「ダイバーシティ(多様性)を尊重すべきだ」という社会の流れを受けて、取り組みを進める企業も多いのではないでしょうか。しかし、単に「社会の流れだから」と目的を明確化せずにダイバーシティを推進しても、掛け声倒れに終わるか、あるいは社内に混乱をきたす可能性すらあります。とはいえ、ダイバーシティを推進しなくてもいいというわけではありません。きちんとした目的意識を持って取り組めば、ダイバーシティは、来るべきデジタル時代を生き抜くための鍵となり得るのです。

 

ダイバーシティ推進は、目的ではなく手段である

最近では“ダイバーシティ”という言葉もかなり一般的に使われるようになりました。女性の管理職比率の目標値を定めたり、外国人材を積極的に登用したり、企業でも様々な取り組みが行われています。

しかし、中には、何のためにダイバーシティを推進するのか、その目的が必ずしも明確になっていない企業も多いのではないでしょうか。「社会の流れだから」「政府が推進しているから」といった受動的な理由で、いわばダイバーシティ推進自体が自己目的化してしまっている企業が多いようにも見受けられます。

そのような状況において、ダイバーシティ推進を、企業の競争力強化を目的とした経営戦略の一部として実行しようとする流れもあります。経済産業省では、「ダイバーシティ経営」を以下のように定義しています。

多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営のこと

経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」より

そして、このような「ダイバーシティ経営」に積極的に取り組んでいる企業を選定・表彰する「ダイバーシティ経営企業100選」という事業を行っており、様々な企業が表彰を受けています。

ダイバーシティ推進の取り組みは、それ自体を目的とするのではなく、あくまでも企業の競争力を高めるための手段として捉えることによって、その真価を発揮するものなのです。

 

イノベーションを起こして、変化の早い時代を生き抜く

では、企業が競争力を強化し、来るべきデジタル時代を生き抜くためには何が必要なのでしょうか。
様々な答えが考えられるかもしれませんが、今回は、

  • イノベーション
  • カスタマーエクスピリエンス

という2つのポイントについて考えたいと思います。

1つ目のポイントは、イノベーションです。ビジネスを行う上でイノベーションが重要であるのは言うまでもありませんが、デジタル時代においては、その重要性がさらに増していきます。

デジタル時代の特徴は、なんといってもそのスピード感にあります。次々に新しいテクノロジーが生まれる時代において、1つの商品やサービスがヒットしたとしても、すぐにそれを代替する、あるいはそれを超える商品やサービスが誕生する可能性があります。そうした新しい商品やサービスに対抗するためには、企業は常にイノベーションを起こすべく努力する必要があるのです。

また、テクノロジーの進歩により、大企業以外でもイノベーションを起こしやすくなったことも注目すべき点です。これまでは、資金や人材が豊富な大企業が、研究・開発やマーケティングといったイノベーションの源泉となる分野において有利に立っていました。しかし、デジタルテクノロジーの力によって、そうした状況は変化しつつあります。例えば、マーケティングの分野では、デジタルテクノロジーを駆使することで、顧客の行動や特性といった情報を収集するのが容易になります。イノベーションの源泉となる様々な情報を、中小企業の少ない人員でも集めることが可能となりつつあるのです。

こうした時代においては、ライバルの数は無限大です。これまでは限られた競合企業の動向を分析し、そこに負けないようにすればよかったかもしれません。しかし、これからのデジタル時代には、予期せぬところから突然ライバルとなる商品やサービスが生まれる可能性があるのです。そうした予期せぬライバルに対抗するためには、自らがイノベーターとして新たなアイディアを生み出し、形にしていくしかないでしょう。

 

イノベーションのために、ダイバーシティ推進を

では、イノベーションを起こすために、企業は何をすればいいのでしょうか。その答えの1つが、ダイバーシティなのです。

たった1人の天才による、まさに天才的なひらめきによって、イノベーションが起きる場合もあるでしょう。しかし、自社にそんな天才がいる可能性は限りなくゼロに近いといえます。
そんな天才がいない場合に、どうすればイノベーションを起こせるのでしょうか。それは、多様なバックグラウンドや価値観をもった人々を集め、互いに様々なアイディアを出し合うことです。集合知や集団的知性、あるいはオープンイノベーションなど、多様な人々が集まることで、新しいアイディアが生まれたり、イノベーションを起こせたりする、という考え方が最近注目を浴びています。こうした考え方を実現するために、ダイバーシティが不可欠なのです。

ダイバーシティによるイノベーション

企業のマネジメントという観点からすると、できるだけ均質な人々を集めたほうが効率的です。そのため、何も意識しないでいると、いつの間にか同じような価値観をもった人々が集まってしまいます。
だからこそ、「社会の流れだから」などという曖昧な理由ではなく、「イノベーションを起こし、デジタル時代を生き抜く」という明確な目的のもとに、ダイバーシティを推進することが重要なのです。

いかがでしたでしょうか。
今回は、デジタル時代を生き抜くための1つ目のポイントである“イノベーション”という観点から、ダイバーシティの重要性について考えました。
後編では、2つ目のポイントである、“カスタマーエクスピリエンス”という観点から、企業におけるダイバーシティについて考えたいと思います。