「スマートシュリンク経営」とは?人を増やさず成長する中小企業の新戦略

人手不足とコスト上昇が続く中、従来の「人を増やすことによる成長」は通用しない時代になりました。
そこで注目したいのが「スマートシュリンク(賢く縮む)」という戦略です。
本記事では、スマートシュリンクの考え方と進め方、そしてAI時代のデータ基盤づくりの要点を解説します。

目次

スマートシュリンク(賢く縮む)とは何か─縮小均衡との違い

「スマートシュリンク」は、直訳すると「賢く縮む」という意味です。
ただし経営の文脈では「単なる縮小」ではなく、「生存力を維持・向上させながら縮む」という意味になります。
スマートシュリンク経営では、「減らす領域」と「維持・向上させる領域」を切り分け、ムダを削って生まれた余力を成長領域に再配分していきます。

減らして楽にし、増やして強くする

では、何を削り、何を残すのか。
ここではわかりやすく、「減らして楽にする業務」と「増やして強くする業務」として分類してみましょう。

減らして楽にする業務

減らして楽にする業務とは、標準化・仕組み化することで、時間や人件費を圧縮できる業務のことです。

  • 受注処理や請求処理など、毎月同じ手順で繰り返す定型業務
  • 入金消込や在庫棚卸など、ルールが明確でパターン化できる業務
  • 日報作成や実績集計など、データを転記・集約するだけの業務
  • 承認や回覧など、判断基準が明確で自動化できる業務

増やして強くする業務

増やして強くする業務とは、リソース(時間・人手・知恵)を集中させることで、競争力を維持・強化できる業務のことです。

  • 顧客の課題をヒアリングし、最適な提案を組み立てる営業活動
  • 新規取引先の開拓や、既存顧客との関係深化
  • 製品やサービスの品質改善、新商品・新サービスの企画
  • 現場の改善提案を吸い上げ、業務プロセスを見直す活動
  • 社員の育成や技術継承にかける時間

縮小均衡との違い

「縮む」という言葉から「縮小均衡」を連想する方もいるかもしれません。
しかし、スマートシュリンクと縮小均衡はまったく異なる考え方です。
縮小均衡は、売上減少に合わせてコストを削り利益を確保する、いわば「守りの戦略」です。
人件費や投資の削減で短期的な収益は確保できますが、未来への投資がないため、じわじわと競争力が低下していきます。
一方のスマートシュリンクでは守りで余力を作り攻めに回す、つまり効率化で創出したリソースを成長領域へ再投資するため「攻めと守りの両立」が可能です。
縮むのは「ムダな業務」であって、「事業そのもの」ではありません。

スマートシュリンクが中小企業の生存戦略として重要な理由

スマートシュリンク経営が重視される背景には、複数の理由があります。

採用難と属人化の悪循環

中小企業の多くは、慢性的な人手不足に悩んでいます。一方で人材市場も不足感が強く、「募集しても応募が来ない」状態に陥りがちです。
また、ようやく採用できても定着せず、結果として既存社員が複数の業務を兼務する「多能工化」が進みます。
多能工化は一見効率的に見えますが、実態は「その人がいないと回らない」状態を生み出します。
属人化が進むほど業務の標準化は困難になり、効率化や改善が進みづらくなります。
さらに多能工化したベテラン社員が退職してしまうと、しわ寄せが周囲の社員に及び、現場は疲弊し、新しいことに挑戦する余力がなくなっていきます。

既存業務を回すだけで精一杯になり成長の余力がない

「新規事業を検討したい」「DXに取り組みたい」という声は経営層から聞こえてきます。
しかし現場は、日々の定型業務に追われていることがほとんどです。
受発注処理、在庫確認、請求処理、問い合わせ対応に追われ、月末月初の締め作業では残業が常態化し、イレギュラー対応が入れば通常業務が後回しになる。
こうした状況では、新しい取り組みに割けるリソースがありません。

環境変化への対応力が問われている

さらに経営環境も厳しさを増しています。
原材料費の高騰、価格転嫁の難しさ、短納期化、多品種少量化、取引条件の変化などに対応するには、業務の標準化と意思決定の高速化が欠かせません。
「縮まないと回らない」のではなく、「賢く縮まないと伸ばせない」のが実情ではないでしょうか。
「成長の原資」を作るためにも、まずは既存業務の効率化が必要なのです。

スマートシュリンクと「両利きの経営」─守りと攻めを両立させる考え方

スマートシュリンクを深く理解するうえで参考になるのが「両利きの経営」です。

両利きの経営とは

両利きの経営とは、既存事業の深化(知の深化)と新規事業の探索(知の探索)を同時に推進する経営手法です。
既存事業で安定した収益を確保しながら、新しい成長機会を探る。
この両立が、変化の激しい時代を生き抜く鍵とされています。
大企業であれば、既存事業部門とは別に新規事業部門を設け、それぞれに人材と予算を配分できます。しかし中小企業には、そうした余裕がありません。

中小企業における両利きの経営=スマートシュリンク

中小企業が両利きの経営を実践するには、既存業務の効率化で「攻めの余力」を生み出す必要があります。ここでスマートシュリンク経営が機能します。
守り(既存業務の効率化・自動化)で創出したリソースを、攻め(新規事業・成長領域)へ投資する。この流れを意識的に作ることが重要です。
ポイントは「守りの効率化なくして攻めの投資なし」という順序です。
順序を間違えると、限られたリソースが分散し、守りも攻めも中途半端になってしまいます。

スマートシュリンクを実現する手段としてのAI活用

スマートシュリンクの「守り」、つまり既存業務の効率化を進める手段として、AIの活用が注目されています。
AIが得意とするのは、パターン認識と定型処理の自動化です。
「減らして楽にする業務」の圧縮において、AIは強力な武器になります。
ただし、AIが効果を発揮するにはいくつかの条件が揃っている必要があります。

条件①:ムダの発生源が把握できていること

例外処理、二重入力、承認の往復、属人判断といったムダが、どこで発生しているかを把握できていることが前提です。見えないものは改善できません。
AIはデータの流れを分析し、ボトルネックを可視化するのが得意です。
ただし、そもそもデータが取れていなければ分析のしようがありません。

条件②:部門横断で同じ定義の数字を見られること

営業、購買、経理などの部門がそれぞれ別のExcelを持ち、数字の定義がバラバラという状態では、AIを導入しても精度の高い分析はできません。
統合されたデータ環境があってはじめて、AIは部門を横断した最適化の提案が可能になります。一般的にはERPがこの役割を担い、部門間のデータ分断を防ぎます。

条件③:「判断→実行→検証」のサイクルが回ること

月次の締めに何日もかかる、レポート作成に追われて分析する時間がない。こうした状態では、AIを入れても改善サイクルが回りません。
AIは定型レポートの自動生成や、異常値の早期検知が得意です。しかしその効果を活かすには、分析と改善に時間を使える体制が必要です。

条件④:運用が仕組み化されていること

権限設定や承認のワークフロー管理といった統制業務が属人化していると、担当者が変わるたびに混乱が起きます。
AIによる自動化を組み込むには、業務ルールが明文化され、システムに埋め込まれている状態が前提になります。属人的な運用のままでは、AIが学習すべきルール自体が曖昧です。

AIは魔法ではない

これら4つの条件が揃ってはじめて、AIは力を発揮します。
Excelが正になっていたり、部署ごとにコード体系が違っていたり、過去データが残っていなかったりする状態では、AIを導入しても期待した成果は出ません。

中小企業がAI活用で成果を出すための「自社データ整備」と「業務棚卸し」

AIの効果はデータ品質に強く依存します。
スマートシュリンクにおけるAI活用は「AI導入」から入るのではなく、業務棚卸しとデータ整備で前提を固めていくことが重要です。

整備すべきデータの優先順位

すべてのデータを一度に整備するのは現実的ではありませんので、まず業務横断で効果が出やすい領域から着手します。
優先度が高いのは、販売・受注、購買、在庫、会計などのトランザクションデータです。
これらは部門をまたいで参照されるため、整備の効果が出やすい領域です。
次に、顧客・取引先マスタ、商品・サービスマスタといったマスタデータです。
トランザクションデータの精度は、マスタの整備状況に左右されます。
同じ取引先に複数コードが振られている、商品名の表記がバラバラ、といった状態では、いくらデータを集めても正確な分析はできません。
これらが整備されると、受注から入金まで、発注から支払いまでの流れが一気通貫で「正確に」見えるようになります。
AIによる分析や予測も、この土台があってはじめて精度が出ます。

業務棚卸しで見るべきポイント

業務棚卸しはデータ整備と並行して進めていきます。
棚卸しでは、業務量ではなく「詰まり」を見ます。
どこで処理が滞留しているか、どこで手戻りが発生しているか、どこで人が介在しないと進まないかなど「ボトルネック」を洗い出すことで、標準化の優先順位が見えてきます。
業務棚卸しの方法としては、現場へのヒアリングに加え、システムログや処理件数の分析も有効です。
「忙しい」という感覚と、実際のボトルネックは必ずしも一致しません。
データで裏付けを取ることで、改善の優先度を客観的に判断できます。
また、棚卸しの過程で「なぜこの処理が必要なのか誰も説明できない」という業務が見つかることも珍しくありません。
単なる慣習で残っているだけの業務は、このタイミングで廃止を検討します。

棚卸し後に決めるべき3つの論点

棚卸しで現状が見えたら、次の3点を早期に決める必要があります。
ここを曖昧にしたまま進めると、後工程で手戻りが発生します。

標準化する範囲と残すべき独自要件

ERPを導入する場合、どこまでを標準機能に寄せ、どこを独自ロジックで実装するのかの線引きが必須になります。
この線引きを先に決めておかないと、「あれもこれも対応してほしい」と要望が膨らみ、プロジェクトが迷走します。
判断基準は「その独自性が自社の価値や競争力向上につながるか」です。

データ定義

顧客コード、商品コード、勘定科目などの定義も見直しましょう。
ここが曖昧なままシステム導入を進めると、高確率でデータ不整合が頻発し、業務が止まってしまいます。

責任者と運用ルール

データの入力、承認、メンテナンスに関して責任の所在を明確にしておきましょう。
この部分が曖昧になっていると「誰かがやるだろう」の意識の元でデータ品質が低下していきます。
特にマスタデータの更新権限と更新タイミングは、明文化しておく必要があります。

これら3点は、部門間の利害が絡むため社内だけで決めきれないことも多いです。
アドバイザーや仲介者として外部パートナーをアサインし、客観的な視点を入れることで議論が前に進みやすくなります。

データ基盤として注目される「AI×クラウドERP」という選択肢

中小企業の生存戦略としてのスマートシュリンク、スマートシュリンクの実現に向けたAI活用、それを支える業務棚卸しとデータ整備。
これらをまとめてカバーするソリューションがAIを搭載したクラウドERPです。
クラウドERPを土台にすると、AIを活用しやすい領域が広がります。

  • 入力補助:過去データをもとに、入力候補を自動提案する
  • 異常検知:通常と異なるパターンを検出し、アラートを上げる
  • 需要・在庫予測:過去の販売実績から将来の需要を予測し、適正在庫を算出する
  • レポーティング自動化:定型レポートを自動生成し、分析に集中できる時間を作る
  • 問い合わせ対応の効率化:社内の問い合わせに対し、過去事例やマニュアルから回答を提示する

いずれも、判断や確認にかかるコストを削減し、人が本来やるべき仕事に集中できる環境を作る効果があります。

AIの有無だけで選ぶと失敗する

ただし、「AI機能があるから」という理由だけでクラウドERPを選ぶと失敗のリスクが高まります。
AIが成果を出せるかどうかは、前述のとおりデータ定義(マスタ・コード)が整っているか、運用ルールが明確か、定着支援のための設計ができているかに左右されます。
システムの機能より、「導入後にデータがしっかり回る状態」を作れるかどうかが重要です。
結論としては、「まずクラウドERPでデータが回る状態を先に作り、その上でAIを乗せる」という順序が合理的です。
まずはデータ基盤を整え、業務が標準化された状態を作る。その上でAIクラウドERPを活用すれば、スマートシュリンクがスムーズに進みます。

「スマートシュリンク」の土台としてのNetSuite

NetSuiteは、AI機能を内包したAIクラウドERPです。
NetSuiteがスマートシュリンクに効くポイントは、「分断コストを減らす」「例外処理を減らす」「属人運用を減らす」の3つに集約されます。

強み①:分断コストを減らす

業務横断のデータ一元化により、部門ごとに数字がズレる状態を解消できます。「どれが正しいか」の調整コストと意思決定の遅延を抑えやすくなります。
営業が見ている売上と、経理が見ている売上が一致する。在庫数量がリアルタイムで全員に見える。こうした状態を作ることで、確認や突合に費やしていた時間を削減できます。

強み②:例外処理を減らす

NetSuiteは標準機能が充実しており、「標準で寄せて例外処理を減らし、必要な領域だけ拡張する」という方針を取りやすい設計になっています。
カスタマイズ前提で作り込みすぎると、システムが複雑化し、運用負荷が重くなります。NetSuiteは標準化の判断がしやすく、こうした失敗を避けやすい構造です。

強み③:属人運用を減らす

権限設定、承認フロー、締め処理、変更管理といった統制を仕組みに落とし込みやすい設計になっています。担当者依存の運用になりにくく、人が変わっても同じ品質で業務が回ります。

ただし、NetSuiteを入れれば自動的にうまくいくわけではありません。
標準化の線引きやデータ・マスタ・コード体系の定義は、部門間の利害が絡むため自社だけだと議論が止まりやすい領域です。
まずは優先順位を決め、定着(運用ルール・責任・問い合わせ導線)まで含めて設計していきましょう。
この部分を伴走してくれるパートナーの存在が、プロジェクト成功の鍵を握ります。

スマートシュリンクを加速するAIオールイン伴走サービス

スマートシュリンクとは、ムダを削って余力を作り、その余力を成長領域に再配分する経営の考え方です。人手不足が常態化する中、中小企業が競争力を維持するための現実的な戦略といえます。
AI活用はスマートシュリンクを加速させる有効な手段ですが、前提となるのは整備された自社データです。データが分断されたまま、マスタが乱れたままでは、AIを導入しても効果は限定的です。
ベンチャーネットでは、スマートシュリンク経営の実現に向けた無料相談を承っております。

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「何から手をつければいいかわからない」「自社のデータ環境に課題を感じている」という方は、お気軽にご相談ください。業務棚卸しからデータ基盤構築、運用定着まで一気通貫で伴走いたします。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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