今こそ「多能工」の見直しを

働き方改革で「専門性」が見直されていますが、それ以上に重要なのが「多能工」。
マルチスキルワーカーとも呼びますが、1つの専門分野だけをこなす働き方ではなく、色々な作業をこなす働き方です。

引用記事には、石川県経営者協会の「多能工を取り入れたことで、残業時間半減効果があった」という報告内容が載っています。
多能工のメリット、デメリットとは何なのか、あらためて見ていきましょう。

「多能工」はトヨタ方式として注目を浴びた方式。当時のトヨタ自動車は、生産ラインに人を置き、作業内容が決められていましたが、当然手の空く人間と忙しい人間ができてしまう。
手の空いた方が足りていない方へ行ければいいのではないか?と考え、実行したのが始まりと言われています。

理屈上は簡単ですが、実践するのはなかなかハードルが高いのが「多能工」。
というのも「1つの作業だけ」を任せる場合、作業内容がわかりやすい、人によりばらつきが出ないため、今回の働き方改革の目玉の1つ「同一作業同一賃金」が実践しやすい。

しかし、1人で複数の作業を行う場合は、作業が見えづらいという点があります。
最近ワーキングマザーの増加に伴い、男性の家事、育児参加も増えていますが、一方で「男性の家事、育児は不満を持たれやすい」という声も増えています。

子育て中の主婦は、まさに「多能工」。
かなり多くのマルチタスクを抱えながらの作業ですが、男性はそれに慣れていない。
1つのタスクをとっても、いきなり参加した場合、妻側の「求めるレベルに達していない」ということになります。
また相手の動線を邪魔するケースもありますね。
家庭という少人数でもトラブルが起きがち。もっとも、きちんとした決まり事や金銭報酬などの「ものさし」がないからこそ、トラブルが増えるのだとも言える。

多能工のメリット、デメリットも同じように考えることができます。
まず多能工のメリットですが、1人の人間が複数の作業をこなす場合、非常に柔軟性が高くなります。
1人が風邪で休んだ場合に、何も回らなくなるなんてことがなくなる。
また業務によっては、繁忙期とそうでない時期の作業落差が大きい仕事もあります。

単一労働の場合、いちいちバイトなどで調整をしなくてはいけませんが、多能工が多い場合、人を回すなどの方法でやりくりができます。

またこういった意識を持ちながら、作業を進めていくため、チームワークがよくなる。自分の作業だけを考えるのではなく俯瞰して仕事を見ることができます。
1人1人の責任感も強くなりますね。

多能工のデメリットとは

では多能工のデメリットは何か?
人事評価がしにくいという点がまず挙げられます。1人の人間が何の作業をしているのかわかりにくい。
また、作業の質も判定しにくくなります。

「家事をしていない夫が不評を買う理由」は、自分では戦力になっているつもりだが、作業の時間、内容ともに妻のニーズに応えていないから。
つまり、客観的に作業時間や内容を把握するシステムが必要になります。

また、ここでどういった作業内容を軸にするか?
評価基準に達する質は何か?を明確にしておかないと、仕事を給与に反映するときにアンフェアなことにもなりかねません。

まず業務を「見える化」しておくこと。そしてどういうレベルで行うか?などを、
マニュアル化しておくこと。
雇用者、労働者全員でそれを共有化しておくことが大事です。

また、複数の作業を行うとなると、人材育成に時間がかかります。
「イクメン」の夫に「おむつ替え」を教えるのは簡単かもしれませんが、1人前のイクメンと呼べるようにするには、育児全体に責任を負えるようにしなくてはいけない。
目標自体が高くなってしまい、人を育てるコストと時間がかかることになります。
しかし、今「多能工」は欠かせない人材になっている。それは労働現場で進む急速なIT化のためです。

RPA導入に欠かせない「多能工」

引用記事に載っている石川県の成功理由の1つに「RPAの適切な導入」があります。

RPAは、ルーティンワークを人が指示しなくても行ってくれるシステム。
それだけに業務を「見える化」して、必要な作業を任せておくようにしないと、あまり効果が出ないということにもなりがち。

リーダーを置き、社内全体の動線を引く。人でなくても行える作業を、機械に置き換えていくというトップダウン方式が欠かせません。
つまり「多能工」を育てる土壌がない現場では、RPAも有効活用されない可能性が高くなります。

逆にいうと、RPAをフル活用できている職場では、自動的に「多能工」労働者が育ちやすいと言える。
デジタルのデメリットとして「例外処理が不得手」ということがあります。
「臨機応変」が必要な部分は、人間が対応しなくてはいけない。

そういう人材を育てていけるかどうかが、今後のデジタル化社会のカギになるといえそう。ただしRPAはうまく軌道に乗れば有効活用の幅がどんどん広がってきますが、新人育成は1から人間を育てていく作業を繰り返す必要があります。
根気強く人を育てるかどうかが、今後、企業の命運を分けるといってもいいでしょう。