AIの話になると、必ず出てくるのが投資額の話です。
GPUを何万基そろえた。データセンターに何千億円を投じた。そうしたニュースを見て、多くの経営者はこう思います。
「うちには関係のない世界だ」
ところが、少し違う見方もできます。その巨額の投資は、月額の利用料を払うだけで使えるようになっているからです。
そして、この構図をもっとも分かりやすく体現しているのがOracleです。AIを動かす土台から、データベース、そして業務システムまで。この3階層を1社で持っている会社は、ほかにありません。
この記事は、NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットが書いています。他社クラウドとの優劣を論じるものではありません。この構造が中小企業にとって何を意味するのかを整理します。
この記事で分かること
- AIを支える3階層(インフラ・データベース・業務アプリ)の関係
- Oracleがその3階層を1社で持っていることの意味
- 中小企業が巨額のAI投資に「乗る」という考え方
- 乗るために、自社側で必要になる準備
読了時間の目安:約12分
AIを動かすには、3つの階層がいる
まず、AIが業務で動くまでに何が必要かを整理します。ここが分かると、投資の話の見え方が変わります。
階層①:インフラ(計算する場所)
AIの学習にも、質問への回答にも、大量の計算が必要です。
そのために使われるのがGPUと呼ばれる装置で、これを大量に並べた設備が世界中で建設されています。
ここが、いま巨額の投資が行われている層です。
階層②:データベース(覚えておく場所)
計算する力だけでは、AIは会社の役に立ちません。
「自社の在庫はいくつか」「先月の粗利はどうだったか」に答えるには、そのデータが整理されて保管されている必要があります。
AIが自社について語れるかどうかは、この層で決まります。
階層③:業務アプリ(実際に使う場所)
そして最後に、日々の業務を回すシステムがあります。受注、在庫、会計、請求。
ここで発生したデータが②に溜まり、①の計算力で処理されて、はじめてAIが業務の役に立ちます。
3階層は、つながって初めて意味を持つ
この3つは、どれか1つだけでは機能しません。
計算力があっても、データがなければ答えられない。データがあっても、業務アプリで日々入力されなければ、内容は古くなる。
つながっていることが条件です。 ここが、次の章の論点になります。
3階層を1社で持っているのはOracleだけ
多くの企業は、この3階層のどこかを担当しています。Oracleが特異なのは、3つすべてを自社で持っている点です。
インフラ:OCIとNVIDIAの協業
Oracleは、OCI(Oracle Cloud Infrastructure)という基盤を持っています。
OCI Superclusterでは、最大131,072基のNVIDIA GPUを搭載した構成が提供されます(出典:NVIDIA公式、Oracle公式)。
規模の話をしたいわけではありません。この設備を自社で持つ必要がない、という点が中小企業にとっての意味です。
データベース:Oracle Database
Oracleは、データベースの分野で長く使われてきた会社です。
近年は、AI向けの機能が組み込まれています。OracleとNVIDIAは、Oracle Database 23aiのAI Vector Search(AIが意味の近さで検索する仕組み)を高速化する協業を進めています。GPUとcuVSライブラリを活用するものです(出典:Oracle公式、NVIDIA公式)。
インフラとデータベースが同じ会社の中で最適化されているということです。
業務アプリ:NetSuite
そしてNetSuiteが、業務アプリの層にあたります。
会計・販売・在庫・購買を1つのシステムで扱い、日々のデータがそこに溜まっていきます。
つまり、現場の入力からAIの計算までが、1社の中でつながっている構造です。
「借りて作る」との違い
ここで、誤解のないようにお伝えします。
他社のクラウドやAIが劣っているという話ではありません。 世の中の多くのサービスは、こうした基盤を借りて作られており、それは正常な姿です。
ただ、借りて作る場合、階層をまたいだ最適化は自社の裁量の外にあります。1社で持っている場合と、そこが構造的に違います。
どちらが良いかではなく、構造が違うということです。
中小企業が「乗る」とはどういうことか
ここからが本題です。この構造は、中小企業に何をもたらすのでしょうか。
GPUを買う必要はありません
131,072基という数字を見て、自社で用意しようと考える会社はありません。当然です。
買わなくてよい、というのがクラウドの本質です。 使った分だけ、あるいは契約した分だけの料金を払えば、その設備の上で自社の業務が動きます。
これは、電力に近い考え方です。発電所を建てる会社はほとんどありませんが、電気は誰でも使えます。
「乗る」の実際の姿
具体的には、こういうことです。
- 巨額の投資でつくられた計算基盤の上に、自社のERPが乗っている
- そこに日々のデータが溜まっていく
- AIがそのデータを扱えるようになると、自社の数字で答えが返ってくる
投資したのは自社ではありません。それでも成果は使えます。
自動的に新しくなる部分がある
もう一つの利点があります。
自社でサーバーを持っていれば、更新のたびに投資判断が必要です。クラウドでは、基盤の側が更新されていきます。
NetSuiteも年2回の自動アップデートで機能が追加されます。何もしなくても、乗っている土台が新しくなっていくという性質です。
ただし、乗るには自社側の準備がいる
ここは、正直にお伝えしておきたい部分です。
土台に乗るだけでは、AIは自社を語れません
巨額の投資に乗ること自体は、契約すれば実現します。
ですが、それだけではAIは自社について何も答えられません。答えるための材料が、自社側にないからです。
在庫の数字が部門ごとに違う。受注の記録がExcelに散らばっている。この状態では、どれだけ強力な計算基盤があっても、返ってくる答えは断片的になります。
準備とは、データを一箇所に集めること
必要な準備は、技術的に難しいものではありません。
日々の業務データが、一つの器に溜まる状態をつくること。 これだけです。
ERP(Enterprise Resource Planning:会計・販売・在庫などの基幹業務を1つの仕組みで管理する考え方)が担うのは、まさにこの部分です。
データの一元化を経営判断に活かす進め方は、データドリブン経営で整理しています。
順序を間違えないでください
よくあるのが、AIツールの選定から始めてしまうケースです。
土台に乗る契約をして、AIツールも導入した。それでも答えが返ってこない。原因はたいてい、データが分散したままであることにあります。
器が先、AIは後。 この順序は変わりません。
NetSuiteの位置づけ
その意味で、NetSuiteは「AIの機能があるERP」という以上に、AIが使えるデータを溜める器として機能します。
日々の受注も、在庫の動きも、会計の仕訳も、同じ器に入ります。この状態ができて初めて、上の階層の力が意味を持ちます。
なお、NetSuiteと外部のAIをつなぐ具体的な仕組みについては、別途専用の解説記事でまとめています。本記事では仕組みの詳細には踏み込みません。
3階層を1枚で整理する
ここまでの内容を、表で整理します。
| 階層 | 役割 | Oracleでの担当 | 中小企業がやること |
|---|---|---|---|
| ①インフラ | 計算する | OCI(NVIDIA GPUを搭載) | 使うだけ(買わない) |
| ②データベース | 覚えておく | Oracle Database | 使うだけ |
| ③業務アプリ | 日々入力する | NetSuite | ここに集中する |
右端の列が、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
中小企業がやるべきことは、③に集約されます。 ①と②は、乗るだけでよい層です。
そして③でやることは、AIの話ではありません。日々の業務データを、きちんと一箇所に集めることです。
この見方の読み違え──よくある4つのつまずき
ここからは、この構造を実務に持ち込むときのつまずきを整理します。
これは、判断を誤った会社を批判するためのものではありません。どれも、話が大きいがゆえに起こります。だから先にお伝えしておきたいのです。
つまずき①:「うちには関係ない」で終わる
よくある現象
- GPUの基数や投資額のニュースを見て、自社とは無関係だと判断する
- AIの話題が、社内で一度も議題に上がらない
- 数年後、取引先や競合が先に活用を始めていることに気づく
なぜ失敗するか
投資の主体と、成果を使う主体を同じだと考えているためです。
巨額の投資をしたのはクラウドの提供側です。使う側は、月額の利用料でその成果に乗ります。自社が投資できるかどうかは、使えるかどうかとは別の話です。
どう回避するか
「その設備を、いくらで使えるのか」に問いを変えてください。
投資額のニュースは、自社の判断材料ではありません。利用の条件だけが判断材料です。
つまずき②:土台に乗れば自動的にAIが使えると考える
よくある現象
- 契約すればAIが動くと期待する
- 導入後、期待した答えが返ってこない
- 「AIは使えない」という評価に落ち着く
なぜ失敗するか
AIが答えるための材料が、自社側にないためです。
計算基盤は共通でも、答えの材料になるデータは各社固有です。ここが揃っていなければ、どんな基盤の上でも答えは出ません。
どう回避するか
自社のデータがどこにあるかを、先に確認してください。
部門ごとに分かれているなら、そこが最初の課題です。AIツールの検討は、その後で構いません。
つまずき③:階層の話を、製品選定の理由にしてしまう
よくある現象
- 「3階層を持っているから」という理由だけで製品を決める
- 自社の業務要件との適合を確認しないまま進む
- 導入後に、必要な機能が足りないと分かる
なぜ失敗するか
構造の話と、自社に合うかどうかは別の論点だからです。
3階層を1社で持っていることは、たしかに構造上の特徴です。しかしそれが自社の業務課題を解くかどうかは、まったく別に検証が必要です。
どう回避するか
業務要件との適合を、必ず別途確認してください。
私たちも、構造の話だけでNetSuiteをお勧めすることはありません。合わないと判断すれば、そうお伝えします。
つまずき④:技術の詳細に議論が流れる
よくある現象
- GPUの型番やネットワーク構成の話に、経営会議の時間が使われる
- 詳しい人だけが話し、他の参加者が黙る
- 結局、自社が何をするかが決まらない
なぜ失敗するか
経営が判断すべき論点と、技術の詳細が混ざっているためです。
インフラの中身は、乗る側が判断する必要のない領域です。判断すべきは、自社のデータをどう整えるかだけです。
どう回避するか
議題を「自社側の準備」に限定してください。
どの業務からデータを集めるか。誰が責任を持つか。いつまでにやるか。決めるべきはこれだけです。
四つに共通するもの
四つを並べると、共通点が見えてきます。
いずれも、話の規模に引っ張られて、自社がやることを見失っていることから生じています。
131,072という数字は印象的ですが、自社の判断には使えません。使えるのは「自社のデータは、いま一箇所に集まっているか」という問いだけです。
ベンチャーネットは、お客様と対等な関係で仕事をしたいと考えています。だから、大きな話で期待をあおることはしません。
自社が本当にやるべきことは何か。それを一緒に切り分けるところから、ご一緒させてください。
この見方が効く会社、まだ早い会社
すべての会社にとって、いま動くべき話ではありません。
効きやすい会社
- 部門ごとにシステムが分かれ、数字の突合に時間がかかっている
- 経営者自身が、数字を早く知りたいと感じている
- 5年以上、同じ基盤を使い続ける前提がある
- 事業の拡大や海外展開を視野に入れている
こうした会社では、器を整えることが直接の成果につながります。
まだ早い会社
- 日々の業務そのものに、優先度の高い課題がある
- 記録がまだ紙や口頭に多く残っている
- 判断できる立場の人が、いま関与できない
該当する場合は、無理に進める必要はありません。順番が違うだけで、方向が間違っているわけではありません。
よくある質問
Q1. 巨額のAI投資は、結局どこの会社が有利なのですか
本記事では、企業間の優劣は扱いません。中立の立場を保つためです。
お伝えできるのは、3階層を1社で持つという構造が、Oracleに特徴的であるという事実だけです。それが有利かどうかは、使う側の目的によって変わります。
Q2. 自社でGPUを持つ必要はありますか
一般的な中堅・中小企業では、必要ありません。
クラウドを利用すれば、設備を持たずにその上で業務を動かせます。買わなくてよいというのが、この構造の要点です。
Q3. AIを使うために、まず何をすればよいですか
自社のデータが、いま何箇所に分かれているかを確認してください。
会計、販売、在庫。それぞれ別のシステムやExcelで管理されているなら、そこが最初の課題です。
AIツールの検討より、器を整えるほうが先になります。
Q4. NetSuiteでなければいけないのですか
いいえ、そういう話ではありません。
大事なのは、日々の業務データが一箇所に溜まる状態をつくることです。それを実現する手段は、複数あります。
自社の業務要件に合うかどうかは、製品ごとに別途検証してください。構造の話だけで選ぶのは、つまずき③でお伝えしたとおりお勧めしません。
Q5. いま契約すれば、すぐにAIが使えますか
契約と、AIが自社について答えられる状態は別です。
答えの材料になるデータが揃うまでには、業務をNetSuite上で回す期間が要ります。データが溜まるほど、答えの質は上がっていきます。
だからこそ、早く器をつくることに意味があります。
まとめ:投資したのは自社ではない。それでも成果は使える
ここまで、3階層の構造と、中小企業がやるべきことを見てきました。
最後に、いちばんお伝えしたいことを書きます。
巨額のAI投資のニュースは、自社の判断材料ではありません。
投資したのはクラウドの提供側です。使う側は、月額の利用料でその成果に乗ります。発電所を建てなくても、電気が使えるのと同じ構図です。
Oracleが特異なのは、インフラ・データベース・業務アプリの3階層を1社で持っている点です。現場の入力からAIの計算までが、1社の中でつながっています。
ただし、乗るだけでは足りません。AIが自社について語るための材料は、自社側にしかないからです。
だから、自社がやるべきことは1つに絞られます。日々の業務データが、一つの器に溜まる状態をつくること。
これはAIの話ではなく、業務の設計の話です。どの業務から集めるか、誰が責任を持つか。これは情報システムの案件ではなく、経営の判断になります。
まずは、自社のデータがいま何箇所に分かれているかを数えてみてください。
そこから先の進め方については、一緒に考えさせてください。いまは急ぐ必要がないと判断したときには、そのようにお伝えします。
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