前回の記事では、“攻め”と“守り”という視点からIT活用について考え、“デジタルトランスフォーメーション”を進めるためには、“攻めのIT活用”が必要であるとご説明しました。今回は、そんな“デジタルトランスフォーメーション”を実行していくうえで、人間に何が求められるのか、経営学の視点から考えてみたいと思います。

 

継続的なイノベーションには、“知の探索”と“知の深化”が必要

企業が持続的な成長をするために欠かせないものは様々ありますが、中でも最も重要なものの1つがイノベーションです。それも一度きりで終わるのではなく、小さなものであっても、継続的にイノベーションを起こし続けていくことが求められます。とはいえ、それは決して容易なことではありません。

では、どうすれば継続的にイノベーションを起こすことができるのでしょうか。

その答えのヒントとなるのが、“知の探索”と“知の深化”という経営学の理論です。

“知の探索”とは、既存のものに別の領域のアイディアを加えるなど、知の幅を広げ、新しい商品やサービスを生み出すことや、新しいビジネスモデルを構築することなどをいいます。一方で、そうして得られた新しい知や、あるいは既存の知を深めていくことを“知の深化”といい、業務の効率化などはまさにこれにあたります。

継続的にイノベーションを起こすためには、この両者をバランスよく実行していく必要があるとされています。“知の探索”を怠っていれば、そのうちに深化させるべき知がなくなってしまいます。反対に、“知の深化”を怠って、浅い知しか手元に残らなければ、いざ新しい知と組み合わせるなどして“知の探索”を行おうとしても、何も得られなくなってしまうでしょう。ですから、どちらか一方に注力するのではなく、両者をうまく組み合わせることが、継続的なイノベーションには欠かせないのです。そして、それはやがて企業の持続的な成長へと繋がります。

知の探索+知の深化=継続的なイノベーション。企業の持続的成長

 

“デジタルトランスフォーメーション”を進めることが、“知の探索”に

しかし実際には、実行が難しく、本当に成果に結びつくのかが見えにくい“知の探索”は疎かになってしまいがちです。前回の記事でご紹介したIT投資に関する調査からも、「ビジネスモデルの変革」「商品・サービスの差別化・高付加価値化」といった“知の探索”より、「業務プロセスの効率化」といった“知の深化”に偏りがちな企業の現状が読み取れます。

では、企業が“知の探索”を行うためにはどうすればよいのでしょうか。その答えの1つが、“デジタルトランスフォーメーション”を進めて、”攻めのIT活用”に取り組むことなのです。デジタルテクノロジーという“新しい知”を、既存の商品やサービス、あるいはビジネスモデルとどう組み合わせていくのか、それによって得られる新しい価値とは何か、と”探索”する。これはまさに”攻めのIT活用”であり、そこに“イノベーション”を巻き起こせるかどうかが懸かってくるのです。

 

“知の探索”は、あくまでも人間が行うもの

しかし、ここで1つ注意したいことがあります。それは、デジタルテクノロジーを用いて“知の探索”を行う、つまり“デジタルトランスフォーメーション”を進めていくのは、あくまでも人間だということです。
デジタルテクノロジーというと、“効率化”や“自動化”など、“人間に楽をさせてくれる”というイメージを抱くかもしれません。しかし、“デジタルトランスフォーメーション”を進めるにあたって、デジタルテクノロジーはあくまでも探索すべき知の1つです。つまり、”デジタルトランスフォーメーション”はテクノロジーの進化によって勝手に進んでいくわけではなく、人間が自らの頭で考え、実行しなければならないものなのです。

 

いかがでしたでしょうか。

“デジタルテクノロジーによる変革”というと、“人間が何もしなくても、テクノロジーの進化によって勝手に何か新しいものが得られる”などと考えがちかもしれませんが、決してそうではありません。進化したテクノロジーをどう活用し、人間社会にどう役立てていくのか、それは人間が考えるべき課題なのです。

日々進化を続けるテクノロジーの力を最大限に引き出すためには、“知の深化”だけでなく、“知の探索”を絶えず行うことが必要です。”デジタルトランスフォーメーション”はまさにこの両者の取り組みを進めていくことであり、そしてそれは同時に、これからの時代において、企業が成長し続けるために求められているものなのです。