議の時間は、数字の確認と資料作成に使われている
- その構造は、データが1か所に集まり、AIが安全につながることで変わる
- 情景に出てきた仕組みは、すべて2026年時点で存在する
- 5年後に変わるのは機能ではなく、それが当たり前になる水準
- 必要な前提は4つ。うち3つは自社だけでは整えにくい
そして、いちばん大切なのは最後の1つです。
どこまでAIに任せ、どこから人が決めるか。これを決めるのは、経営の仕事です。
未来図は、道具を買えば手に入るものではありません。自社の判断の形を決めることが、その入口になります。
もう少し詳しく知りたい方へ
「うちのデータは、いまどの段階だろうか」。そこから一緒に考えさせてください。
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