月末、経理の担当者が営業にメールを送ります。
「この受注、契約はもう締結済みですか」
契約書は電子契約サービスにあり、受注と請求はNetSuiteにあります。
締結したかどうかを、担当者が人づてに確かめて、NetSuiteに手で入れている。
営業と経理の間で、よく起きている状態です。
電子契約とは、紙の契約書と押印の代わりに、電子データと電子署名で契約を結ぶ方法です。
NetSuiteの標準には、取引先と契約を結ぶ機能がありません。
そのため、外部の電子契約サービスとつなぎます。
つなぐ前に決めることは、3つに絞れます。
- どの画面から送るか
- 締結後に何をNetSuiteに戻すか
- 締結した契約書の原本をどこに置くか
では、サービスによって、つなぎ方はどこまで違うのか。
クラウドサイン・GMOサイン・freeeサイン・DocuSignの4つで、答えは2つに分かれます。
📌 この記事で分かること
- NetSuiteに電子契約の機能がない理由と、つなぐ前に決める3つのこと
- クラウドサイン・GMOサイン・freeeサイン・DocuSignのつなぎ方の違い
- サービスを選ぶ2つの軸と、つながない選択が合う会社
- 社内の承認に、電子契約サービスを使わなくてよい理由
電子署名は、その電子データを誰が作ったか、後から変えられていないかを示す仕組みです。
NetSuiteの標準に、電子契約の機能はない
NetSuiteの標準に取引先と契約を結ぶ電子署名の機能はありません。
電子契約は、外部のサービスとつなぐことになります。
これは欠点ではありません。
電子契約の価値は、取引先が署名できること自体にあるからです。
ERPの中に同じ仕組みを作っても、相手が使えなければ機能しません。
NetSuiteとOdooを比べた会計・請求・経費の比較でも、この領域は「対外契約は連携」と分けています。
社内の承認は、電子契約でなくてよい
稟議や社内規程の承認は、社内で完結します。
「誰が、いつ、何を承認したか」が記録に残れば足ります。
これはNetSuiteのワークフローと承認の履歴で作れます。
社内の承認に対外向けの電子契約サービスを使うと、件数の割に費用がかさみます。
社内の承認の作り方は、NetSuiteの承認ワークフロー実装ガイドにあります。
以下で扱うのは、取引先と結ぶ契約だけです。
つなぐ前に決める3つのこと
電子契約とNetSuiteの間には、行きと帰りの2つの流れがあります。
- 行き:NetSuiteの画面から、契約書を電子契約サービスに送る
- 帰り:締結の結果を、NetSuiteに戻す
この往復の中で、3つを決めます。
| 決めること | 選択肢の例 | 決め方 |
|---|---|---|
| ① どの画面から送るか | 商談/見積/受注/仕入先・発注 | 契約が「決まる」瞬間の記録から送る |
| ② 何を戻すか | 状態(送付中・締結済み)/締結日/署名済みPDF/管理番号 | 経理と営業がNetSuiteで見たいものだけ戻す |
| ③ 原本をどこに置くか | 電子契約サービス/NetSuite/文書管理サービス | 正本は1か所。ほかは番号でたどる |
①どの画面から送るか
送る画面は、契約が決まる瞬間を記録している画面にします。
- 取引先との基本契約なら、顧客や仕入先の画面
- 個別の取引の契約なら、見積や受注の画面
- 営業の段階で結ぶなら、商談の画面
送る画面が決まれば、契約書に差し込む項目(社名・金額・期間)も決まります。
その画面にある情報を、そのまま契約書に使えるからです。
送った記録と取引が同じ場所に並ぶので、締結待ちの一覧もAIで追いやすくなります。
②何を戻すか
戻す情報は、NetSuiteで誰が何を判断するかから逆算します。
- 経理が「締結前に請求しない」と決めているなら、状態と締結日
- 監査で契約書を求められるなら、署名済みPDFかその管理番号
- 営業が締結待ちを追いかけるなら、送付日と状態
全部を戻す必要はありません。
戻す項目が増えるほど、連携の作りと保守は重くなります。
まずは状態と締結日の2つから始め、必要になったら足すのが安全です。
締結日が取引に入れば、請求の開始漏れをAIで見つける手がかりにもなります。
③原本をどこに置くか
締結した契約書の原本(正本)は、1か所に決めてください。
おすすめは、電子契約サービスに正本を置き、NetSuiteには管理番号を戻す形です。
電子契約サービスには、締結の記録や署名の情報が一緒に残ります。
NetSuiteに署名済みPDFを添付する形もあります。
その場合も、どちらが正本かを決めておかないと、差し替えのたびに食い違いが起きます。
契約書のデータ保存の要件は、NetSuiteと電子帳簿保存法の対応で解説しています。
流れの例|受注から送る場合
3つが決まると、流れはこうなります。
個別取引の契約を、受注の画面から送る例です。
- 営業が、NetSuiteの受注の画面で「契約書を送る」を実行する
- 受注の社名・金額・期間が契約書に差し込まれ、電子契約サービスに送られる
- NetSuiteの受注に「送付中」の状態と送付日が入る
- 取引先が電子契約サービス上で署名する
- 締結の知らせがNetSuiteに届き、受注が「締結済み」になり、締結日と管理番号が入る
- 経理は、「締結済み」になった受注から請求を進める
1〜3が行き、5が帰りです。
既製の連携を使っても、APIで作っても、決めることは変わりません。
結び直すときの手順も決めておく
契約は、一度結んで終わりではありません。
条件の変更や更新で、結び直すことがあります。
迷わないよう、次の2つを先に決めておきます。
- 結び直した契約書を、元の取引に結びつけるか、新しい取引として扱うか
- NetSuiteに残る古い管理番号を、上書きするか、履歴として残すか
おすすめは、古い番号を履歴として残し、新しい番号を足す形です。
監査で「いつ、どの条件で結んでいたか」をたどれます。
4つのサービスの、つなぎ方の違い
4つのサービスを、公式情報で確かめた範囲で並べます。
比べるのは優劣ではなく、つなぎ方の違いです。
DocuSign|NetSuite向けの連携が用意されている
DocuSignは、NetSuite向けの連携を公式に案内しています。
- NetSuiteの商談の画面から、ワンクリックで署名を依頼できる
- 契約の状態を把握でき、署名の履歴を時刻つきで残せる
- 利用には、DocuSignの有料プランが必要
(出典:Docusign「eSignature for Oracle NetSuite」、2026年9月23日確認)
NetSuite上で動くアプリ(SuiteApp)の選び方は、NetSuite SuiteAppマーケットプレイスで扱っています。
向いている会社:海外の取引先が多い会社や、グループで既にDocuSignを使っている会社です。
freeeサイン|NetSuiteとの連携が発表されている
フリー株式会社は、2022年7月28日にfreeeサインとNetSuiteのAPI連携の開始を発表しました。
- NetSuiteの画面から、契約書などをfreeeサインにアップロードできる
- NetSuiteの画面で、契約の締結の状態を確認できる
- NetSuite側の連携は、株式会社エイアンドティが「FSLink」として提供
(出典:フリー株式会社 プレスリリース(2022年7月28日))
発表から時間がたっています。
現在の提供条件は、両社に確認してください。
向いている会社:国内の取引先が中心で、既製の連携で早く始めたい会社です。
クラウドサイン|Web APIでつなぐ
クラウドサインは、Web APIを公開しています。
NetSuiteとの連携は、公式サイトでは確認できませんでした。
ヘルプセンターで案内されている条件は、次のとおりです。
- Web APIを使えるのは、スタンダード・コーポレート・ビジネス・エンタープライズの各プラン
- 管理画面で「Web APIを利用する」に設定すると、Webhookも使えるようになる
- 開発用に、本番と切り離された検証環境(サンドボックス)を申し込める
(出典:クラウドサイン ヘルプセンター「Web API 利用ガイド」、2026年9月23日確認)
Webhookは、締結などの出来事が起きたとき、相手のシステムへ自動で知らせる仕組みです。
締結の結果をNetSuiteに戻すときに使います。
向いている会社:取引先がクラウドサインを使っていることが多い会社です。
GMOサイン|Web APIでつなぐ
GMOサインも、Web APIを公開しています。
NetSuiteとの連携は、こちらも公式サイトでは確認できませんでした。
公式サイトの案内は、次のとおりです。
- 文書のアップロード、署名の位置の設定、署名の実行、文書の詳細情報の取得などのAPIがある
- Web APIは、スタンダードプラン以上で使える
- API仕様書の開示や検証環境の提供などには、別途費用がかかる
(出典:GMOサイン「Web API」、2026年9月23日確認)
向いている会社:取引先がGMOサインを使っていることが多い会社や、基幹システムとの連携を前提に選ぶ会社です。
比較表|答えは2つに分かれる
| サービス | NetSuiteとの連携の案内 | つなぎ方 | 自社で作る部分 |
|---|---|---|---|
| DocuSign | あり(NetSuite向けの連携) | 既製の連携 | 少ない |
| freeeサイン | あり(2022年に発表。提供はエイアンドティ) | 既製の連携 | 少ない(現在の条件は要確認) |
| クラウドサイン | 確認できず | Web API+Webhook | 送る処理と戻す処理 |
| GMOサイン | 確認できず | Web API | 送る処理と戻す処理 |
既製の連携があるのは、DocuSignとfreeeサインです。
クラウドサインとGMOサインは、Web APIでつなぎます。
作る手間はかかりますが、戻す項目を自社で決められます。
既製の連携がないサービスは、連携基盤(iPaaS)を使うか、プログラムを作ってつなぎます。
iPaaSは、画面上でデータの流れを組み立て、システム同士をつなぐサービスです。
手段の比べ方は、NetSuiteの連携方法ガイドで扱っています。
日系SaaS全体の事情は、NetSuite×日系SaaS連携マップにまとめています。
既製の連携でも、契約前に聞く3つ
既製の連携があっても、第2章の3つに合うかは別の話です。
契約の前に、提供元へ次の3つを聞いてください。
- 送れる画面:自社が決めた画面(受注・発注・顧客など)から送れるか
- 戻せる情報:状態・締結日・管理番号・署名済みPDFのうち、どれが戻るか
- 更新への追随:NetSuiteの年2回の更新のたびに、誰が動作を確かめるか
3つめは、見落とされがちです。
NetSuiteの更新のあとに動かなくなれば、業務が止まります。
確かめる役割が提供元にあるのか、自社にあるのかを、先に決めておきます。
サービスは2つの軸で選ぶ
選ぶ軸は、2つで足ります。
軸1.取引先がどのサービスを使っているか
電子契約は、相手が署名して初めて成立します。
取引先の多くが使っているサービスなら、相手の手間が減り、締結が早く進みます。
軸2.NetSuiteとつなぐ手間をどこまでかけられるか
既製の連携があるサービスは、始めるまでが早く済みます。
Web APIでつなぐサービスは手間がかかる代わりに、戻す項目を自由に決められます。
| あなたの会社の状況 | 考え方 |
|---|---|
| 取引先の多くが特定のサービスを使っている | 軸1を優先。そのサービスに合わせ、つなぎ方は後で決める |
| 取引先の使うサービスがばらばら | 軸2を優先。既製の連携があるサービスで始める |
| 海外の取引先が多い | 海外で広く使われているサービスを候補に入れる |
| 契約の件数が月に数件 | つながない選択も有力。締結日と管理番号を手で入れる運用で足りる |
契約の件数が少ない会社はつながなくて構いません。
つなぐ仕組みの手間と保守の費用が、手で入れる手間を上回るからです。
つまずく3つのパターン
パターン1:締結を待たずに、受注や請求を進めてしまう
起きること:契約が締結される前に、NetSuiteで受注と請求が進んでいた。後から条件が変わり、請求を取り消すことになった。
原因:締結の状態がNetSuiteに戻ってこない。
経理は、締結したかどうかをNetSuiteで判断できません。
避け方:第2章②で、状態と締結日を戻す項目に入れます。
「締結済みでなければ請求しない」を、NetSuiteの画面で見分けられるようにします。
パターン2:送る画面を、担当者ごとに変えてしまう
起きること:ある営業は見積から、別の営業は受注から送っていた。どの取引の契約書か、後から結びつけられない。
原因:第2章①の「どの画面から送るか」を決めていない。
避け方:契約の種類ごとに、送る画面を1つに決めます。
個別取引は受注から、基本契約は顧客の画面から、と書き出しておきます。
パターン3:原本が2か所にあり、どちらが最新か分からない
起きること:結び直した契約書と、NetSuiteに添付した古いPDFが両方残っている。監査で、どちらが有効か説明できない。
原因:第2章③の「原本をどこに置くか」を決めていない。
避け方:正本は電子契約サービスに置き、NetSuiteには管理番号だけを持たせます。
PDFを添付する場合は、結び直したときの差し替えの手順を決めておきます。
3つのパターンを、決めていないことから逆にたどると次のとおりです。
ベンチャーネットならこう見る|つなぐ深さを3つから選ぶ
「電子契約とNetSuiteは、つなげるならつないだほうがよい」
そう考える会社は少なくありません。
ただ、件数と取引先の事情によっては、つながないほうが早く、安く済みます。
型1:標準に合わせる/開発する/残す
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、つなぐ深さを3つから選びます。
- 標準に合わせる:既製の連携がそのまま使えるなら、その送る画面と戻る項目に運用を寄せる
- 開発する:Web APIとWebhookで、送る処理と戻す処理を作る。戻す項目を自社で決めたい場合
- 残す:つながずに、締結日と管理番号を手で入れる運用を続ける。契約が月に数件なら、これで足りる
どれを選ぶかは、第2章の3つを決めてからです。
先にサービスやつなぎ方を決めると、戻す項目が「作れるもの」で決まってしまいます。
型2:誰が何を受け持つかを、先に分ける
電子契約サービスの契約と設定は、各サービスの提供元が窓口です。
ベンチャーネットが受け持つのは、NetSuite側と、2つの製品の間のつなぎです。
- 送る画面・戻す情報・原本の場所を、営業と経理の両方と一緒に決める
- 締結の状態・締結日・管理番号を持つ項目と、請求を止めるルールをNetSuiteに整える
- Web APIでつなぐ場合は、送る処理と戻す処理を設計・開発する
NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。
特定の製品に誘導しない立場なので、つながない運用をおすすめすることもあります。
今日できること|契約の件数を種類ごとに数える
先月の実績で、次の3つを数えてみてください。
- 取引先と結んだ契約の件数(基本契約と個別の契約を分けて)
- そのうち、取引先から電子契約サービスを指定された件数
- 社内の承認のために、電子契約サービスを使った件数
3が多いなら、まず社内の承認をNetSuiteのワークフローに移せます。
1が多く、2が特定のサービスに集まっているなら、そのサービスとつなぐ価値があります。
あわせて、経理が締結済みかどうかをどこで見ているか、1件だけたどってみてください。
メールや口頭で聞いているなら、第2章②の「戻す情報」から決めるのが近道です。
よくある質問
Q1. NetSuiteだけで、取引先と電子契約を結べますか
標準の機能では結べません。
取引先が署名できる電子契約サービスとつなぐことになります(第1章)。
社内の承認であれば、NetSuiteのワークフローで作れます。
Q2. NetSuiteとの連携が用意されている電子契約サービスはどれですか
DocuSignとfreeeサインです。
DocuSignはNetSuite向けの連携を案内し、freeeサインは2022年に連携を発表しています。
クラウドサインとGMOサインは、連携の案内を公式サイトで確認できませんでした。
どちらもWeb APIを公開しているため、APIでつなぐことはできます(第3章)。
Q3. クラウドサインとNetSuiteをつなぐには、何が必要ですか
Web APIが使えるプランと送る処理・戻す処理の開発です。
ヘルプセンターでは、スタンダード・コーポレート・ビジネス・エンタープライズの各プランでWeb APIが使えると案内されています。
締結の結果を戻すには、Webhookを使います(第3章3-3)。
Q4. 締結した契約書は、NetSuiteに保存すべきですか
正本は電子契約サービスに置きNetSuiteには管理番号を戻す形です。
署名の記録は、電子契約サービス側に残るからです。
NetSuiteにも添付する場合は、どちらが正本かを決めておいてください(第2章③)。
Q5. どの電子契約サービスを選べばよいですか
まず取引先がどのサービスを使っているかを見てください。
電子契約は、相手が署名して初めて成立します。
取引先の使うサービスがばらばらなら、NetSuiteとつなぐ手間の少ないサービスから始めます(第4章)。
Q6. 発注書や注文請書も、電子契約サービスで送るべきですか
取引先との合意を記録に残したいものは候補になります。
その場合も、送る画面を1つに決めます。
発注書なら発注の画面から送り、締結の状態を発注に戻す形です(第2章)。
まとめ:つなぐ前に、往復の3つを決める
- NetSuiteの標準に電子契約の機能はない。取引先との契約は外部のサービスとつなぐ
- 社内の承認は電子契約でなくてよい。NetSuiteのワークフローで作れる
- つなぐ前に決めるのは3つ。送る画面・戻す情報・原本の場所
- DocuSignとfreeeサインは既製の連携の案内がある。クラウドサインとGMOサインはWeb APIでつなぐ
- サービスは取引先が使っているかとつなぐ手間の2軸で選ぶ
- 契約が月に数件なら、つながない選択も有力
「この受注、締結済みですか」というメールは、戻す情報が決まれば要らなくなります。
まずは、経理がNetSuiteで何を見たいかから決めてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
「どの電子契約サービスと、どこまでつなぐか」の判断から、ご相談をお受けしています。
