「NetSuiteの勢いが落ちていると聞いた。うちは大丈夫か」。2026年に入り、こうした相談がベンチャーネットに届くようになりました。海外のコンサルタント向け掲示板でも、似た投稿が話題になっています。「顧客の価格抵抗が強まり、中堅企業は安価なERPへ、大企業はOracle Fusionへ流れている」という内容です。
結論から言えば、NetSuiteの成長が鈍化しているのは事実です。しかし、その原因を「値段が高いから」と読むのは正確ではありません。本当に起きているのは、ERPに求められる価値が「システムの中」から「システムの外にあるAI」へ移り始めた、という構造の変化です。
この記事では、その変化を公表数値で確認したうえで、NetSuiteを使う経営者がいま何にお金を使うべきかを整理します。
この記事で分かること(読了時間:約12分)
- NetSuiteの成長鈍化を、Oracleの決算数値で確認できる
- 鈍化の本当の原因が「値段」ではなく「価値の移動」であること
- 見える化・わかる化・儲かる化の3段階で、AI時代に投資すべき場所が分かる
- NetSuite×AI投資でよくある失敗3つと、その避け方
- 自社が「記録・判断・実行」のどの段階にいるかを自己診断できる
NetSuiteの成長は鈍化している——数字で確認する
NetSuiteの売上成長率は、この1年で緩やかに下がっています。まず事実を押さえます。
Oracleは四半期ごとにNetSuiteの売上を公表しています。2025年9月発表の四半期(Oracle 2026年度第1四半期)では、NetSuite Cloud ERPの売上は10億ドルで前年比16%増でした。2026年3月発表の四半期では11億ドル、14%増(為替影響を除くと11%増)です。そして2026年9月10日の最新決算では、Oracle自身が次のように説明しています。「NetSuiteは前年度に意思決定サイクルの長期化があり、成長率は他のクラウド製品より少し低い」。同じ四半期のクラウドアプリケーション全体は10%増でした。
| 発表時期 | NetSuite売上 | 前年比(ドル建て) |
|---|---|---|
| 2025年9月 | 10億ドル | +16% |
| 2026年3月 | 11億ドル | +14%(為替除く+11%) |
| 2026年9月 | 個別開示なし | クラウドアプリ全体+10%。NetSuiteは「他より低い」と説明 |
出典:Oracle投資家向け発表(2025年9月・2026年3月・2026年9月)
ここで注目したいのは、Oracle全体との対比です。2026年9月の決算では、クラウド基盤(IaaS)売上が121%増の約74億ドルに達しました。受注残は6,640億ドルです。Oracleの主役は、AI向けデータセンター事業に移りました。NetSuiteは年間40億ドルを超える大きな事業ですが、Oracleの中では「急成長事業」から「安定事業」へ位置づけが変わっています。
ただし、これは「NetSuiteが危ない」という意味ではありません。NetSuiteは世界220地域、43,000社以上が利用し、190通貨・27言語に対応するクラウドERPです。利用企業がこれだけあるということは、ノウハウも人材も連携ツールも市場に豊富にあるということです。成長率の鈍化と、製品としての信頼性は別の話です。
鈍化の原因は「値段」ではない——価値がERPの外へ移った
海外コンサルタントの投稿は、鈍化の理由を「ライセンスが高いから」としています。現場の実感としては正しいのですが、経営者が見るべき原因はもう一段深いところにあります。
「見える化」の価値が下がった
かつてERPを入れる最大の理由は「経営数字がリアルタイムに見えること」でした。売上・在庫・原価が一つの画面で見える。それだけで大きな投資が正当化されました。
しかし2026年の現在、この価値は急速に下がっています。理由は生成AIです。データさえ整っていれば、ダッシュボードや分析レポートはAIが数分で作ります。「見える化」は商品ではなく、前提条件になりました。
値段が高く感じられるようになったのは、NetSuiteが値上げしたからというより、これまで払っていた対価の一部(見える化)が無料に近づいたからです。
「ERPを買わない」選択肢が現実になった
もう一つの変化は、中堅企業に「ERPを買わない」という選択肢が生まれたことです。オープンソースのOdoo、複数のSaaSをつなぐ方法、さらにはAIを使って必要な業務システムを自社で作る方法。どれも数年前なら現実的ではありませんでしたが、いまは検討の俎上に載ります。AI時代に何が消え、何が残るかは「消えるシステム」と「残るシステム」で整理しています。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱っています。SAPからのリプレイスにも対応しています。姉妹サイトとしてOdooの教科書も運営しています。それは製品を売るためではなく、選択肢が増えた時代に、製品ありきではない立場で経営者の相談に乗るためです。
この立場から見ても、中堅企業向けERPとしてのNetSuiteの完成度は変わっていません。変わったのは「NetSuiteだけで完結する時代ではなくなった」という点です。
導入の工数そのものが縮んでいる
三つ目は、あまり語られない変化です。生成AIによって、設定・データ移行・テスト・連携開発といった導入作業の工数が圧縮され始めています。
現場のコンサルタントが「値下げ圧力」と感じているものの一部は、実はこれです。同じ成果を、以前より少ない工数で出せるようになった。その分、従来の「人月」でお金をいただく形が合わなくなってきています。これは経営者にとっては朗報です。ただし、「工数が減った分、何にお金を払うのか」を考え直す必要があります。
Oracle自身の答え——NetSuiteを「AIの土台」に置き直す
では、NetSuiteを提供するOracleはこの変化にどう応えているのでしょうか。2026年9月の決算で語られた二つの動きが、その答えを示しています。
一つ目は「NetSuite Next」です。中堅企業向けのエージェント型ERP(AIが業務プロセスの一部を自律的に進めるERP)として一般提供が始まりました。人がAIに手伝ってもらうのではなく、AIエージェントが業務を進め、人が判断と承認をする方向です。
二つ目は「NetSuite AI Connector Service」です。NetSuiteのデータを、ChatGPTやClaudeなど利用者が選んだAIアシスタントに安全につなぐ仕組みです。Oracleによれば、すでに1万社以上が利用し、NetSuiteの歴史で最も速く普及した機能の一つになっています。仕組みと始め方はNetSuite AI Connector Serviceの解説にまとめています。
🌏 日本での提供状況:AI Connector Serviceは日本の企業でも利用が始まっています。NetSuite Nextは北米から順次提供で、日本での提供時期は2026年9月時点で公表されていません。導入時に最新状況をご確認ください。
この二つに共通するのは、「NetSuiteの中でAIを完結させようとしていない」ことです。NetSuiteは信頼できるデータの置き場所であり、そこに自社で選んだAIをつなぐ(Bring Your Own AI)ことで価値を出す。純正AIと外部AIの使い分けは組込型AIと外部AIの比較で整理しています。
経営者にとっては、これが最も重要なメッセージです。NetSuiteは「AIで経営を加速するための土台」として選ばれ続ける、という宣言だからです。
見える化・わかる化・儲かる化——AI時代に投資の重みはこう変わる
ベンチャーネットは創業以来、ERP導入の目的を「見える化・わかる化・儲かる化」の3段階で説明してきました。AIの時代になって、この3段階の重みは大きく変わりました。AIを両利き経営のエンジンに据える考え方はAIクラウドERPとはをご覧ください。
| 段階 | 何をすること | AIが担える度合い | 経営者が投資すべきか |
|---|---|---|---|
| 見える化 | 数字を一つの場所で見られる状態にする | 高い(ダッシュボード・分析はAIが生成) | データを整える最低限だけ。人手をかけない |
| わかる化 | 何が問題で、どこから手をつけるかを決める | 中程度(説明は得意、優先順位づけは苦手) | 投資する。中立の判断が価値になる |
| 儲かる化 | 業務が変わり、数字が動くところまでやり切る | 低い(実行の一部は担えるが、責任は負えない) | 最も投資する。結果に責任を持つ相手を選ぶ |
見える化:AIに任せて、ほぼ無料にする
見える化はAIが担う領域になりました。ここに人手と費用をかけるべきではありません。NetSuiteのデータをAI Connector Serviceで接続したとします。「先月の粗利が落ちた理由を製品別に教えて」と聞けば、その場で答えが返ってきます。
見える化に投資するとしたら、それは「AIがすぐ読める状態にデータを整えておくこと」だけです。販売・在庫・会計が一つのデータベースにある状態の価値は、「一冊の帳簿」の記事で説明しています。
わかる化:中立の判断が価値になる
数字が見えても、「何が問題で、どこから手をつけるか」は経営者一人では判断しきれません。ここで必要なのは、製品や自社の都合ではなく、経営の側に立った判断です。
AIは数字を説明できます。しかし、その会社の事情、業界の慣行、社員の温度感を踏まえた優先順位づけは、まだ人間の仕事です。わかる化は、これからも経営者がお金を払う価値のある領域です。
儲かる化:結果に責任を持つ
そして最終的に経営者がお金を出すのは、儲かる化だけです。導入して終わりではなく、業務が変わり、数字が動くところまで。
正直に言えば、この責任を負えるパートナーは日本の中堅ERP市場に多くありません。「導入プロジェクトの完了」を成果と定義してきた業界の慣行が、それを難しくしているからです。最適化の効く領域に集中投資する考え方は、価値創造経営の第一歩で詳しく扱っています。
NetSuite×AI投資でよくある失敗3つ
ベンチャーネットが相談を受ける中で、繰り返し見かける失敗を3つに整理します。いずれも「事前に知っていれば避けられる」ものです。
見える化にもう一度投資してしまう
現象:AI活用の第一歩として、ダッシュボードやレポートの整備に予算と人手をかける。
構造的な原因:ERP導入時の成功体験が「数字が見えた」ことだったため、AI時代でも同じ場所に投資してしまう。しかしダッシュボードはAIが作る側に回っており、そこにかけた費用は回収しにくい。
回避策:見える化は「AIが読めるデータの状態」を整えるところまでに絞る。予算の重心は、わかる化(優先順位の判断)と儲かる化(業務を変える実行)に置く。
記録が散らばったまま、AIを入れてしまう
現象:ChatGPTやClaudeを契約し、社員に使わせるが、「うちの数字」については何も答えられない。
構造的な原因:AIが学んでいるのは世の中の平均であって、自社の事実ではない。売上や在庫の記録がExcelや複数のシステムに散らばっていると、AIは照合も集計もできない。順序は「記録が先、実行が後」です。この順序の考え方はERPは記録し、人は判断し、AIは実行するで詳しく述べています。
回避策:AIを入れる前に、記録の一元化を先に終える。NetSuiteのような単一データベースのERPが「AIの土台」と呼ばれるのは、この順序を満たせるからです。
「導入完了」をゴールにしてしまう
現象:AI連携の設定が終わり、デモでは動いた。しかし3か月後、誰も使っていない。
構造的な原因:ゴールが「動くこと」に置かれている。「どの数字を、誰が、どの会議で、どう使うか」が業務に組み込まれていないため、検証(PoC)で止まる。PoCで止まる構造はなぜAI導入はPoC止まりで終わるのかで分析しています。
回避策:最初から「効果測定」までを計画に入れる。導入の完了ではなく、「経営会議の議題が変わった」「発注の判断が速くなった」といった業務の変化をゴールに置く。
ベンチャーネットの答え——FDE型伴走と、知見を資産にするバンドル
儲かる化に責任を持つために、ベンチャーネットは二つの仕組みを整えています。
FDE型伴走支援
FDE(Forward Deployed Engineer)は、技術者が顧客の現場に入って伴走するモデルです。課題定義→実装→定着→効果測定までを一貫して担います。米国のAI企業が実践して注目された考え方ですが、その本質は「現場に人を送ること」ではありません。
本質は、現場で解いた課題を知見として蓄積し、次の顧客にはより少ない工数で同じ成果を届けることにあります。人を売るFDEではなく、知見を溜めるFDEです。FDEの定義とSES・コンサルとの違いはFDEとは何かで説明しています。
NetSuiteとAIの組み合わせは、まさにこの進め方が向いています。AI Connector Serviceをつないだだけでは何も変わりません。「どの数字を、誰が、どの会議で、どう使うか」まで業務に組み込んで初めて、経営が加速します。
ベンチャーネットオリジナルバンドル
FDEで得た知見は、NetSuiteに追加する部品として資産化しています。日本の商習慣に必要な機能、国内SaaSとの連携、AIを活用した業務自動化。これらを「ベンチャーネットオリジナルバンドル」としてNetSuiteに組み込む取り組みを進めています。連携の設計・開発や、入金消込など足りない機能の開発は、ベンチャーネットの支援メニューとして提供しています。
NetSuiteは年2回アップデートされます。バンドルの部品は、AIを使ったテスト自動化でアップデートへの追随を続ける方針です。
費用の考え方はシンプルにする方針です。ベンチャーネットからNetSuiteライセンスをご購入いただいたお客様には、バンドルを無償で提供します。他社経由でNetSuiteを導入済みのお客様には、開発費用の保守という位置づけで、保守サポート契約の中でご提供します。NetSuiteのライセンス費用と二重に費用をいただく形にはしません。バンドルの提供範囲と時期は、ご相談時に個別にご案内します。
| 比較軸 | 従来型の導入(人月契約のみ) | FDE型伴走 | FDE型伴走+バンドル |
|---|---|---|---|
| ゴールの定義 | 本番稼働日 | 業務の変化・効果測定 | 業務の変化・効果測定 |
| 費用の重心 | 導入工数(人月) | 導入工数を圧縮し、定着・効果測定へ | 導入工数をさらに圧縮。部品は保守の中で提供 |
| 2社目以降の工数 | 毎回ほぼ同じ | 知見の再利用で減る | 部品の再利用でさらに減る |
| AIとの親和性 | 別途設計が必要 | AI Connector Serviceを業務に組み込む設計まで担う | AI連携・自動化の部品を組み込み済み |
| 向いている企業 | 要件が固まり、社内に推進体制がある企業 | 社内にERP専任がいない中堅企業 | 国内SaaSとの連携や日本固有の要件が多い企業 |
自己診断——あなたの会社は「記録・判断・実行」のどこにいるか
最後に、自社の現在地を確かめる表です。当てはまる行を一つ選んでください。
| 段階 | 当てはまる状態 | 今日できること一つ |
|---|---|---|
| 記録の前 | 売上・在庫・会計が別々のシステムやExcelにある | 「今月の粗利は」と聞かれて、誰が何分で答えられるかを測る |
| 記録はある | NetSuiteなどに一元化されているが、数字は月次で眺めるだけ | AI Connector Serviceで、経営会議の議題を一つAIに要約させてみる |
| 判断に使っている | 数字をもとに優先順位を決め、会議で議論している | 「判断の結果、何がどれだけ変わったか」を測る指標を一つ決める |
| 実行を任せ始めた | 照合や下書きなど、実行の一部をAIが担っている | 次にAIに渡す業務を一つ選び、承認の境界を決める |
段階が上に行くほど、「何に投資すべきか」の答えは「儲かる化」に近づきます。今日できることは、どの段階でも一つで十分です。
よくある質問
Q1. NetSuiteは高いと聞きますが、続ける価値はありますか
続ける価値はあります。ただし「何に対して払っているか」は見直す価値があります。
見える化の対価は下がりましたが、記録が一元化されたデータベースの価値はむしろ上がりました。AIの燃料はデータだからです。NetSuiteの費用は「AIの土台の費用」として捉え直すと、判断しやすくなります。価格の目安はNetSuiteの料金にまとめています。
Q2. Odooなど安価なERPに乗り換えるべきでしょうか
会社の規模と要件によります。乗り換え自体を否定はしません。
ライセンス費用は下がりますが、日本固有の要件(締め請求・インボイス制度・電子帳簿保存法など)の作り込みで、総額はそれほど変わらないこともあります。ベンチャーネットはOdooも扱っているため、どちらが合うかを製品ありきではなく判断できます。比較の論点はOdooとNetSuiteの比較をご覧ください。
Q3. AI Connector Serviceを入れると、何が変わりますか
「うちの数字」についてAIに聞ける状態になります。それだけでは経営は変わりません。
変わるのは、その回答を「誰が、どの会議で、どう使うか」を業務に組み込んだ後です。設定は短時間で終わりますが、定着の設計に時間をかける価値があります。
Q4. バンドルの費用はどう考えればよいですか
ベンチャーネット経由でNetSuiteを購入した場合は無償です。他社経由で導入済みの場合は、保守サポート契約の中で提供します。
ライセンス費用との二重取りにはしません。提供範囲と時期は個別にご案内しますので、まずはご相談ください。
Q5. まだNetSuiteを使っていない会社でも相談できますか
できます。むしろ「記録の前」の段階からご相談いただくのが、遠回りが少なくなります。
NetSuiteが合わない場合は、Odooやスクラッチ開発を含めて、製品ありきではない選択肢をご提案します。
まとめ:NetSuiteを「AIの土台」として使い切る
NetSuiteの成長鈍化は事実です。しかし、それは製品が弱くなったからではなく、ERPに期待される価値がAIの側へ移ったからです。Oracle自身が、NetSuiteをAIとつなぐ土台として位置づけ直しています。
経営者が判断すべきことは「NetSuiteを続けるか、やめるか」ではありません。「NetSuiteに溜まったデータとAIをつないで、わかる化・儲かる化まで進めるか」です。
- 見える化にはもう費用をかけず、AIが読めるデータの状態だけ整える
- わかる化には投資する。中立の判断が価値になる
- 儲かる化に最も投資する。結果に責任を持つ相手を選ぶ
道具は変わり続けますが、判断だけは経営者に残ります。その判断を、ベンチャーネットは伴走者として支えたいと考えています。
もう少し詳しく知りたい方へ
自社の「記録・判断・実行」の段階を、一度整理してみたいと感じた方はご相談ください。製品ありきではない立場で、次の一手を一緒に考えます。
最終更新日:2026年9月21日
