人生100年時代、働き方に対する意識も、セカンドキャリアを考えておくなど、終身雇用制からの変化を迫られています。
これからの社会、老後が長くなっていくのは確かなようですが、それを踏まえて、キャリアをどのように形成していくのかは、難しいところ。

キャリア形成の方法としては、まず第1ステージと第2ステージをはっきり分け、違う労働をする、次に第1ステージで築いたキャリアを活かして働くという2つの方法が考えられます。

後者の代表的な方法が「定年延長制度」。
本田技研工業がその先駆者となっています。

本田技研工業は、日本を代表する車メーカー。
熱い志を持ったエンジニアの集まる企業としておなじみ。
こういった大手メーカーの場合、社風や技術を目上から継承してもらう必要がある。

そのために、定年延長制度が設けられたのです。
注目すべきは「再雇用」ではなく「定年延長」という仕組みになっていること。
再雇用の場合、1度は会社を辞めなくてはいけません。
形式だけ、退職という形をとる会社もあるようですが、「別枠」という面が否めない。

定年延長をすれば、高齢であっても「ただの目上の社員」ということになります。
よくも悪くも、年齢を問わず社員として同じ人間という扱いになります。
給与についても再雇用の場合、給与が低めに設定され、「リタイア意識」が高くなることも多い。
しかし、定年延長の場合は、そのまま社員でいるわけですから、基本、給与は変わらないということになります。
目下の社員からもモノが言いやすく、高齢層も現役社員として活躍しやすくなるというわけです。

シニアは若手の邪魔をする?

定年延長制度で気がかりなのは、下の世代への影響です。
少子高齢化に伴い、企業の人員削減が進む。そういった状況下でシニア層を長く雇うとなると、いきおい下の世代が少なくなる。
人数や給与でしわ寄せがいくのではないか。
そういった対策のため、本田技研工業では役職定年制度を導入。
管理職は一定年齢以下の人間が務めることになっています。これにより不要に長く役員を務める人間がいなくなる。
逆に新陳代謝がよくなるのです。

また役員報酬を無駄に払う必要がないため、むしろ人件費は抑えられる。
本田技研工業では、定年延長制度以外に、それまでの業務を見直し、無駄を省くなどの工夫をすることで、不要な人件費の高騰を抑え、多様な人材を業績アップのために活かしているのです。

元々、若手が企業の役に立つとすれば、それは主に体力面の問題が大きい。
過重労働などの根性論的な働き方から脱却すれば、労働者として珍重されるのは「壮年男性」でなくても構わない。

むしろ能力の高いシニアや女性、障がい者といった人材の方が、企業業績のアップに貢献できる可能性がはるかに高い。
年齢で、企業貢献度を図るのはナンセンスな時代になったといえます。

理念を持とう

とはいえ、シニアに活躍してもらうためには、ただ定年を延長すればいいというものではない。
現代の高齢者が元気だとはいっても、高齢ならではの健康問題や、家庭の問題を抱えている可能性も大きい。

また働く女性を筆頭に、家族やプライベートに問題がなく、仕事人間になれる人材が少ない現代社会、1つの改革だけを行うのではなく、多様な人材に対応できる改革を行っていかなくてはなりません。
そのため本田技研工業では、女性の活躍促進からストレスチェックの活用、在宅勤務の促進や、夜間労働時間帯の働き方改革まで、多様な改革が行われています。

また職場のIT化など、労働環境自体も、近年大きく変化しつつある現在。
特に自動車メーカーの場合、電気自動車や自動運転カーなど、従来の自動車と一線を画す商品開発が行われている分野。
今まで通りの働き方では、当然対応できない。
従来の車づくりの製造販売を知る人間を活かしながら、新しい技術や商品開発をしていかなくてはいけません。
旧時代のように、単一の労働者が同じように働くのではなく、個人個人の働き方や特性が、大きな意味を持つようになっているのが、現在の企業。
特に大企業のメーカーにおいては、必須事項ともいえます。

本田技研工業の場合、元々「積極性」を重んじる企業風土があります。
受け身の人間は必要ない。その代わり、何かに疑問を持つ人材は、とことん鍛えられるといった具合。
古くから「個人を育てる」環境づくりが、すでに社風として出来上がっている。

こういった企業の場合、すでに「人を活かしてモノを作る」という理念がある。
定年制度や労働時間といった「ルール」はそのための「手段」に過ぎません。
本田技研工業の理念を商品に活かすために、時代に合わせて、ルール変更を行っているのです。

「本田技研工業のために働く」意識が根幹にあるため、比較的こういった制度変更をしやすい企業なのですね。
逆に「企業のため」という理念を持たず、改革だけを行っても、求心力を失い、企業として体を成さない可能性は大きい。

何かを変える時に、必要なのは、まず理念を持つこと。
そして集団に所属する人間が、理念を共有すること。この2点です。
何のために働き方改革を行うのか。それはそこで働く労働者のためであり、企業を愛するユーザーのためなのです。