AI時代に「消えるシステム」と「残るシステム」|SaaS is Deadの本質と、基幹データを持つ会社の優位

「AIがここまで進むなら、いま基幹システムに投資しても、数年で無駄になるのではないか」。

最近、経営者の方からこうしたご相談が増えています。背景にあるのは、AIが業務アプリそのものを作れるようになってきた現実です。「SaaS is Dead(SaaSは終わる)」という言葉も、あちこちで聞かれるようになりました。

結論からお伝えします。すべてのシステムが消えるわけではありません。価値が下がるものと、むしろ上がるものに、はっきり分かれます。そして基幹システムは、価値が上がる側にあります。

NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットが、この分かれ目をどう見ているかを整理します。

この記事で分かること(読了 約7分)
・「SaaSは終わる」と言われるようになった背景
・AI時代に価値が下がるものと、上がるものの見分け方
・基幹システム(ERP)が「残る側」である4つの理由
・投資判断を誤らないための、経営者の現実的な進め方

目次

なぜ今「SaaSは終わる」と言われるのか

きっかけは、AIが「画面」と「アプリ」を作れるようになったことです。

これまで業務ソフトは、専門の開発者が作り、完成品として提供されるものでした。使う側は、機能が足りなくても、提供元が対応するのを待つしかありませんでした。

その前提が崩れつつあります。「昨日の問い合わせを分類して一覧にして」と頼めば、AIがその場で必要な画面を作る。そんな使い方が現実になってきました。

実際、2026年8月にはCloudflare社が、社内で使っているAI基盤をオープンソースとして公開しています(出典:Cloudflare社公式発表)。社員がAIに業務アプリを作らせ、それを安全に運用するための仕組みです。

こうした動きから、「完成品のソフトを買う時代は終わるのではないか」という議論が生まれました。この流れ自体は、押さえておく価値があります。

ただし、ここから先の受け止め方で、判断は大きく変わります。

消えるのは「画面」、残るのは「正しい記録」

AIが代替できるものと、できないものを分けて考える必要があります。

AIが作れるのは、画面であり、操作の手順であり、集計や整形の作業です。逆にAIが作れないものがあります。自社の売上が実際にいくらだったのか。在庫が今いくつあるのか。誰と、いつ、いくらで契約したのか。

こうした「事実の記録」は、生成できません。会社の中に、正しく蓄積されている必要があります。

この視点で整理すると、次のように分かれます。

対象AI時代の価値理由
決まった形の管理画面下がるAIがその場で必要な形を作れる
細かな便利機能下がる会話で指示すれば代替できる
正しい業務データ(正本)上がる生成できない。蓄積した会社にしかない
データを安全に扱う権限管理上がるAIに何を見せるかの判断基盤になる
操作の記録(監査証跡)上がる誰が何をしたかの説明責任は消えない

つまり、価値が下がるのは「見せ方」の部分です。価値が上がるのは、「何を持っているか」の部分です。

なぜ基幹システムは「残る側」なのか

基幹システム、いわゆるERP(統合基幹業務システム)は、価値が上がる側の要素を、まとめて備えています。理由は4つあります。

正本を持っている

ERPが管理しているのは、会計・販売・在庫・購買といった、会社の事実そのものです。ここが「唯一の正しい数字」である限り、AIが参照すべき先はここになります。

データを取り出す口がある

正しい記録があっても、外から使えなければAIは動きません。ERPにはデータをやり取りする仕組み(API)が備わっており、外部のツールから安全に参照できます。

権限を管理できる

AIに社内データを触らせるとき、最大の論点は「誰に、どこまで見せるか」です。ERPは元々、部門や役職ごとに閲覧・操作の範囲を細かく設定する仕組みを持っています。この設計思想は、〈NetSuiteの権限・ロール設計〉で解説しています。

操作の記録が残る

いつ、誰が、どのデータを変更したのか。この記録は、監査対応でも、事故が起きたときの原因追跡でも必要になります。AIが業務に関わるほど、この重要性は増していきます。

正本・取り出し口・権限・記録。この4点は、AIが賢くなっても代わりに用意してはくれません。会社が自分で持つしかないものです。

実証|土台があった会社に、何が起きたか

理屈だけでは伝わりにくいので、実際の例を紹介します。

ベンチャーネットの支援先である株式会社キュリエ様は、Excel中心の管理からNetSuiteへ移行し、在庫や粗利をリアルタイムに把握できる状態を作りました。ここまでが「土台づくり」です。

その後、NetSuiteを外部の生成AIサービスとつなぐ仕組みが登場します。同社は設定を約2時間で完了し、全社員が生成AIから自社のデータを分析できる環境を実現しました。経営層から営業・総務・会計まで、それぞれの立場でデータを分析し、結果を社内で共有しているといいます(出典:ビジネス+IT掲載記事・2026年7月1日)。

注目したいのは、順番です。AIを先に導入したわけではありません。データの土台が先にあったからこそ、AIをつないだ瞬間に全社で使えるようになったのです。

土台がない会社が同じことをしようとすれば、まずデータを整えるところから始まります。実際の接続の仕組みについては、〈NetSuite×生成AIで全社員がデータ分析〉で詳しく解説しています。

つまずく3つのパターンと回避策

AI時代の投資判断で、つまずきやすい型があります。責めるためではなく、避けていただくために整理します。

パターン1:正本を決めないまま、AIツールを増やす

よくある現象

  • 部門ごとに別々のAIツールを契約している
  • どのデータを正としているのか、社内で統一されていない
  • AIの出す答えが、部門によって食い違う

なぜ起こるのか

AIツールは導入が手軽なので、部門単位で先に進みやすいためです。しかし参照するデータがバラバラなら、出てくる答えもバラバラになります。AIの精度以前の問題です。

どう回避するか

「この数字はここを見る」という正本を先に決めることです。ベンチャーネットがご支援の最初に確認するのも、この一点です。道具を選ぶ前に、土台を決める。順番を逆にしないことが大切です。

パターン2:画面を足し続けて、分断が進む

よくある現象

  • 課題が出るたびに、新しいツールを追加している
  • ツール間の連携が増え、保守の負担が膨らんでいる
  • 全体像を把握している人が社内にいない

なぜ起こるのか

一つひとつの判断は正しくても、積み重なると分断が進むためです。AI時代は画面を作るコストが下がるため、この傾向はむしろ加速する可能性があります。

どう回避するか

増やす前に、統合できないかを検討することです。会計・販売・在庫が一つにつながっているだけで、AIに渡せるデータの質は大きく変わります。

パターン3:権限設計を後回しにする

よくある現象

  • とりあえず全員に同じ権限を与えている
  • AIにどこまでデータを見せるか、決めないまま使い始めている
  • 情報漏えいが心配で、結局AIの活用範囲が広がらない

なぜ起こるのか

権限設計は地味で、後からでもできると思われがちなためです。しかしAIが関わると、影響範囲は一気に広がります。

どう回避するか

小さく始めて、権限を決めながら広げることです。完璧を目指すより、まず回す。一部門・一業務から始め、運用しながら設計を固めるのが現実的です。ベンチャーネットは、この進め方の設計から伴走しています。

経営者が今すべき判断

情報が多い時期ほど、判断はシンプルにしたほうがうまくいきます。ベンチャーネットからお伝えしたいのは、次の一点です。

新しいAIツールを増やす前に、自社の正本を一つ決める。

売上でも、在庫でも、原価でも構いません。「この数字はここを見れば正しい」と言い切れる場所を、まず一つ作る。それがあれば、AIが今後どう進化しても、乗り換えるのは道具の側だけで済みます。

逆に、正本がないまま道具だけを増やすと、AIが賢くなるほど答えの食い違いが増えていきます。土台への投資は、AIの進化に対する保険でもあるのです。

よくある質問(FAQ)

Q1. SaaSは全部いらなくなるのですか?

いいえ、そうはならないと考えています。価値が下がりやすいのは、決まった形の画面や細かな便利機能の部分です。

一方、正しい記録を保持し、安全に取り出せる仕組みを持つサービスは残ります。むしろ、AIが動くための土台として重要性が増していきます。

Q2. 今ERPに投資して、無駄になりませんか?

無駄にはなりにくい投資だと考えています。ERPが担うのは、AIが生成できない「事実の記録」の部分だからです。

むしろAI活用を始めてから「データが整っていない」と気づき、そこから土台づくりに戻る例のほうが、遠回りになります。

Q3. AIがアプリを作れるなら、基幹システムも自作でよいのでは?

見た目の画面を作ることと、事実を正しく記録し続けることは、別の話です。

会計基準への対応、監査への説明、法改正への追随、事故時のデータ復旧。基幹システムが担っているのは、こうした「間違えられない部分」です。ここを自作で維持し続ける負担は、想像以上に大きくなります。

Q4. 何から始めればよいですか?

自社の数字が今どこにあるのかを、書き出すことから始めてください。

売上、在庫、原価、顧客。それぞれがどのシステムやファイルにあり、更新は誰が行っているか。書き出してみると、正本がない領域が見えてきます。そこが最初の一歩になります。

まとめ|変わるのは道具、変わらないのは土台

AIの進化で、業務ソフトの形は変わっていきます。画面は安くなり、必要なときに作れるものになっていくでしょう。

それでも変わらないものがあります。自社の正しい記録、それを安全に扱う権限、そして操作の記録です。これらは生成できず、蓄積した会社にしか存在しません。

「AIが進むから待とう」ではなく、「AIが進むからこそ、土台を整える」。それが、これからの投資判断だとベンチャーネットは考えています。

自社の正本がどこにあるのか、何から手をつけるべきか。整理の壁打ちからでも構いません。お気軽にご相談ください。

もう少し詳しく知りたい方へ

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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