これからの労働現場で欠かせないのが「ダイバーシティ(多様性)」という視点。
2019年のラグビーWカップに出場した日本代表チームは、驚きの実力を見せつけ話題になりましたが、大躍進を遂げた理由の1つが多様な民族で構成されているチームであるということ。
他民族で成り立つチームが目指す「ONE TEAM」というキャッチフレーズは、流行語にもなりました。

それと同時にこういった多様性を活かすのに、四苦八苦している企業や地域社会が多いのも、また事実。多様性化する社会に欠かせないと思われる英語教育もさまざまな混乱を招いています。

多様化している現代社会とはいえ、同質集団を変えるのは容易なことではない。
そんな中まず「女性」という性別に目を付け、社内改革を図ったのがアステラス製薬です。

多様化に向け、いきなりいろいろな要素を取り込むのではなく、まず「性別の違い」に着手して、大きな変革を遂げているのです。

身近にある「多様化」のヒント

アステラス製薬が、女性の活躍推進プロジェクト「WINDプロジェクト」を立ち上げたのが2007年。男女雇用機会均等法改正と同じ年に、このプロジェクトが発足。
すでに12年前からアステラス製薬では、女性の就業支援や育児休業といったテーマについて具体的なプロジェクトがスタートしていたのです。

製薬会社は欧米資本会社も多く、グローバルな環境にさらされやすい。
また医薬品を使うのは、老若男女さまざまな人でもある。

そもそも医療というジャンルは「スピード」が重視される。
早くから適切な治療を行えばよりベターな結果が出る。さらに予防に努めれば病気の発症確率を抑えることもできる。
そういった研究開発を早めに行う必要があります。

絶えず外の世界の動きを見ながら、対応していくという状況に置かれやすいのが製薬会社。
そういった環境に置かれているアステラス製薬が始めたのが「労働時間短縮」と「フレックスタイム制度」の導入。現在では「裁量性労働時間制度」なども加わり制度が定着しています。

女性が、育児、介護などを行いやすいよう、長時間労働をなくしていくことから始まり、やがてフレックスタイム制度や、裁量制労働時間制度などの形になったようです。

まず、女性にどう安心して働いてもらうか。現在でも大きな課題になっていますが、アステラス製薬では、「まず結婚、妊娠、出産を安心してできる環境つくり」に取り組みます。
その結果がフレックスや裁量労働制といった「労働時間の自由」につながっているのです。

女性の場合、結婚すると「出産したい」と考える人も多い。
当然肉体的にハンデを負うことになります。また現在でも家事、育児負担は女性に比重がかかりがち。
仕事とプライベートを両立しようと思うと、延べ時間自体が多く必要になります。
そのための休暇取得や、育児、介護で起きがちな予測できないトラブルに対応するための休暇取得などの対策が、比較的早い時期から考えられていたのですね。

「多様化」はすべての社員のため

もちろん、こういった対応が必要ない女性社員もいる。
その反面、男性でも育児や介護に時間を取られることもあります。
「性別による働き方」を見直したことで、多様性の軸が1つ増えるため、「当たり前」の軸が多くなり、男性社員の働き方も自由になる。

そしてそれが定着してくると、「プライベートで事情を抱えた人には休んでもらう」という社風が出きてきます。

現在アステラス製薬では、障がい者のための「グリーンサプライ支援室」や健康診断、メンタルヘルスケアなど、さまざまなサポートが充実していますが、これも「社員にとって必要」なためにできた制度。

障がい者雇用などの制度で懸念されるのは「形だけを整えること」。
こういったケースでは「健常者と比較して」という考え方になることが多い。
また周囲の意識もそういった思考から抜け切れず、会社のためにも、雇用された障がい者のためにもならないというケースも多々あります。

逆に制度が不足していても、多様化という価値観が根付いている企業では、自然に障がい者への配慮という考え方が社員の間から出るようになります。

現在のアステラス製薬では、一歩先に進み、女性が働きやすいだけでなく、女性ならではの力を会社に還元してもらうという価値観が浸透。
また社外でのボランティア制度を設けるなど、多様な価値観を会社に還元する方法がどんどん取り入れられています。
まさに、ラグビー日本代表チームのような、多様な人材を活かし、世界にチャレンジしていく社風ができているのです。

しかし、日本の製薬会社は世界でも低い業績に甘んじている現状。
今後、加速していく高齢化社会に向け、さらなるスピード感が求められます。
アステラス製薬は、働きやすさに加え、今後さらなる業績アップを目指す必要がある。
もちろん、どういった職種においても同じです。

だからと言ってグローバルや多様化といった言葉に踊らされ、形だけを作るというのでは逆効果。
アステラス製薬の第1歩が「女性の働きやすさ」であったように、まず1つの課題をクリアしていく方法を設定し、実行する。
そして次の課題をクリアしていくといった地に足のついた改革方法を、しっかり進めていくことが、今の日本企業にとって大切なことであるといえます。