商社の慣習は理にかなっているのか?

働き方改革が進まない理由の1つに、残業があります。
今回の働き方改革の大きな目玉は「過重労働の禁止」。長時間労働に対して、罰則規定を設け、労働者の過重労働を防止するというもの。

具体的には、残業時間は月45時間以内と規定されています。
このため、各企業は仕事の効率化に追われることに。しかし無駄な時間を省いても、仕事内容に変化がない場合、結局仕事量はそのままに。

持ち帰って仕事をしたり、作業を中断して次の日に先送りにすることで、逆に仕事の効率が落ちてしまったりという声も少なくありません。

仕事の質を維持しながら、仕事の時間を短縮する方法に各企業は頭を悩ませているのが現状です。

そんな中「朝型勤務」という独特の方法で、残業をなくしたのが伊藤忠商事。
単純に労働時間を移動しただけのようにも見えますが、その背景を見て行くと、「日本企業の残業時間が減らない理由」も見えてきます。

フレックスから朝型へのシフト

元々伊藤忠商事は、フレックスタイムを導入しており、午前10時から午後3時までを中心に、比較的好きな時間に社員が勤務できるようになっていました。
しかし、フレックスタイム制度がうまく機能していたわけではないのです。

自由な時間に働けるということで、午前10時までに仕事に取り掛かればよいという意識が広がった。つまり、効率よく働いてもらうはずのフレックスタイムが「怠慢」を招いてしまったのです。

伊藤忠商事は商社、多くの会社を取引先にしています。
そういった会社が「午前10時に始業」となると、朝が早い顧客先はロスタイムが出てしまいます。
これでは、会社の利益にはつながらない。

さらに伊藤忠商事のような商社は人づきあいも多くなる。アフター5の飲み会などで人脈を築き、仕事につなげるケースも多い。
どちらかというと、午後にエンジンがかかりやすい会社だったのですが、今のご時世、夜遅くまでの飲み会に本当に効果があるのか。

また現在、育児や介護などさまざまな理由で時短勤務を希望する労働者も多い。
こういった労働者に「飲み会付き」の仕事は無理がある。
その結果、アフター5で行っていた仕事を始業前に回すことが1番ベストではないかというところに行きついたわけです。

毅然として施行する

文章にしてみると、わかりやすい話ですが、長く続いてきた慣習を否定されて、あっさり違う働き方にシフトするのは簡単ではありません。
名門商社で夜遅くまで、他社の人間と酒を共にし、結果を出してきた社員にしてみれば、それを一律にカットされるというのは、仕事のやり方自体を否定されるのと同じこと。

しかし、伊藤忠商事は「朝型勤務が全社員のためになる」と信じて、

  1. 22時から5時までの勤務を完全に禁止する。
  2. 朝の時間勤務には割増賃金を出す。
  3. 8時始業の社員に無料朝食配布

など、具体的な項目をいくつかもうけ、実施しています。

「理念として奨励」するだけでなく、具体的な規則をいくつか作ったのです。
そして、規則と並行して「飲み会は1次会の22時まで」とする110運動も実施。
ありとあらゆる形で「夜型を禁止」していったのです。

その結果、伊藤忠商事の労働形態は朝型になり、まず社員が健康になるという結果が見られるようになりました。
飲み会も深夜までとなると、当然睡眠不足になる。翌日の仕事の質が落ちる可能性も大きくなる。
そういった生活を続けていれば、働き盛りでドロップアウトしてしまう可能性も出てきます。

仕事を22時までとすることで、規則正しい生活ができるようになり、社員の健康が維持できるようになったのです。
そして、朝8時には社員が出勤しているため、朝早くの電話応対も可能になる。
何より、朝型勤務の場合、それ以降の時刻に「本格的な業務」が待ち構えている。
夜の残業の場合、時間制限がないため、だらだらとしがち。
不要な業務にまで着手してしまい、労働者の達成感はあるのだが、仕事の成果にはつながっていないというケースも多く見られます。

朝型の場合、時間制限がある。同僚もいる。結果につなげなくてはという意識も高くなる。その結果仕事の効率がよくなり、業績アップにもつながったというわけ。
会社の問題点を考え、改善方法を考える。そして実行する。その結果が「朝型勤務」だったということ。
「思い付き」ではなく、会社のために必要なこと。今足りていないこと。マイナスになっていることを改善する。

伊藤忠商事の場合、夜型残業が会社にとってマイナスになっていることに気づき、その改善方法を考え実行した、その結果としての「朝型」であり、他社が「朝型方式」だけを真似しても、うまくいくとは限りません。

朝型へのシフトが成功した伊藤忠商事は、現在「がんとの両立支援」や「脱スーツ・デー」といった新しい働き方にもチャレンジしています。
これも社員がどうすれば、会社に対してベストの結果を残せるかを考えた取り組み。

伊藤忠商事の改革から学べることは、働き方改革は「自社の問題点を考え把握すること」が大切。考えなしに他社の真似をすることではないということです。