中小企業の海外進出で見落としがちな「基幹システム」の落とし穴──ERP選定が海外展開の成否を分ける

国内市場の縮小を前に、海外進出を経営戦略に組み込む中小企業が増えています。
現地法人の設立、海外M&A、越境ECなど進出の形はさまざまですが、「基幹システムが海外進出に適していない」という課題は共通しているように感じます。
本記事では、中小企業の海外進出で見落とされがちな「基幹システム」の問題を整理し、海外展開を見据えたERP選定の考え方を解説します。

目次

海外進出の準備で「基幹システム」が後回しにされる理由

中小企業が海外進出を検討するとき、市場調査、現地法人の設立方法、法規制の確認、人材確保といった対応を進めると思います。
これらは主に経営企画や海外事業部が主導し、コンサルや現地の専門家をつけて準備を進めていきます。
しかし、この段階で「自社の基幹システムが海外展開に対応できるか」を検討している企業はそれほど多くない印象です。
基幹システムが後回しにされる理由は、主に以下の2点です。

  • 基幹システムは裏方であり、経営会議で話題にならない
  • 国内業務が問題なく回っているため、入れ替えの動機がない

基幹システムは裏方であり、経営会議で話題にならない

理由は単純で、基幹システムの話題は「地味で目立たない」からです。
ERPの話は裏方であり、「動いて当たり前のインフラ」でもあるため、経営会議で話題に上がらないまま時間が過ぎていきます。

国内業務が問題なく回っているため、入れ替えの動機がない

また、現状のERPで国内業務が問題なく回っているという現実から、危機感がないという点も挙げられるでしょう。
経理も動いている、月次決算も出ている、現状で特に困っていない。
本社が存在する日本国内で不満がなければ、わざわざ入れ替えを検討する動機が生まれません。

問題が浮上するのは、進出計画が具体化し、いざ現地法人の経理・会計処理を設計しようとしたときです。
「多通貨の処理をどうする?」「現地の会計基準に対応できるのか?」「本社との連結決算はどう回す?」「現地スタッフが日本語のシステムを使えるのか?」
こうした問いが一気に噴き出して初めて、既存のERPでは対応できないことに気づきます。

海外進出で中小企業がぶつかるERPがらみの課題

このように基幹システムがらみの問題は手つかずのままなことが多いです。
そこで、まずERPがらみの課題を整理してみましょう。
ERPがらみの課題は、大きく3つに分類できます。

  • 海外子会社の経理・会計処理で発生する混乱
  • 拠点が増えるほど深刻化するシステムの分断と連結決算の負荷
  • 海外M&A時のPMI(経営統合)におけるシステム統合の困難

海外子会社の経理・会計処理で発生する混乱

いざ海外子会社を立ち上げると、経理・会計まわりで以下のような問題が発生します。

  • 請求書を現地通貨で発行し、為替換算して本社の帳簿に載せる必要がある
  • 現地の会計基準と税制に準拠した記帳が求められる(日本のやり方をそのまま持ち込めない)
  • 本社と子会社の間でインターカンパニー取引が発生し、連結決算で消去処理が必要になる
  • 現地スタッフが経理システムを操作する必要があるが、日本語のUIでは使いものにならない

これだけでも大変ですが、税務面ではさらに複雑な論点が出てきます。
海外子会社との取引には移転価格税制が適用されます。
本社と子会社の取引価格は第三者間価格が原則であり、不適切な設定は追徴課税のリスクを伴います。
また、VAT(付加価値税)やGST(物品・サービス税)の計算・申告は国ごとにルールが異なり、日本の消費税とは仕組みが違います。
進出先の税制に準拠した記帳と申告を、現地のタイムラインに合わせて処理しなければなりません。

さらに現地の経理人材の確保も課題です。
日本の本社から経理担当者を派遣すれば知識やノウハウ面での問題はありません。
しかし、現地採用の社員とのコミュニケーションや現地の税務への対応に不安が残ります。
また、経理担当者を現地採用すればコミュニケーションの問題は解決するものの、日本の経理ルールを理解させるためのトレーニングが必要です。
どちらを選んでも、経理機能の立ち上げには相応の時間と労力がかかります。

拠点が増えるほど深刻化するシステムの分断と連結決算の負荷

1拠点ならExcelと手作業でなんとかしのげるかもしれません。
しかし拠点が2つ、3つと増えていくと、拠点ごとにバラバラの会計ソフトやシステムが乱立し始めます。
本社は国産のERP、タイ子会社はA社のシステム、ベトナム拠点はExcel管理といった状態は珍しくありません。

連結決算のたびに各拠点からデータを集め、通貨換算も勘定科目のマッピングも手作業で突合する、という作業が発生するかもしれないのです。
さらに拠点間でデータのフォーマットが異なれば、同じ売上でも計上基準が揃わないという問題も起こるでしょう。
日本の本社では消費税込みで計上、海外子会社では税抜きで計上といった差異は、当然のことながらミスの温床になります。
さらに、インターカンパニー取引の消去処理も手動で行わなければなりません。
取引量が少ないうちは何とかなりますが、拠点が増えてグループ内の取引が複雑化すると、経理の工数は跳ね上がります。
このような状態が続くと四半期決算のたびに経理部門が疲弊していくでしょう。

海外M&A時のPMI(経営統合)におけるシステム統合の困難

海外でM&Aを実施した場合、買収先の企業が使っているシステムと自社のシステムを統合するPMI(経営統合)が発生します。
しかしPMIを実行しようにも、基幹システムが分断されたままでは、財務実態を正確に把握することすら困難です。
システム統合だけで1〜2年、コストも億単位でかかるケースがあり、M&A最大のメリットである「事業のシナジーの創出」が大幅に遅れます。

海外展開に適したクラウドERPの選び方

こうした問題を回避するには、最初から海外展開を想定したERPを選んでおく必要があります。
では具体的に何を基準に選べばいいのでしょうか。ここでは実務的な観点から確認すべき要件を整理します。

ERP選定で確認すべき6つの要件

  1. 多通貨処理と為替の自動換算
  2. 多言語UIのネイティブサポート
  3. 現地の会計基準・税制へのプリセット対応
  4. システム入れ替えなしでの海外子会社追加
  5. リアルタイムの連結決算処理
  6. 中小中堅企業の予算・体制での導入可能性

①多通貨処理と為替の自動換算に対応しているか

海外と取引する以上、多通貨での取引は避けて通れません。
最低限、請求書発行、入金消込、為替差損益の計算が標準機能で処理できるかは確認しておきましょう。また、為替レートの自動取得と期末の通貨再評価にも対応しているか確認してください。

②多言語UIをネイティブでサポートしているか

翻訳機能で日本語を現地語に変換するのと、最初から各言語のUIが実装されているのでは、使い勝手が全く違います。現地スタッフが自分の言語でストレスなく操作できるかどうかは、業務効率に大きく影響します。

③現地の会計基準・税制にプリセットで対応しているか

VAT、GST、源泉徴収税の計算ルールも国によってバラバラです。
これを1カ国ずつ個別開発で対応していくと、コストと時間が際限なく膨らみます。
主要国の会計基準・税コードが標準状態でプリセットされている製品を選ぶべきです。

④海外子会社を追加する際にシステム入れ替えなしで拡張できるか

拠点が増えるたびにシステムを入れ替える設計では、頻繁にコストが発生します。
1つのプラットフォーム上で子会社を追加できる設計になっているかをチェックしておきましょう。

⑤本社と海外子会社の連結決算をリアルタイムで処理できるか

月次報告をExcelで集計するのではなく、システム上でリアルタイムに数値が見られるかどうかも重要です。
また、インターカンパニー取引の消去仕訳が自動で処理されるかもチェックしておきましょう。
手動で消去処理を回している限り、連結決算の早期化は実現しません。

⑥中小中堅企業の予算・体制で導入・運用が現実的か

グローバル対応ERPと聞くと大企業向けで高額というイメージがありますが、中小中堅企業の規模でも導入可能な製品は存在します。
ライセンス費用、導入期間、運用に必要な社内体制──この3点が自社にとって現実的かどうかを確認してください。

クラウドERPの優位性

海外展開を前提にする場合、オンプレミス型よりもクラウド型のERPが圧倒的に有利です。
オンプレミス型は海外拠点ごとにサーバーの調達、ネットワーク設計、現地ITスタッフの確保が必要になります。つまり、拠点が増えるたびにこの初期投資が繰り返されます。
一方、クラウドERPならインフラは共通で、初期投資を繰り返す必要はありませんし、アクセスはどこからでも可能です。
さらにアップデートも自動配信されるので、バージョン管理の手間もかかりません。

ただし、クラウドERPにもいくつかの種類があります。
国内市場向けに開発されたクラウドERPと、最初からグローバル展開を前提に設計されたクラウドERPでは、海外対応の突き詰め方が全く異なります。
多言語・多通貨・現地会計基準をどれだけカバーしているかは製品ごとに違いがあるため、前述の6つの要件を逐一確認する必要があるでしょう。

NetSuiteという選択肢

前述の6要件を満たすクラウドERPの一つがNetSuiteです。
27言語・190通貨に標準対応し、100カ国以上の税コード・現地会計基準がプリセットされています。
VAT、GST、源泉徴収税のレポート機能も標準で備えており、進出先ごとの個別開発なしに税務対応を開始できます。

また、OneWorldモジュールを使えば、複数子会社の管理・連結決算を1つのプラットフォーム上で完結できます。
子会社レベルで記録された取引は自動的にマッピングされ、正しい通貨と為替レートで親勘定に計上されます。
インターカンパニー取引の消去仕訳も自動で処理されるため、手動での突合作業が不要です。
さらにMulti-Book機能により、GAAPとIFRSなど最大5つの会計基準を並行して管理することも可能です。

SAPなど大企業向けERPとの最大の違いは、中小中堅企業にフィットした規模感です。
NetSuiteの顧客の54%は年商50M USD未満の企業で、導入期間も標準3〜6カ月。
SAP S/4HANAなどの大企業向けERP(12〜24カ月)と比べて大幅に短く、限られた予算と体制でも本番稼働まで到達できます。

実際にNetSuiteで海外展開を進めている企業からは、「海外事業の展開を限られたリソースで実現でき、大幅な売上増・業務量増でも人材を増強する必要がなかった」という声も上がっています。

将来の選択肢を狭めないERP導入

海外進出の時期が具体的に決まっていない企業にとっては、ここまでの話は「まだ先のこと」に聞こえるかもしれません。
しかし、ERP選定のタイミングで将来の海外展開を視野に入れるかどうかは、数年後のコストと選択肢に直結します。
「今は国内だけ」の企業であっても、今のうちにできることはあります。
海外事業の立ち上げを検討してない状態であっても、ERPは「グローバルスタンダード」な製品を選ぶべきです。

海外展開の時期が未定でもできること

海外展開の具体的な時期が決まっていなくても、ERP選定時に将来の拡張性を織り込んでおくことはできます。
やることは主に2つです。

1つ目は、国内業務でも十分に機能し、かつ海外拠点追加時にシステム入れ替えが不要な設計のERPを選ぶこと。
2つ目は、勘定科目体系やマスター設計を最初からグローバル展開を前提に組んでおくこと。

この2つを押さえるだけで、海外展開が決まったときのシステム拡張はスムーズになります。
NetSuiteは国内業務だけでも十分に機能するERPです。
最初からOneWorldモジュールへの移行を想定した設計で導入しておけば、海外拠点の追加が決まったときにシステムの入れ替えは発生しません。
国内導入の段階でグローバル対応の勘定科目体系・マスター設計を組んでおくだけで、数年後の海外展開がスムーズになります。

先送りにするほどコストは膨らむ

「海外展開はまだ先だから」と判断を先送りにするほど、既存システムへの依存は深まります。
カスタマイズが積み上がり、データも蓄積され、業務フローもそのシステム前提で固まっていきます。
切り替えに必要な工数(データ移行、業務フローの再設計、現場の再教育、並行稼働期間の確保)は時間とともに増えていくのです。
さらに10年、15年と経過していくと国内だけの業務にシステムが適合しすぎてしまい、海外展開時に「システム総入れ替え」以外の選択肢がなくなります。

国産ERPはコストだけを見ると安価ですが、将来の拡張性や総費用までを考えると最初からグローバル対応のERPを入れたほうが安く済むケースがほとんどです。
ERP選定は10年、15年の時間軸で判断すべき投資です。

越境取引の段階からメリットはある

海外進出といっても、いきなり現地法人を設立するケースばかりではありません。
越境ECや海外の取引先との直接取引など、現地法人を持たない段階もあります。
この段階でも、多通貨の請求書発行・入金消込・為替差損益の計算は発生します。
国産ERPでこれをやろうとするとExcelでの手作業が介在しますが、グローバル対応のクラウドERPなら標準機能で処理できます。

さらに、海外取引先からの入金が複数通貨にまたがる場合、通貨ごとの債権管理と為替レートの適用を手動で行うのは現実的ではありません。
取引の規模が小さいうちは対応できても、海外売上の比率が上がるにつれて経理の負荷は急激に増えます。
海外売上比率が小さい段階からグローバル対応のクラウドERPを入れておけば、海外事業が拡大しても経理のオペレーションを変える必要がありません。

この「小さく始めて、必要に応じて拡張する」という考え方は、中小企業の海外展開と相性が良いアプローチです。
最初から全拠点をカバーする大規模な導入は不要です。
まず国内+越境取引の段階でグローバル対応ERPを入れておき、現地法人の設立が決まったタイミングで子会社を追加していけば良いでしょう。

まとめ

基幹システムの問題は海外への進出計画が具体化してから初めて顕在化することが大半です。
しかし気づいたときには手遅れに近く、システム総入れ替えのコストとスケジュール遅延が同時に襲ってくる、というのが典型的な失敗パターンです。

ERP選定の段階で「海外に出るときに使えるか?」という問いを加えてみましょう。
これだけで、将来のコストと選択肢は大きく変わります。
海外展開の時期が未定であっても、今のうちから将来の拡張性を織り込んだERP選定を進めておくことをお勧めします。

ベンチャーネットでは、将来の海外展開を前提としたNetSuiteの導入・運用を支援しています。
海外展開を見据えたERP選定にお悩みの方は、ぜひ一度無料相談をご活用ください。

→ 無料相談はこちら

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次