分業制が過重労働を生む

ユーチューブなどで誰でも動画を発信できるようになった現代。
プロの作るドラマやアニメもネット配信など、色々な形で目にすることができるようになっています。
映画なども、ネット配信を主流にしたものが話題になっていますね。
また3D映画なども登場、いろいろな形で映像を楽しむ文化が浸透しつつあります。

とても夢のある世界に思える、映像文化の世界。
しかし覗いてみると「ブラック」な世界が広がっているようなのです。

4月から始まった働き方改革では、1か月あたりの残業時間は45時間と定められています。
しかし現実にはこのようになっていない企業も多く、100時間近い残業時間になってしまう業種もある。
このレベルになると「ブラック企業」と呼ばれますが、引用記事に登場するアニメ制作会社の場合、月200時間越えが当たり前。
当然体調を崩す社員も出てきますが、それでも働かなくてはなりません。

労働時間自体にも問題がありますが、残業分の支払いも行われていない。
またこういった労働現場になると、当然現場はすさみ、パワハラな言葉が飛び交うことになる。
多忙な現場では、倒れた社員を上司が気遣うことはなく「使えないやつ」とののしられるのがオチ。

こういった現場の状況が、制作会社では当たり前と思われてきたよう。
そういった風潮を変えるべく、現役社員が会社側に団体交渉を求めることにしたようです。

タイムカードのない世界

アニメ制作の世界は、冒頭に書いたように一見すると夢のある世界。
「子供のころ見たアニメのような映像を作りたい。」などの志望動機で、社員が入社してきます。
そして多少の忙しさも「好きなことをやっているのだから」となってしまう。
ゆえにタイムカードは存在するが、正確に使っている人間がいないという職場になってしまうのです。
そして、同業種であれば、どこの会社でも似たような状態であれば、「そんなもの」という風潮ができてしまう。
働き方改革ができても、「どうせ時間管理自体されていないし、絵に描いた餅」
と思われて終わり。むしろ、こういった状況を変えようとすると、仕事ができなくなる可能性もある。
こうして、職場のブラック化が定着、どんどんエスカレートしてしまうのです。

しかし、ツイッターなどで何でも表沙汰になってしまうご時世、こんな状態で仕事をしていることは、すぐに広く世間に知られることになります。
そしてアニメは夢のある世界ではなく、リアルな人殺しが行われる世界と認識される可能性も出てくる。
そうすると、アニメ制作を希望する人間はどんどん減ってしまう。
アニメの世界自体が消滅してしまうのです。

現役社員がこういった状況を表沙汰にして、団体交渉をしようと思った背景には「楽しいアニメは、生き生きした社員が作ってこそ」という思いがあるからこそ。
楽しいものを提供するのだから、作り手は地獄を見て当たり前という風潮を今、変えなくてはいけないと思ったからなのです。

制作会社だけで作られるわけではないアニメ

では、アニメ制作会社は、なぜこのようなブラック職場になってしまうのか。
その原因は「アニメの制作過程」を見ればわかります。

アニメというのは、大量の絵を描き、それを手直しというプロセスを経て、完成形になる。しかしこの過程全部を制作会社が行っているわけではない。
制作会社が行うのは、工程の指揮で、実際の原画描きなどは外注されているのです。

そして、その外注先は1つではない。アニメというのは、シンプルな画像と、やたらに手の込んだ画像など、いろいろなシーンが登場しますね。
しかし、どういうシーンでも原画制作の単価は同じ。それなら誰でも簡単な画像を担当したいと思いますよね。
すると複雑な部分の描き手がいなくなる。こういった作業の調整を行うのが、今回会社と交渉しようとしている社員。
また原画というのは1度描けばそれでOKではない。
複数の原画製作者を相手にしながら、会社との間に板挟みになることになる。

また原画制作依頼がうまくいったからといって、同じペース、同じ技量で絵ができてくるとも限らない。
引用記事では、こういった立場の人たちについては細かく触れられていませんが、フリーであるケースが多い。
タイムカードを無視以前にタイムカードもなく、労働時間の規制もない状態で、安く原画を描く羽目になるのです。
社員以上にブラックな状態に置かれている可能性も高い。

またアニメは制作工程自体が長く、いつどういう時間がかかるのかも読めない。制作者が体調を崩したり他の仕事を入れたりと、原画制作自体が、同時にスムーズに流れる状態ではない。
こうして制作会社の負担も増していくという悪循環を呼ぶのです。

この構造を放っておくと、全員が無駄に忙しくなり、現場も殺伐としてくる。
そしてそれが当たり前になってしまう。これが今のアニメ業界の現状なのです。
こういった構造を、働く側から変えなくてはいけない。
それが今回の団体交渉の主旨です。現場にいる人間が1度は「何かおかしい」を外に対して疑問を投げかけてみる。
ブラックと呼ばれがちな業界の体質を改善するには、まず外部に1度問題提起してみることが大事なのです。