月末の午後。経理の担当者が、NetSuiteから売掛金の一覧を出します。
Excelに貼り、期日を過ぎた行に色を付け、金額の大きい順に並べ替える。
それから、どの取引先に、どんな言葉で連絡するかを考え始めます。
一覧を作るのに1時間。文面を考えるのに、もう1時間。
その2時間のあいだ、入金は1円も早まっていません。
売掛金の回収管理とは、請求した代金が期日どおりに入るかを追い、遅れた先に督促し、入金の見込みを資金繰りに反映する業務です。
NetSuiteとAIを使えば、この業務の大半は下書きまで自動にできます。
延滞の一覧、優先順位、督促メールの文面、入金の予測、DSO(売上債権回転日数)。
5つとも、AIが案を出せる作業です。
ただし、AIに決めさせてはいけない判断が2つあります。
与信枠を変えることと、貸倒として処理することです。
では、AIに任せる範囲と、人が握る範囲は、どこで分ければよいのか。
この記事で分かること
- 回収の業務を5つの部品に分け、それぞれをAIに頼む方法
- NetSuiteの入金日予測(Payment Date Prediction)でできることと条件
- 取引先ごとにトーンを変えた督促メールの下書きの頼み方
- 与信枠の変更と貸倒の判断を、AIに決めさせない設計
言葉の整理
- DSO(売上債権回転日数):売上を現金で回収するまでにかかる日数の平均
- 年齢表:売掛金を、期日からの経過日数で区切って並べた表
- 与信枠:取引先ごとに決める「ここまでなら掛けで売る」上限の金額
- AI Connector Service:ClaudeやChatGPTなどのAIを、NetSuiteにつなぐOracleの仕組み
この記事のサンプル(社名・人名・金額)は、すべて架空です。
延滞一覧を手で作るのは「意味のない作業」
一覧を作り、色を付け、並べ替える。
この作業は、入金を1日も早めません。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、こうした作業をブルシットジョブ(意味のない作業)と呼んでいます。
ベンチャーネットが考えるAIクラウドERPは、会社のデータをNetSuiteに集めて正しく計測し、その前後の意味のない作業をAIで消す考え方です。
稲盛和夫氏は「売上を極大に、経費を極小に(入るを量って、出ずるを制する)」と説きました(出典:京セラ公式、2026年9月確認)。
ベンチャーネットの言葉で言い換えると、売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑えることです。
利益は、その結果としてついてきます。
回収は、この「入るを量る」の中心にある業務です。
回収の業務にも、正のループと負のループがあります。
| ループ | 起きること |
|---|---|
| 負のループ | 月末に手で一覧を作る→遅れに気づくのが月末→督促が遅れる→入金も遅れ、資金繰りが苦しくなる |
| 正のループ | 毎日、遅れそうな先が自動で並ぶ→期日の前に連絡できる→入金の約束日が記録に残る→資金繰りの見通しが当たる |
負のループの根は、遅れに気づくのが月に1回しかないことです。
月末に気づいた延滞のうち長いものは、すでに30日近く放置されています。
正のループなら、期日の前に確認の電話で済みます。
回収の業務以外の意味のない作業は、NetSuiteあるある15選で扱っています。
全体像|回収を5つの部品に分ける
回収の業務は、次の5つの部品に分けるとAIに頼みやすくなります。
| 部品 | 使うもの | 日本での状況 | AIとの親和性 |
|---|---|---|---|
| ① 延滞の一覧と優先順位 | 入金日予測(NetSuite標準)、保存検索 | 日本で使えるかはアカウント担当に確認 | 高。並べ替えと抽出は機械の得意分野 |
| ② 支払い傾向の採点 | Claude+AI Connector Service | 日本で使えるかはアカウント担当に確認 | 高。遅延日数の集計と比較が速い |
| ③ 督促メールの下書き | Claude・ChatGPT、N/llmモジュール | N/llmとPrompt Studioは全地域・全言語 | 高。トーンの使い分けは生成AIの得意分野 |
| ④ 予測入金を資金繰りへ | 保存検索、Cash 360 | Cash 360は標準の対象エディションを確認 | 中。予測の元が正しいことが前提 |
| ⑤ DSOを毎日見る | Claudeの予約タスク、SuiteQL | 予約タスクは有料プラン | 中〜高。計算は速い。検算と理由づけは人 |
順番には意味があります。
①の一覧が正しくなければ、②の採点も③の督促も的を外します。
とくに、入金済みなのに消込が漏れた請求書が混ざると、払った取引先に督促してしまいます。
消込の仕組みは、ZEDI×NetSuiteで売掛金消込を自動化するとNetSuiteの銀行連携・自動消込ガイドで扱っています。
部品①|延滞の一覧と、督促の優先順位
期日から30日を超えた請求を、長い順に抜き出す
AI Connector ServiceでつないだClaudeに頼むか、保存検索で出したCSVを渡します。
元データ(架空)
| 請求書番号 | 得意先 | 期日 | 未回収額(円) |
|---|---|---|---|
| INV-1001 | サンプル商事 | 2026-09-20 | 550,000 |
| INV-1002 | テスト工業 | 2026-08-25 | 1,200,000 |
| INV-1003 | 架空物産 | 2026-07-31 | 380,000 |
| INV-1004 | 見本産業 | 2026-09-28 | 220,000 |
AIへの頼み方
期日から30日を超えて未回収の請求書を抜き出し、
延滞日数の長い順に並べてください。基準日は2026/9/30です。
結果
請求書番号,得意先,延滞日数,未回収額
INV-1003,架空物産,61,380000
INV-1002,テスト工業,36,1200000
人が確認すること:入金済みなのに消込が漏れた請求書が、混ざっていないか。
並べ替えと抽出は、AIが得意な作業です。
それでも件数と合計は、元データと一度照らします。
間違いの多くは、渡した元データの側で起きます。
期日の前に「遅れそうな先」を知る|入金日予測
延滞の一覧は、遅れた後の話です。
NetSuiteには、遅れる前に知るための機能があります。
Payment Date Prediction(入金日予測)は、取引先が過去にどう払ってきたかをもとに、請求書ごとに入金の予測日を出す機能です。
Oracleのヘルプで確かめた中身は、次のとおりです(出典:Oracle NetSuiteのヘルプ、2026年9月確認)。
| 項目 | ヘルプの説明 |
|---|---|
| 表示される項目 | 入金予測日、予測遅延日数(請求書の画面) |
| 更新の頻度 | 週に1回。週ごとに予測が変わることがある |
| 使い始める条件 | 既定は無効。管理者が機能の有効化の画面で有効にする |
| 予測が出る条件 | 自社のアカウントに、過去12週以上の入金履歴と、その12週より前に支払われた請求書が50件以上 |
| 対象と制限 | 請求書のみ。予測は目安で保証ではない |
データが足りない場合や、支払済み・締め済みの請求書には、予測が表示されません。
日本のアカウントで使えるかは、NetSuiteのアカウント担当に確認してください。
予測遅延日数の列が出れば、督促の順番の叩き台ができます。
元データ(架空・期日はいずれも2026-10-30)
| 請求書番号 | 顧客 | 金額(円) | 予測遅延日数 |
|---|---|---|---|
| INV-2101 | サンプル商事 | 540,000 | 0 |
| INV-2102 | テスト工業 | 1,200,000 | 18 |
| INV-2103 | 架空物産 | 330,000 | 5 |
| INV-2104 | 見本電機 | 880,000 | 32 |
AIへの頼み方
この請求書一覧を予測遅延日数の大きい順に並べ、
上位2件を今週の確認リストにしてください。
結果
請求書番号,顧客,金額,予測遅延日数
INV-2104,見本電機,880000,32
INV-2102,テスト工業,1200000,18
人が確認すること:上位の先の最近の入金。予測は目安なので、支払い方の変化を見てから連絡する。
期日は1か月先です。
この段階なら、督促ではなく「請求書は届いていますか」という確認で済みます。
部品②|取引先ごとの支払い傾向を採点する
年齢表を眺めて、危ない取引先を勘で探す。
これもAIに集計させられます。
AI Connector Serviceでつなげば、ClaudeがSuiteQL(NetSuiteのデータを取り出す問い合わせの言葉)で入金の履歴を読みます。
Oracleのヘルプでは、SuiteQLのツールは読み取りのみとされています(出典:Oracle NetSuiteのヘルプ、2026年9月確認)。
つながっていなくても、入金の履歴のCSVを渡せば同じ集計ができます。
元データ(架空)
| 顧客 | 支払期日 | 入金日 | 金額(円) |
|---|---|---|---|
| サンプル商事 | 2026-07-31 | 2026-07-31 | 300,000 |
| サンプル商事 | 2026-08-31 | 2026-09-01 | 300,000 |
| テスト工業 | 2026-07-31 | 2026-08-20 | 500,000 |
| テスト工業 | 2026-08-31 | 2026-09-25 | 500,000 |
| 架空物産 | 2026-07-31 | 2026-08-05 | 200,000 |
| 架空物産 | 2026-08-31 | 2026-08-31 | 200,000 |
AIへの頼み方
与信担当の立場で、顧客ごとの平均遅延日数と最大遅延日数を表にし、
督促の優先度を高・中・低で付けてください。
与信枠の変更は提案しないでください。
結果
| 顧客 | 平均遅延日数 | 最大遅延日数 | 督促優先度 |
|---|---|---|---|
| テスト工業 | 22.5 | 25 | 高 |
| 架空物産 | 2.5 | 5 | 低 |
| サンプル商事 | 0.5 | 1 | 低 |
人が確認すること:優先度「高」の取引先の、遅れの事情。検収の遅れなど、先方に理由があるかを営業に聞く。
テスト工業は2回とも20日を超えて遅れています。
ただ、数字だけでは「払えない」のか「検収が遅い」のかは分かりません。
前者なら取引条件の見直し、後者なら請求の出し方の見直しです。
打つ手が正反対なので、理由は必ず人が聞きます。
海外の専門家は、この種の分析をAIに頼むとき「順位付けと推奨まで。決めるのはAIではない」と書いています。
与信枠の変更や貸倒の提案は、人の確認に回す設計です(出典:海外の専門家の解説、2026年9月確認)。
頼み方の最後の一文は、そのためのものです。
AI Connector Serviceの機能自体は無料です。
公式FAQで対応が明記されているのは、Claude ProとChatGPTです。ChatGPTは、プランによってDeveloper Modeが要ります。
管理者(Administrator)ロールではつなげません。
管理者以外のロールに「MCP Server Connection」「OAuth 2.0 Access Tokens」の2つの権限を付けます。
MCP Standard Tools SuiteAppの一部のツールでは、REST Web Servicesなどの権限が追加で要ります。
(出典:Oracle NetSuiteのヘルプ、2026年9月確認)
日本のアカウントで使えるかは、NetSuiteのアカウント担当に確認してください。
つなぐ手順と権限は、NetSuite AI Connector Service(MCP)とはで扱っています。
部品③|督促メールを、取引先ごとのトーンで下書きする
長く取引している先が初めて遅れたときに、強い言葉は要りません。
3回目の遅れに「行き違いでしたら」と書けば、軽く見られます。
遅れの状況と督促の段階の関係を図にすると、次のとおりです。
この書き分けを1社ずつ手でやるのが、いちばん時間のかかる作業です。
元データ(架空)
顧客:見本精機(長年の取引先、遅れは初めて)
請求書:INV-3002 金額 1,200,000円 期日 9月30日
遅れ:8日
AIへの頼み方
見本精機様への入金確認のメールを下書きしてください。
長年の取引先で初めての遅れなので、確認のお願いとして丁寧な敬語で。
強い表現は避けてください。
結果
件名:9月30日期日のご請求(INV-3002)のご確認のお願い
平素より大変お世話になっております。
9月30日期日のご請求(1,200,000円)について、
本日時点で入金の確認が取れておりません。
行き違いでしたら何卒ご容赦ください。
ご状況をお知らせいただけますと幸いです。
人が確認すること:金額・期日・宛先が正しいか。送る前に担当者が見る。
トーンは、遅れの回数と取引の長さで段階を決めておきます。
| 段階 | 状況の例 | AIに渡すトーンの指定 |
|---|---|---|
| 1. 確認 | 初めての遅れ、または期日の前 | 行き違いを前提に、状況を尋ねる |
| 2. 依頼 | 2回目の遅れ、確認に返事がない | 新しい支払日を明記して、お願いする |
| 3. 要請 | 約束した日にも入金がない | 期日と対応を明記し、上長の名前で出す |
段階3の文面は、法務や上長の確認を経てから送ります。
AIに渡すのは段階の番号と事実だけにし、どの段階にするかは担当者が決めます。
NetSuiteの中で下書きを作るなら、N/llmモジュール(開発で生成AIを呼ぶ仕組み)とPrompt Studioを使います。
どちらも全地域・NetSuiteの全言語で提供されています(出典:Oracle NetSuiteのヘルプ、2026年9月確認)。
Prompt Studioの使い方は、NetSuite Text Enhance・Prompt Studioとはで扱っています。
部品④|予測した入金を、資金繰りに戻す
督促は、入金を早めるためだけの作業ではありません。
いつ入るかが分かれば、資金繰りの見通しが当たるようになります。
予測入金日を週ごとに集計する
資金繰り表を作るたびに、経理が営業へ入金の見込みを聞いて回っている。
入金日予測の結果を週ごとに集計すれば、この聞き取りは減らせます。
元データ(架空)
| 請求書番号 | 顧客 | 金額(円) | 予測入金日 |
|---|---|---|---|
| INV-2201 | サンプル商事 | 540,000 | 2026-10-05 |
| INV-2202 | テスト工業 | 1,200,000 | 2026-10-08 |
| INV-2203 | 架空物産 | 330,000 | 2026-10-14 |
| INV-2204 | 見本電機 | 880,000 | 2026-10-16 |
| INV-2205 | サンプル商事 | 210,000 | 2026-10-21 |
AIへの頼み方
予測入金日を、月曜始まりの週ごとに合計してください。
結果
| 週の開始日(月曜) | 入金見込み額(円) |
|---|---|
| 2026-10-05 | 1,740,000 |
| 2026-10-12 | 1,210,000 |
| 2026-10-19 | 210,000 |
人が確認すること:大口の先の予測が、営業の見立てとずれていないか。
Oracleのヘルプには、予測の項目を保存検索の条件に使えるかの記載がありません。
自社のアカウントで、保存検索の項目の一覧に出るかを見てください。
出ない場合は、請求書の一覧をCSVで出し、上の頼み方で集計します。
督促で聞いた「約束日」を記録に残す
入金日予測の機能には、人が入れる項目もあります。
User-Estimated Payment Date(人が見込む入金日)と、その出どころです。
出どころは「会社の見込み」と「顧客が約束した日」から選べます(出典:Oracle NetSuiteのヘルプ、2026年9月確認)。
督促の電話で「25日に払います」と言われたら、この項目に入れます。
AIの予測と先方の約束日が同じ請求書に並び、約束の日を過ぎれば次の段階に進む合図になります。
資金の全体は、Cash 360で見る
買掛金や受注も含めた資金の見通しには、Cash 360(NetSuiteのデータだけで資金を予測する管理型のSuiteApp)があります。
売掛金・買掛金・受注・発注などから、日・週・月の単位で予測し、年齢表の円グラフも並びます(出典:Oracle NetSuiteのヘルプ、2026年9月確認)。
標準で使えるのは、NetSuiteのClassicとAccounting Centerのエディションです(出典:同上)。
それ以外の環境で使えるかは、NetSuiteのアカウント担当に確認してください。
資金繰り表の作り方そのものは、資金繰りとはで扱っています。
部品⑤|DSOを、月末ではなく毎日見る
DSOを月末に電卓で出していると、悪化に気づいたときには、その月の手はもう打てません。
元データ(架空)
| 月末 | 売掛金残高(円) | 当月売上(円) |
|---|---|---|
| 2026-06 | 12,000,000 | 10,000,000 |
| 2026-07 | 13,500,000 | 10,200,000 |
| 2026-08 | 15,800,000 | 10,100,000 |
AIへの頼み方
毎日、売掛金残高と売上からDSOを計算し、
前月より悪化していたら、理由の候補と一緒に報告してください。
結果
| 月末 | DSO(日) |
|---|---|
| 2026-06 | 36.0 |
| 2026-07 | 39.7 |
| 2026-08 | 46.9 |
※DSO=売掛金残高÷当月売上×30日の簡易な式
人が確認すること:DSOが上がった理由。大口の先の期日延長なのか、回収の遅れなのかを確かめてから対策を決める。
売上はほぼ横ばいなのに、売掛金は2か月で約3割増えています。
回収の遅れか、支払条件の長い取引の増加か。AIの答えは候補にとどまります。
毎日の計算は、Claudeの予約タスクに任せられます。
Coworkの画面で毎日・平日などの間隔を選べ、リモートで動くためPCがスリープ中でも実行されます。
接続したツールも使え、提供は有料プラン(Pro・Max・Team・Enterprise)です(出典:Claude公式ヘルプ、2026年9月確認)。
計算の前に、期末残高と期中平均残高のどちらを使うかを社内でそろえておきます。
指標の読み方は、財務分析指標とはで扱っています。
DSOは、毎朝の数字の1行に加えると効きます。
毎朝の速報の作り方は、毎朝の売上速報を自動で届けるで扱っています。
入金や仕訳のおかしな動きの点検は、支払と仕訳の異常をAIで毎日点検するが補います。
与信枠の変更と貸倒は、AIに決めさせない
回収にAIを使うとき、いちばん起きやすい事故があります。
AIの答えを、そのまま実行してしまうことです。
修正前の頼み方(架空)
顧客ごとの支払状況を分析して、与信枠をどうすべきか決めて。
こう頼むと、AIは「この顧客は与信枠を下げるべき」と答えることがあります。
担当者がそのまま与信枠を下げれば、出荷が止まり、取引先との関係にも響きます。
修正後の頼み方
顧客別の支払遅延を分析してください。
与信枠の変更や貸倒処理は推奨せず、
人が確認すべき事項として箇条書きにしてください。
結果(架空)
・テスト工業:直近2回とも20日超の遅延。取引条件を人が確認
・架空物産:遅延は1回のみ。経過観察
※与信枠・貸倒の判断は記載していません
人が確認すること:与信と貸倒の最終判断は、決裁権限のある人が根拠を見て行う。
与信枠を変えることは、取引先との約束を変えることです。
貸倒の処理は、会計にも税務にも関わります。
どちらも、根拠を説明できる人が、決裁の記録を残して決めます。
AIにつなぐロールの権限でも、線を引けます。
回収の分析に使うロールには、取引先の与信枠を書き換える権限を持たせません。
ロールの考え方はNetSuiteの権限・ロール設計で、AIに触らせる前のルールはAIにNetSuiteを触らせる前の安全ルールで扱っています。
任せる範囲の考え方全体は、AIエージェントに「任せる範囲」と、経営者が「握る範囲」が参考になります。
判断の物差し|どこからAIを入れるか
| 会社の状態 | 最初に入れる部品 | 理由 |
|---|---|---|
| 延滞の一覧を毎月手で作っている | ①の延滞一覧 | 手間が最も大きく、AIの得意な作業 |
| 督促の文面に毎回迷っている | ③の下書き+段階の表 | 書き分けの時間がそのまま消える |
| 資金繰り表の入金見込みを聞いて回っている | ④の週ごとの集計 | 聞き取りが減り、見通しが当たる |
| 入金の消込が数日遅れている | どれもまだ早い | 一覧に消込漏れが混ざり、誤督促になる |
最後の行の会社は、AIより先に消込を整えます。
消込の方式の選び方は、NetSuiteの入金消込はどこまで自動化できるかで扱っています。
NetSuite以外の道が合う場合もあります。
- 取引先が数十社で入金がほぼ期日どおりの会社:会計ソフトの一覧と、文面だけAIで足りる
- アプリ単位で小さく始めたい会社:Odooなど、ほかのERPも候補になる
- 基幹システムを替える予定がない会社:いまの一覧にAIの下書きだけを足す(AIスクラッチ開発も含む)
- 請求の出し方が部署ごとに違う会社:いまはシステムを入れない。請求の業務の見える化が先
これから選ぶ会社と、いま使っている会社
いまNetSuiteを使っている会社は、明日から①に手を付けられます。
保存検索で出した延滞の一覧を、AIに並べ替えさせてみてください。
入金日予測は、3-2の条件を先に見ます。
これからNetSuiteを選ぶ会社は、請求と入金を同じデータで持てるかを見ます。
受注・請求・入金・会計が1か所にあれば、延滞の一覧を作るための転記は要りません。
締め請求の考え方はNetSuiteで締め請求書を作る方法、卸売・商社の与信管理は卸売・商社のNetSuite活用ガイドで扱っています。
よくある失敗3つ
3つの失敗と避け方を図にすると、次のとおりです。
失敗1:消込が遅れたまま、AIに督促リストを作らせる
起きること:AIの督促リストどおりに連絡したら、先方は先週払っていた。
原因:入金の消込が3日遅れていて、入金済みの請求書が延滞に残っていた。
避け方:督促リストを出す前に、その日の入金を消し込む手順を入れます。
失敗2:AIの督促メールを、確かめずに送る
起きること:丁寧な文面のはずが、金額が別の請求書のものだった。
原因:下書きを「完成品」として扱い、金額と請求書番号を元データと照らさなかった。
避け方:送信は人の手でだけ行う設計にします。
自動で送る仕組みは作らず、下書きの保存までをAIの役目にします。
失敗3:AIの優先度を、そのまま与信の判断に使う
起きること:優先度「高」の取引先の与信枠を、担当者の判断で下げた。実は検収の遅れが原因で、出荷が止まり関係がこじれた。
原因:遅延の数字だけを見て、遅れの理由を聞かなかった。
避け方:優先度「高」は、営業に理由を聞く合図として使います。
与信枠の変更は、決裁権限のある人が、理由を聞いた後で決めます。
3つとも、根は同じです。AIの案を、確認を通さずに業務へ流したことです。
ベンチャーネットならこう見る
回収の相談を受けると、ベンチャーネットはAIの話の前に、いまの回収の流れを見える化します。
誰が、いつ、どの画面から一覧を出し、誰が文面を考え、誰が電話をかけているか。
見える化すると、整理整頓で消せる作業が出てきます。
営業と経理が同じ先に別々に連絡している、約束の日が手帳にしかない、などです。
先に重複をなくし、約束日を請求書の項目に残す決まりを作ります。
そのうえで、残った作業を標準の機能と照らし合わせ、3つから選びます。
| 選び方 | 回収での例 |
|---|---|
| 標準に合わせる | 延滞の一覧は保存検索、入金の見込みは入金日予測とCash 360で見る |
| 開発する | 請求書の画面から、N/llmで督促の下書きを出すボタンを作る |
| 残す | 段階3の督促と、与信・貸倒の判断は、人の仕事として残す |
人に残す仕事を先に決めておくと、AIに任せる仕事の範囲がはっきりします。
もう1つ、範囲の絞り方があります。
ベンチャーネットは、データを使った経営の1周目を、1つの業務・1つのKPIに絞って進めます(最短で90日)。
回収とDSOは、この1周目に向いています。
入金は毎日動くので、打った手の効き目が数週間で数字に出るからです。
今日できること|先月の督促を1時間で棚卸しする
先月、督促した取引先を次の表に書き出してください。
| 取引先 | 遅れた日数と理由 | 連絡した人・方法 | 約束した入金日の記録先 |
|---|---|---|---|
| (例)テスト工業 | 25日・検収の遅れ | 営業・電話 | 担当者の手帳 |
書き出すと、次の3つが見えてきます。
- 理由が「検収の遅れ」「宛先違い」の取引先:督促より、請求の出し方を直す候補
- 約束日が紙や手帳にある取引先:請求書の項目に残す候補
- 毎月同じ顔ぶれの取引先:第4章の採点と、第5章の段階の表を使う候補
3つ目に当てはまる取引先が1社あれば、来月の督促はAIの下書きから始められます。
よくある質問
Q1. 売掛金の督促をAIに任せてもよいですか
下書きまでは任せられます。
延滞の一覧、優先順位の案、督促メールの下書きまでがAIの役目です。
送るかどうか、取引条件を変えるかどうかは人が決めます(第5章)。
Q2. NetSuiteで入金日を予測できますか
Payment Date Predictionという機能があります。
取引先の支払いの傾向から、請求書ごとに入金予測日と予測遅延日数を表示します。
アカウントに過去12週以上の入金履歴があるなどの条件があり、予測は週1回更新されます。
日本のアカウントで使えるかは、NetSuiteのアカウント担当に確認してください(3-2)。
Q3. AIに与信枠の変更や貸倒の判断をさせてもよいですか
させません。
AIは分析と候補出しまでにし、与信枠の変更と貸倒の処理は、決裁権限のある人が根拠を見て決めます。
AIへの頼み方にも、与信と貸倒は推奨しないと書いておきます(第8章)。
Q4. DSO(売上債権回転日数)はどう計算しますか
売掛金残高を売上で割り期間の日数を掛けます。
月次なら「売掛金残高÷当月売上×30日」が簡易な式です(第7章)。
Q5. 督促メールの文面は、取引先ごとに変えるべきですか
変えたほうが関係を保てます。
初めての遅れには確認のお願い、繰り返す遅れには期日を明記した依頼、と段階を分けます。
AIには取引の長さと遅れの回数を渡し、トーンを指定して下書きさせます(第5章)。
Q6. 入金の消込が遅れていても、AIで督促できますか
先に消込を整えてください。
入金済みなのに消込が漏れた請求書が延滞一覧に混ざると、払った取引先に督促してしまいます。
督促の前に、延滞一覧と当日の入金を突き合わせます(第11章)。
まとめ
- 売掛金の回収管理とは、期日どおりの入金を追い、遅れた先に督促し、入金の見込みを資金繰りに戻す業務
- 回収は5つの部品に分ける。延滞の一覧、支払い傾向の採点、督促の下書き、入金予測、DSO
- NetSuiteの入金日予測は、期日の前に遅れそうな先を示す。条件と日本での提供状況は要確認
- 督促メールは、遅れの回数と取引の長さで段階を決め、AIに下書きさせる
- AIは下書きと候補まで。与信枠の変更と貸倒の処理は人が決める
月末の2時間は、入金を1円も早めない作業でした。
その2時間を、期日の前に取引先へ確認の電話をかける時間に替えられるかどうか。
分かれ目は、AIに任せる仕事より先に、人に残す仕事を決められるかにあります。
もう少し詳しく知りたい方へ
延滞の一覧はあるが、督促の順番と文面は担当者の頭の中にある。
入金の見込みが資金繰りに反映されず、毎月聞き取りをしている。
そうした段階から、ご相談をお受けしています。
- 回収と資金繰りを、会計の仕組みから整えたい方:会計ブリッジ伴走サービス
- Claude・ChatGPTをNetSuiteにつなぎ、督促や集計の手間を減らしたい方:生成AIによる経営革新伴走サービス
- どこから始めるかを相談したい方:お問い合わせ
