“多様な働き方”は、“働き方改革”の軸と言うべきものです。一人ひとりが、自分にあった働き方を選択できる。それによって、今まで労働市場の隅に追いやられていた多くの人が活躍できる。それは非常に理想的な状態に思えます。一方で、「急に『働き方を選んでいい』と言われても、どうしたらいいのかわからない・・・」という方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな“選択”の問題について考えてみたいと思います。

副業、テレワーク、フリーランス・・・突然増えた働き方の選択肢

一生懸命勉強をして、いい大学に入って、大企業に就職する。会社では、決められた勤務時間に、決められた場所で働き、残業や転勤といった職務命令にも従う。そして年齢と共に少しずつ昇給して、競争を勝ち抜いて管理職になり、定年まで勤めあげる。

このような画一的な働き方が理想であり、それができない者は“負け組”である、というような考え方が、ごく当たり前のものとして受け入れられていた時代がありました。

しかし、以前の記事でご紹介したように、少子高齢化によって労働力人口が減りつつある現在、そのような考え方は通用しなくなってきました。多様な人材が活躍できる環境を整えるべく、多様な働き方を選択できる社会の実現が求められています。そこで、政府の働き方改革の取り組みにおいても、副業解禁やテレワークの推進、フリーランスの活用など、働き方に関するさまざまな選択肢を、より選びやすくなるようにと議論が進められています。

選択肢が増えると人は不幸になる?

働き方に関して、こうした多様な選択肢が選びやすくなることは、一見素晴らしいことのように思えます。自分で働き方を選べるということは、自由に働けるということです。そして一般的には、“自由”というのは幸せなことだと認識されることが多いのではないでしょうか。

しかし、自由であること、選択肢がたくさんあることは、本当に幸せなことなのでしょうか。実は、選択肢が増えることでかえって人間は不幸になるのではないか、という考え方があります。これを“選択のパラドックス”と呼びます。

この“選択のパラドックス”を提唱した心理学者のバリー・シュワルツによると、選択肢が増えることにより、2つの問題が生じるとされています。

  • どれを選択するか、決断するのが難しくなる
  • “選択しなかった”多くの選択肢が魅力的に感じられてしまい、選択の結果に対する満足度が低下する

選択のパラドックス

1つ目の問題はわかりやすいと思います。何か欲しい商品があるときに、お店に行って、棚に並んでいるのが2種類だけだったら、どちらか1つを選ぶのは簡単です。しかし、100種類もの商品があったらどうなるでしょうか。最初は非常に魅力的に感じ、あれこれと見比べてみるかもしれません。しかし、いざその中から1つを選ばなければならないとなれば、途方に暮れてしまいます。

そして、この1つ目の問題をクリアしたとしても、さらに2つ目の問題が生じる可能性があります。選択肢が増えた場合、選択できる数が変わらないとしたら、増えていくのは“選択しない”選択肢です。その結果、「やっぱりあちらを選べばよかった」「あれを選んだらもっとよくなっていたかも」などという考えに捕らわれ、満足度が低下してしまうのです。

必要なのは、“肯定的なあきらめ”

では、多様な働き方を選べる時代が到来しつつある今、我々には何が必要なのでしょうか。その答えの1つが、ベストセラーとなった『嫌われる勇気』(岸見 一郎・古賀 史健、ダイヤモンド社、2013)の中で“肯定的なあきらめ”と表現されているものです。

たくさんの選択肢の中から1つを選び取るのは大変なことです。しかし、働き方を選ばないわけにはいきませんから、そこは自分の状況をしっかりと見極めて、決断するしか仕方がありません。重要なのは、働き方を選んだあとの、2つ目の問題です。せっかく自分で働き方を選んだのに、選ばなかった選択肢のことばかり思い描いて、「やっぱりああすればよかった」「いやこっちのほうがよかったかもしれない」などと思い悩んでしまっては、幸せに働くことはできません。

上述の『嫌われる勇気』の中では、“自己肯定”と“自己受容”について論じる中で、「100点満点の人間などひとりもいない」と書かれています。そして、「60点の自分に「今回はたまたま運が悪かっただけで、ほんとうの自分は100点なんだ」と言い聞かせるのが自己肯定」であり、「60点の自分をそのまま60点として受け入れたうえで「100点に近づくにはどうしたらいいか」を考えるのが自己受容」であると述べられています。この“自己受容”のことを、同著では、“肯定的なあきらめ”と表現しているのです。

この“肯定的なあきらめ”こそ、“選択のパラドックス”を超えるために必要なのではないでしょうか。100点満点の人間がいないということは、100点満点の選択をできる人間もいないということです。それならば、たとえ自分の選択が60点だったとしても、60点の選択をした自分のことを受け入れ、そこからどうすれば100点に近づいていけるのかを考えればよいのです。

 
いかがでしたでしょうか。

“多様な働き方”という一見素晴らしいものの中にも、少なからずデメリットはあります。その1つが今回ご説明した“選択のパラドックス”です。しかし、これは働き方を選択する我々の考え方次第で超えられるものでもあります。
もちろん、いきなり考え方を変えるというのは難しいものです。ですから、来るべき“多様な働き方”を選べる時代に備えて、そのデメリットにも目を向けて、今この瞬間から準備を始める必要があるのです。