「NetSuiteのリース会計はIFRS 16に対応している。なら、日本の新基準もそのまま回せるはずだ」
そう考えて設定に進むと、監査の段階で見直しを求められることがあります。
新リース会計基準とは、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)のことです。
借手は、原則としてすべてのリースを、使用権資産とリース負債として貸借対照表に載せます。
強制適用は、2027年4月1日以後に開始する事業年度の期首からです。
NetSuiteでは、固定資産管理のリース会計の機能で、リースの台帳・償却・仕訳を回せます。
リースの本数が多い会社ほど、計算と仕訳を会計システムの中に持たせる価値は大きい。
ただ、この機能は国際基準に合わせて作られています。
では、日本の新基準とは、どこで食い違うのか。
答えは、設定の画面の1か所に表れます。
この記事で分かること
- 新リース会計基準で、いつ・何が変わるのか
- 表計算で対応するときの限界
- NetSuiteの固定資産管理のリース会計でできること
- 日本基準とIFRS16の違いが、設定のどこに効くか
- これから準備する会社と、いまNetSuiteを使っている会社の進め方
言葉の整理:使用権資産は、リースした物を使う権利を資産として計上したものです。
リース負債は、将来のリース料を支払う義務を負債として計上したものです。
オンバランス化は、これまで貸借対照表に載らなかったものを載せることを指します。
新リース会計基準の要点
いつから適用されるか
ASBJは、2024年9月13日に企業会計基準第34号を公表しました。
| 区分 | 時期 |
|---|---|
| 強制適用 | 2027年4月1日以後に開始する連結会計年度・事業年度の期首から |
| 早期適用 | 2025年4月1日以後に開始する連結会計年度・事業年度の期首から可能 |
(出典:企業会計基準委員会「企業会計基準第34号の公表にあたって」、2026年9月確認)
3月決算の会社なら、強制適用は2028年3月期からです。
いちばん大きな変更は「単一のモデル」
これまでの日本基準では、オペレーティング・リースの多くは、支払ったときの費用でした。
新しい基準では、借手はファイナンス・リースかオペレーティング・リースかに関わらず、同じ処理をします。
使用権資産の減価償却費と、リース負債の利息相当額を計上する形です。
例外は2つあります。
- 短期リース:リース期間が12か月以内で、購入の選択権がないもの
- 少額リース:定めの条件を満たすもの
これらは、使用権資産とリース負債を計上せず、費用で処理できます。
(出典:企業会計基準委員会「企業会計基準第34号の公表にあたって」、2026年9月確認)
対象となる会社
主な対象は、公認会計士や監査法人の監査を受ける会社です。
中小企業の会計に関する指針は、次の会社を自らの対象から外しています。
- 金融商品取引法の適用を受ける会社(上場企業など)と、その子会社・関連会社
- 会計監査人を設置する会社と、その子会社
これらの会社は、監査を受けるため、会計基準にもとづいて財務諸表を作ります。
(出典:日本税理士会連合会ほか「中小企業の会計に関する指針」、2026年9月確認)
ASBJの資料では、中小企業は「中小企業の会計に関する指針」または「基本要領」を用いると説明しています。
ただし、企業会計基準を適用することは妨げられません。
対象の会社の親会社・取引先なら、直接の対象でなくても情報を求められることがあります。
自社の立場は、顧問の会計士に聞いてください。
なぜ今から準備が要るのか
3月決算の会社なら、準備の期間は実質2年ほど。
その間にやることは、会計方針の検討だけではありません。
- 対象となるリース契約を、社内から漏れなく洗い出す
- 使用権資産・リース負債の計算の手順をつくる
- 注記・開示に必要なデータをそろえる
- これらを支えるシステムと業務の流れを整える
いちばん時間を食うのは、契約の洗い出しです。
契約書に「リース」と書かれていなくても、特定の資産を一定期間使う実態があれば、リースと判定されることがあります。
業務委託の契約の一部が当たる場合もあります。
表計算での対応と、その限界
リースの本数が少なければ、表計算でも対応できます。
本数が増えるほど、次のような兆候が出てきます。
- 契約が増えるたびに、計算のシートが複雑になる
- 担当者しか中身が分からない
- 監査のたびに、計算の根拠を一から説明する
兆候と、その先の手を図にすると、次のとおりです。
使用権資産とリース負債は、一度計算して終わりではありません。
リース期間にわたり、毎期の償却と利息を計算し続けます。
契約の条件が変われば、計算のし直し(リメジャメント)も起きます。
計算の手順をシステムに持たせれば、属人化を避けられます。
監査への説明も、システムの記録をたどる形に変わります。
NetSuiteでの対応|固定資産管理のリース会計
できること
NetSuiteでは、Fixed Assets Management SuiteApp(固定資産管理の追加の機能)の中に、リース会計の機能があります。
公式ヘルプでは、IFRS 16とASC 842のリースの基準に対応するための機能と説明しています。
| できること | 中身 |
|---|---|
| リースの記録 | 契約ごとにリースの記録をつくり、台帳として管理する |
| 支払と償却スケジュール | リースの支払を登録し、償却のスケジュールをつくる |
| 仕訳と利息 | リースの仕訳を起こし、利息を記録する |
| 使用権資産 | リースから使用権資産を生成する |
| 変更 | 契約の変更を記録する |
| 移行 | 既存のリースの情報を取り込む |
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Fixed Assets Lease Accounting」、2026年9月確認)
固定資産管理の全体は、NetSuiteの固定資産管理(FAM)とはで扱っています。
減価償却の考え方は、減価償却とは?NetSuiteによる固定資産管理の自動化をご覧ください。
使う前の準備
公式ヘルプでは、次の準備を求めています。
- Custom Transactions(独自の取引の種類)の機能を有効にする
- リースの資産の種類をつくり、オペレーティング・リースかファイナンス・リースかを設定する
- リース会計の権限と、仕訳に使う勘定を設定する
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「FAM Lease Accounting Prerequisites」、2026年9月確認)
2つ目の設定を、覚えておいてください。
冒頭の問いの答えは、ここにあります。
ERP全体とつながる強み
NetSuiteは、会計・販売・購買・在庫を1つのデータベースで管理するクラウドERPです。
リースの仕訳が、ほかの会計のデータと分かれずにつながります。
月次決算の中で、リースの数字も同じ流れで処理できます。
日本基準とIFRS16の関係
整合を意識しつつ、簡素にしている
ASBJは、すべてのリースを使用権の取得と捉えて資産に載せる点で、IFRS第16号と整合させています。
一方で、主要な定めの内容だけを取り入れ、簡素で使いやすくする方針も示しています。
(出典:企業会計基準委員会「企業会計基準第34号の公表にあたって」、2026年9月確認)
食い違うのは「区分」の設定
NetSuiteでは、資産の種類ごとに、オペレーティング・リースかファイナンス・リースかを設定します。
日本の新基準は、借手の処理を1つのモデルにそろえました。
機能は区分を持ち、日本の基準は区分をなくしている。ここが食い違いの場所です。
2つを並べると、次のとおりです。
そのため、日本基準の帳簿でどの設定を使うかは、会計方針として決める論点になります。
「IFRS16に対応した機能があれば、日本基準にもそのまま合う」とは言い切れません。
具体的な会計処理は、監査法人や会計士と相談して決めてください。
複数の基準で報告する会社
NetSuiteには、1つの取引から複数の会計帳簿をつくるMulti-Book Accountingの機能があります。
公式ヘルプでは、マルチブックのアカウントで、副帳簿の基準通貨の情報がリースの仕訳に引き継がれると説明しています。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)
帳簿ごとにリースの処理をどう分けるかは、設計の段階で詰めます。
複数の基準で報告が要るのは、主に海外の拠点や親会社を持つ会社です。
詳しくはNetSuiteで「IFRSと日本基準の二重報告」を実現するをご覧ください。
判断の物差し|どんな会社に合うか
NetSuiteのリース会計が向いている会社
- リースの本数が多く、表計算の管理が限界に近い
- 月次決算の中で、リースの仕訳も同じ流れで処理したい
- 海外の親会社や拠点があり、IFRSでも報告する
慎重に考えたい会社
- リースの本数が少なく、短期・少額の例外で多くが片付く
- 中小企業の会計の指針を使い、新基準を適用しない
- 会計はほかのシステムで、NetSuiteを入れる予定がない
| 選択肢 | 合う条件 | 注意点 |
|---|---|---|
| NetSuiteの固定資産管理のリース会計 | NetSuiteで会計まで一本化している、または予定がある | 日本基準に合わせた設定と確認が要る |
| リース会計の専用のツール | 本数がとても多く、契約の管理が複雑 | 会計システムとの連携の設計が要る |
| 表計算で計算し、仕訳だけ入れる | 本数が少ない | 属人化しやすく、監査の説明が重い |
| いまは対応しない | 新基準の適用の対象外 | 親会社・取引先から情報を求められることがある |
これから準備する会社と、いまNetSuiteを使っている会社
これから準備する会社
次の5段で進めます。
- 立場の確認:強制適用の対象か、早期適用するか
- リースの棚卸し:対象の契約を、部門を越えて洗い出す
- 会計方針:短期・少額の例外をどう使うか、区分の設定をどうするかを決める
- 設定・構築:方針に沿ってシステムを設定する
- データ移行と稼働:既存のリースを取り込み、決算の流れに組み込む
品質を左右するのは、2段目の棚卸しです。
契約は各部門が結んでいることが多く、経理だけでは洗い出しきれません。
経営層が関わり、部門を越えて進める体制が欠かせません。
新基準をきっかけに、NetSuiteそのものの導入を考える会社もあるでしょう。
その場合の費用は、リース会計の設定より、導入全体の中身で決まります。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットが支援したNetSuite導入の費用で、幅を示します。
3名程度・購買と販売・期間1.5か月で、150万円程度の例があります。
一方で、100名程度・購買・販売・在庫・会計に外部システム連携を含み、期間1.5年で2億円程度(うち開発約7割)の例もあります。
差を生むのは、機能範囲・開発(特に外部連携)・社内の体制・ユーザー数の4つです。
4事例の中身は、NetSuiteの料金・費用・価格で扱っています。
いまNetSuiteを使っている会社
すでにNetSuiteを使っている会社は、次の点を見ておきます。
- 固定資産管理のSuiteAppが入っているか、どの版か
- Custom Transactionsなど、前提の機能が有効か
- リースの支払を、いまはどの取引で記録しているか
- マルチブックを使っている場合、どの帳簿で新基準を適用するか
別のERPや会計システムを使っていて、保守の期限が近い会社もあるでしょう。
その場合は、新基準への対応と、システムの見直しの時期を一緒に考えます。
よくある失敗3つ
失敗1:経理だけで契約を洗い出そうとする
起きること:適用の直前に、現場で結ばれた契約が見つかる。
原因:契約の情報が部門ごとに散らばり、どれがリースに当たるかを現場が判断できなかった。
避け方:経営層の指示で、部門ごとに契約の一覧を出してもらう手順をつくります。
失敗2:国際基準の機能があれば、そのまま合うと考える
起きること:監査の段階で、設定や処理の見直しを求められる。
原因:日本基準と国際基準の違いを、設定に落とさずに進めた。
避け方:設定の前に、区分の扱いを含む会計方針を、監査法人と文書で決めておきます。
失敗3:表計算のまま本数を増やす
起きること:計算のシートが複雑になり、担当者しか分からなくなる。
原因:本数が少ない時期の方法を、そのまま続けた。
避け方:本数と変更の頻度を数え、システムに移す基準を先に決めます。
ベンチャーネットならこう見る
ベンチャーネットは、新基準への対応を2つの型で考えます。
型1:会計の判断・設定・棚卸しの3つの分担
新基準の対応は、1社では完結しません。
| 担い手 | 担うこと |
|---|---|
| 監査法人・会計士 | 区分の扱い、短期・少額の例外など、会計方針の判断 |
| ベンチャーネット | 要件定義、リース会計の設定、アドオン開発、PM |
| 自社(経営層・各部門・経理) | 契約の棚卸し、データの準備、決算の流れへの組み込み |
ライセンスと製品サポートは、日本オラクルが担います。
ベンチャーネットは、会計の判断を代わりに下す立場ではありません。
監査法人が決めた方針を、NetSuiteの設定に正しく落とす役です。
失敗2の「設定に落とさずに進めた」を防ぐのは、この分担の境目を先に決めることです。
型2:いま使える/開発で補う/順次提供を待つ
日本基準に合わせて足りない部分は、次の3段で考えます。
- いま日本で使えること:固定資産管理のリース会計で、台帳・償却・仕訳を回す
- 開発で補えること:日本基準の注記の形などは、アドオン開発(NetSuiteリブート)で作り込む
- 順次提供されること:日本の新基準への対応の追加は、アカウントの担当に聞いて待つ
開発を選ぶほど、導入の費用だけでなく、稼働後の保守の手間も増えます。
だから、まず標準で回せる範囲を広く取り、開発は注記など必要な部分に絞ります。
最初の打ち合わせで伺うのは、次の3つです。
- 対象の範囲:強制適用の対象か、グループの中でどの会社が対象か
- リースの量:本数、変更の頻度、短期・少額で片付く割合
- 方針の進み具合:区分の扱いを、監査法人とどこまで話しているか
伴走型の支援の考え方は、伴走型のNetSuite導入支援とはで説明しています。
今日できること|リースの一覧の見出しをつくる
次の表の見出しをつくり、分かる範囲で埋めてみてください。
| 契約・相手先 | 対象の資産・期間 | 月額・購入の選択権 | 契約した部門 |
|---|---|---|---|
| (例)本社の賃貸・A社 | 事務所・5年 | 100万円・なし | 総務 |
数字は架空の例です。
期間が12か月以内で購入の選択権がないものは、短期リースの候補になります。
「契約した部門」の列が経理以外で埋まるほど、部門を越えた棚卸しが要ります。
よくある質問
Q1. 新リース会計基準は、中小企業も対応が必要ですか
中小企業の会計の指針や基本要領を用いるのが基本です。
ただし、企業会計基準を適用することは妨げられていません。
対象の会社の連結子会社や、情報を求められる取引先の場合は、実務の対応が要ることがあります(1-3)。
Q2. NetSuiteは日本の新リース会計基準に対応していますか
リース会計の機能はIFRS 16とASC 842に対応しています。
日本の新基準はIFRS第16号との整合を意識しており、対応の土台になります。
ただし、機能は資産の種類ごとにリースの区分を持ち、日本の新基準は区分をなくしています。
設定と会計の判断は、専門家と詰めてください(5-2)。
Q3. 既存のリース情報は、システムに移行できますか
既存のリースの情報を取り込む機能があります。
作業の量は、契約の本数と、データの整い方で変わります。
早めの棚卸しが効きます。
Q4. 短期のリースも、すべて資産に載せるのですか
12か月以内で購入の選択権がないものは費用で処理できます。
少額のリースにも、同じような例外があります。
どれを使うかは、会計方針として決めます。
Q5. 専用のリース会計のツールも必要ですか
基本の処理は固定資産管理のSuiteAppで対応できます。
本数がとても多い場合や、契約の管理が複雑な場合は、専用のツールが選択肢になります。
規模と要件で判断します。
Q6. 何から始めればよいですか
まず自社が対象かどうかを見極めます。
そのうえで、リースの棚卸しに着手します。
準備の期間に余裕があるほど、選べる方法が広がります。
まとめ
- 新リース会計基準は、2027年4月1日以後に開始する事業年度から強制適用
- 借手は、リースの種類に関わらず使用権資産とリース負債を計上する。短期・少額には例外がある
- NetSuiteの固定資産管理のリース会計は、IFRS 16とASC 842に対応
- 食い違いはリースの区分の設定に表れる。日本基準での扱いは会計方針として決める
- 最初の契約の棚卸しは、経理だけでなく部門を越えて進める
「IFRS 16対応なら、そのまま回せる」と考える前に、区分の扱いを監査法人と話してください。
その答えが出れば、設定の画面で迷う場所はなくなります。
もう少し詳しく知りたい方へ
リースの棚卸しから、NetSuiteでの設定、会計の判断との分担まで。
自社の対象の範囲を確かめるところから、ご相談をお受けしています。
管理会計と財務会計の違いは、NetSuiteで実現する管理会計の高度化で扱っています。
