長時間労働の是正を主な骨子とする働き方改革。
過重労働が減るのはよいが、元々そこまでヘビーな労働環境でもない。
むしろ残業代が減る方が困るなどの理由で、あまり大きな改革を遂げられない企業もあることでしょう。

しかし、有無を言わさずトップダウンで「16時半退社」を実行している企業があります。それが調味料メーカーとしておなじみの味の素株式会社。
味の素の労働時間は7時間15分。ゆくゆくはジャスト7時間が目標なのだそう。

またそれに伴い、基本給もアップ。残業代カット分を基本給に上乗せしています。
これなら社員も満足。
労働者から見て、実にうらやましい環境が整えられている味の素。
企業改革の目的は、まさにこの「うらやましさ」にあるようです。

皆が働きたい企業へ

味の素株式会社の現社長 西井孝明氏にはブラジル勤務の経験があります。
このブラジル勤務での経験が、日本本社での改革に活かされているよう。

まず味の素ブラジル本社の、女性社員の割合は実に7割。
海外企業では、優秀な人材の確保競争はかなり熾烈。そういった競争を勝ち抜いて、入社しているのが女性社員ということ。

そして社員の労働時間は短く、総労働時間もしっかり管理されているという状態。
優秀な人材を確保して、所定勤務時間に労働を終わらせるのが海外の方式。

これに対して、日本はどうか。女性社員の割合は低い。そして総労働時間は長い。
人材の確保は旧態依然としており、労働時間にメリハリがない。
少なくとも海外から見て「うらやましい」労働形態ではない。

これでは、確実に海外企業との競争力は身に付かない。
その空気を西井孝明氏が体感してきたがゆえの、トップダウン改革であったということです。

そもそも味の素は、かなりのグローバル企業。日本国内の社員数より海外勤務社員数の方が多い企業。
日本方式で人を採用して、労働するとなると、当然優秀な人材は味の素を避けてしまうという問題にすでに直面していたのです。

女性はもとより、いろいろな国籍、年齢の労働者が集まり、仕事で結果を出す。
不要な労働はせず、仕事が終われば家に帰り、自分や家族の時間を大事にする。
そういった価値観にシフトしなければ、人材確保自体ができなくなる。

そういった危機感から、まず「労働時間短縮」という目標が立てられたのです。

労働時間の短縮に必要なもの

しかしトップダウンで「労働時間短縮」を掲げうまくいくものなのか。
労働時間を変えるためには、まず社外との関係調整、そして労働組合との話し合いなどがありますが、意外なことにその結果、早めに目標達成ができそうという目途が立ち、味の素の「労働時間改革」は、想像以上のスピードで進みました。

その理由は、既存の労働時間勤務では、労働者のメリットが少ないということ。
ITなどを整備し、不要な会議をカット。
また在宅ワークなども進め、労働時間を削れるだけ削っていく方が、労働者にとってもメリットが大きかったということです。

給与が下がらないのであれば、労働者にしてみれば、労働時間が少ない方が良いのは自明の理。
とはいっても、いわゆる「仕事人間」が物足りなくはないのか。

減っていく女性の時短勤務

実は味の素で働く女性社員は、時短勤務を避ける傾向にあるようです。
なぜかといえば、時短勤務を希望する女性は、育児、介護など仕事以外にしなければいけない事柄があり、時短勤務を「せざるを得ない」状況に置かれている。

つまり、したくてしているわけではないのです。
フレックスタイムや在宅ワークなど、柔軟性の高い働き方が可能である場合、そういった環境を駆使してフルタイム労働を行い、会社に貢献したいと考えるのは女性も同じ。

味の素は「多様な人材を確保」するために、労働時間削減に取り組んだ企業です。
時間を短くして成果を出すにはどうすればいいか。
それを考え、実行していくと、おのずと働き方の自由度が上がっていく。

自由度が高くなる分、労働者自身の工夫やチームとしての工夫がたくさん出てくるようになる。
どんな働き方でも可能、そして企業に貢献するチャンスはいくらでもある。
そうなれば、プライベートな生活を大事にしながら、仕事でも全力を出すという生き方が可能になってくるのです。

労働時間の短縮やフレックスタイムなどが、うまくいかない原因として、
「他人への配慮」や「自分だけ違う」といったことがあります。
そういった場合、始めから時短勤務にしておけば双方が楽。

しかし、事情があって早退する社員がいるのが当たり前の環境である場合、社内の「空気」を気にすることなく、自分にとって最適な働き方を考え、実行することができます。
そうすれば、おのずとさまざまな人材が集まってくることになる。

もちろん、こういった多様な働き方を整えることは、グローバルな大企業だからできることであり、必要なことでもある。
とはいえ「今までの方法では通用しない」と感じた時に、それを変えることを考え、実行に移すこと。それはどういった企業であれ今後は欠かせない要素になっていくでしょう。