政府の働き方改革で取り上げられ、メディアでもたびたび目にする長時間労働の問題。「仕事が楽しくて仕方がない」という方もいらっしゃると思いますが、多くの方は、様々な理由によって“仕方なく”その状況を受け入れているのではないでしょうか。しかし、そんな“仕方なく”行っているはずの長時間労働は、実はあなたが“自発的”に行っているのかもしれないのです。

 

残業の原因、トップは「仕事を分担できるメンバーが少ないこと」

昨今大きな注目を集めている長時間労働の問題ですが、「自分も長時間労働で悩んでいる」という方も多いのではないでしょうか。冒頭で触れたように、多くの方は何らかの理由によって“仕方なく”長時間労働を行っていると思います。では、その“仕方ない”理由とは一体何なのでしょうか。

以下のグラフは、日本労働組合総連合会(連合)が2015年に公表した『労働時間に関する調査』より、「どのようなことが残業の原因になっていると思うか」という質問に対する回答をまとめたものです。

どのようなことが残業の原因となっていると思うか(連合調べ)

最も多かったのは「仕事を分担できるメンバーが少ないこと」で 53.5%、次いで「残業をしなければ業務が処理しきれないほど、業務量が多いこと」が52.6%、「職場のワーク・ライフ・バランスに対する意識が低いこと」が23.7%、「職場に長時間労働が評価される風潮があること」が10.4%と、”自分以外”を原因とする消極的・受動的な選択肢が上位に並びました

一方で、「残業代を稼ぎたいと思っていること」「時間を掛けてよりよい仕事・自分が満足できる仕事にしたいこと」「自分自身が残業を前提に仕事の計画を立てていること」「仕事に集中していない時間が多いこと」といった“自分自身”を原因とする選択肢を選んだのは、それぞれ1割未満という結果になりました。

この調査結果からも、やはり多くの人は外的な要因によって“仕方なく”長時間労働を行っていると認識していることがわかります。

しかし、果たしてそれは本当なのでしょうか。

実は、『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社、2013)で一躍有名になったアドラー心理学、そして16世紀にフランスで書かれた『自発的隷従論』(エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ著、山上浩嗣訳、ちくま学芸文庫、2013)という2つの視点からこの長時間労働の問題を見ると、少し違った景色が見えてくるのです。

 

アドラー心理学から考える、長時間労働によって“得られる”もの

まずは、アドラー心理学の視点から長時間労働について考えてみましょう。

アドラー心理学では、今その人が置かれている状況を分析するための方法として、「どのような原因によってその状況が生じたのか」という原因論ではなく、「そのような状況に身を置くことによって、その人は何を得られるのか」「その状況によって、どんな目的が達成されるのか」という目的論を用います。

長時間労働の問題でいえば、「なぜ長時間労働に陥っているのか」という原因を考えるのではなく、「長時間労働をすることによって、自分は何を得ているのか」「どんな目的のために、長時間労働をしているのか」と考えることで、長時間労働から脱する糸口を探るのです。

例えば、

  • 長時間労働だから、家事や育児に時間を割けない
  • 長時間労働だから、スキルアップのための勉強ができない

など、自分がやりたくないことをやらないための言い訳として長時間労働を利用しているという可能性はないでしょうか。この場合、こうした言い訳を得るために、無意識的であれ、長時間労働という状況を自ら求め、“自発的に”生み出しているとアドラー心理学では考えるのです。

 

“自分の課題”と“他者の課題”を分離する

もう1つ考えたいのが、“自分の課題”と“他者の課題”の分離です。

アドラー心理学では、「あることの最終的な結末が誰に降りかかるのか」「あることの最終的な責任を誰が引き受けなければならないのか」という観点から、「そのあることは誰の課題なのか」を考えます。そして

  • 自分の課題である場合:解決できるのは自分だけであり、きちんと自分でそれを引き受けなければならない
  • 他者の課題である場合:解決できるのは課題を抱える他者であり、勝手に手を出してはいけない

と考えるのです。

これを長時間労働の問題に当てはめてみるとどうなるでしょうか。

残業の原因としてトップに上がった「仕事を分担できるメンバーが少ない」という問題は、会社側の課題です。人員が不足して、仕事が終わらなかったり、それによって売上が減少したりしたとしたら、その責任を最終的に負うのは会社の経営者なのです。だとしたら、この課題をあなたが代わりに引き受けて、やりたくもない残業をしてあげる必要はないはずです。つまり、「人手不足だから仕方がない」などと言って、本来引き受けなくてもよい他者の課題まで“自発的”に引き受けてしまっていると言えるのではないでしょうか。

その結果、自らの課題を従業員に肩代わりしてもらった会社側は、本来会社が引き受けるべきその課題を放棄してしまうようになり、いつまでたっても解決されないままになってしまうのです。

一方で、長時間労働によって家族とのコミュニケーションが減ってしまったり、体調を崩してしまったりといった問題が生じているとしたら、その責任を最終的に負うのはあなた自身です。つまりあなた自身の課題なのであって、それを「会社の都合だから仕方がない」などと言っていてもどうにもなりません

もちろん、すべての問題が明確に誰のものか切り分けられるわけではないかもしれません。人員不足の問題でいえば、「一時的に人員が不足して、会社としても解決に向けて努力はしているけれど、すぐには人員を確保できない」という場合など、従業員が協力して乗り切らねばならないときもあるでしょう。しかし、これはあくまでも”協力”して課題に取り組むということであり、課題を”丸投げ”することとは違います

これは長時間労働だけでなく、あらゆる問題を解決するために役立つ考え方ではないでしょうか。自分が引き受けるべき課題は何なのか、他者が引き受けるべき課題に手を出してしまったり、”丸投げ”されたりしていないか、改めて見つめ直す必要があるのです。

 

いかがでしたでしょうか。

今回は、長時間労働の問題をアドラー心理学の視点から考えてみました。今回ご紹介した“目的論”と“課題の分離”という考え方は、長時間労働以外にも、様々な問題を解決する糸口となるはずです。

とはいえ、「そんなことを言われても、自分は本当に“仕方なく”長時間労働をしているんだ!」という方もいらっしゃるかもしれません。そこで後編では、もう1つの視点として、ラ・ボエシの『自発的隷従論』の視点から長時間労働について考えていきたいと思います。