人材不足は強みにもなる

人手不足が叫ばれる昨今の労働市場、介護など一部の業種では人材の「質の劣化」が問題視されるケースもあります。
しかしその反面、人材を選ぶ幅があっても、マンパワーを活かせていない会社もある。

人材の選択肢が少ないことは、必ずしも弱みとは限りません。
地方の場合、首都圏ほどに人材がいるわけではない。社員の応募数や幅も限られてきます。
それを逆手に取って伸ばしている会社があります。明太子販売で知られる、福岡の小売業ふくやです。

ふくやは福岡県では有名な会社ですが、全国的に見ればローカル企業。
会社が急成長を遂げるバブル期には、地元の大学に進学した優秀な男性は、東京などに就職しがちでした。
そのため、女性が会社を支えていくという企業になっていったのです。

しかし、それで業績が悪化するという問題もない。その代わりに結婚、退職という壁があったのです。
人材としては問題がない、むしろ戦力なのに一定期間就業ののち「一身上の都合」で会社を辞められてしまう。

これでは企業としては、大きな損失になってしまいます。
そのため、女性が結婚、出産で仕事を辞めなくてもよい仕組みを作らなくてはいけなかったのです。

とはいえ、育休制度導入当初は、取得する社員も少なかったようですが、社長の後押しもあり、徐々に根付くように。
今では男性社員の育休取得も進んでいます。

男性社員の育休取得が進む背景には、やはり女性の価値観が関係しています。
働く女性が育児を行う場合、育児と仕事の比率がまったく同じ程度になるケースも少なくありません。

すると「仕事か育児かどっちを取る」ということにもなりかねない。
両方が中途半端になるくらいなら、仕事はやめてしまってもよい。完璧主義な女性ほどそう考えがちになります。
そして、企業としては優秀な人材を失うことにもなる。

それよりは、配偶者である男性にも育休を取ってもらう。
そうすることで、育児、仕事は両立するものという風潮ができていきます。
「育児など家庭の都合で職場に迷惑をかけるため」という理由での、退職はなくなっていくのです。

同じ理由で、現在ふくやではPTA活動など、学校行事参加手当も導入されています。
また育休明けには勤務形態を自分で選べる制度や、休業中のフォロー制度も導入。

育児など家庭の事情を抱えながら、仕事をするのは当たり前という企業風土ができつつあるのです。
地域に密着する小売業の場合、企業の名前が地元によく知られていることが多い。
当然そこで育った子供は、そこで働きたいと思うこともあるでしょう。
しかし、そういった企業の福利厚生が整っていなかったとする。
元々、地方の場合、優秀な人材はより大きな舞台を求めて、大都市に出て行きがち。その上残った人材も「待遇のよい会社の方がよい」となる。
これでは、どんどんと人材不足が進むことに。

また地元に残る優秀な人材が女性であるケースも多い地方都市。
「結婚出産できない企業」となれば、最初から敬遠されやすい。
また食品小売業から見て、女性は最大の顧客でもある。
そういったユーザーにネガティブな印象を与えることにもなります。

ゆえに地方企業の場合、女性が働きやすい土壌づくりはもはや欠かせない要素になっているのですね。
そのためローカル企業は、ふくやのように、女性が働きやすい風潮がすでにできているケースが多いのです。

家庭の都合という問題

しかし、女性を早くから登用している企業であっても、問題はあります。
小売業の場合、「土日祝日に休みたい」という希望と、「土日祝日に人手がいる」という矛盾した状況ができてしまいます。

サービスする側になりたいが、提供する側も存在するということ。
現在コンビニの24時間労働が問題視されていますが、まさにこの需要と供給の問題といえます。
ふくやでは、土日に休業する店などを作り、そこで女性社員に働いてもらう方法などを模索しています。

サービス業の場合、動線を整備して、お客さんにある程度の我慢をしてもらわない限り、労働者がブラックな環境を引き受けざるを得ない環境ができてしまいます。

しかし時と場合によっては、サービスを顧客がそこまで必要としていないケースも多い。全ての店舗を無理して開けておくよりも、店により営業時刻を変えておく方が需要と供給のバランスが取れる。

今後のサービス業は、こういった対応を模索していくことになります。

支え合いという理念

ふくやでは、女性が働ける環境整備をすると同時に、こういった環境は当たり前ではないという考え方も根付いています。
企業に限らず、誰かの努力があり、集団は維持されているもの。
そういったことを絶えず意識しておくということです。

小売業の場合、製造元や顧客、同僚といった色々な立ち位置の人と関わることになります。
全ての人が何らかの事情を抱えて生活している。そういったことに思いをはせることが大切ということ。
「社会は支え合いで成り立つ」という考え方は、どういう規模の企業で会っても同じこと。そして大企業ほどその当事者意識を忘れがちです。
地方は、大都市より早く社会の問題に直面しやすい。その分ローカル企業から学べることも多いのです。